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#幸せと人外の明日を  作者: 夜風 邑
第一章 『人外の学校』
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8. 『チガウセカイニハ、イロガアッテ』


――りう。



「……」


呼びかける声がする。

のんびりと間延びした声。

聞き慣れた声。

……声の主は、静かにドアを開けた。


「だいじょうぶ?りう」


幼い声が聞こえる。

ぼやけた視界に、茶髪の癖っ毛が映った。


「はなねえ、りうがこまってる」


「そんなことないよ〜」


黒髪で、短い髪の毛も映る。

手を伸ばしても、到底届かないセカイに。


「さがだって、こまらせてるでしょ〜っ」


「あたしが?りうにいつ?」


茶髪の少女が黒髪のもっと幼い少女に諭す。

それに苛ついた口調で、諭された少女は問いを投げた。


「――」


茶髪の少女は、何も言わない。

もう、分かっていることだから。

誰もが、知っている事だから。


『常人』は『人外』になれない。

2人の姉は、いつでもその事を気にかけていた。


『常人』は力を持たない。

『常人』は魔法を使わない。

『常人』は耳が尖っていない。


『常人』は自分達が動物界の中で生きる、ほんの小さな生物だと言う事を知らない。


「『じんがい』は、『じょうじん』になれないんだよ〜、さが」


「『じーがい』?『じょーじん』?はなねえ、なにそれ。だれかの、おなまえ?」


上の姉は、小さい頃に心が全て整っている様に、意味不明な理論を呟く事が多かった様に思う。

『常人』は『人外』になれないし、『人外』も『常人』になれない。

その考えは、どの『人外』に対する考え方でも、根本にある事実。

究極的な答え。


『人外』は、人間枠の外。

人間では不可能な領域にさえ、足を踏み入れる。


例えば、魔法。

例えば、異能力。

例えば、圧倒的力。


『多様性』と言う枠の中に収まらない程、突出した『何か』を持つ。


それを、人間は恐れる。

恐れたものは、なるべく自分に被害が届かないところに追いやる。

被害が届くだけでは飽き足らず。

自らより力を持つ『人外』を見下す事で、心に無理矢理余裕を作る。


――自分は、彼らより長けているのだと。


要は、気持ちの問題なのだ。

自分自身の(はる)か先を行く存在。

その事に、『常人』は恐怖を覚える。

だから遠ざける。

また、嫉妬も覚える。

だから見下す。


「すぱいらる、ってやつだよ。ふこうのれんさがね〜、とまらないの」


「す…いら…?」


「さがも、そのうちわかるよ〜。ふこうのすぱいらる」


「はなねえ、むずかしいこと、いわない」


「わかりました〜」


『常人』がした事は、『人外』の怒りに炎をつける。

『人外』は『常人』を憎み、『常人』は更に遠ざける。

見下してゆく。

本来、『常人』と『人外』は、共に暮らすべきでは無い、と思われている様に。

両者の間には、見えない戦争が繰り広げられているから。


「あいてのことを、ぜんぶりかいするのって、むりなんだよ」


「はなねえ?」


「でもね〜、りかいするのは、むりでも〜――」


ガタン


ドアの開く音がする。

否、ドアが倒れる音がする。


「何、やってるの?華音、沙月」


「かあさん」


「ここには近寄らないでって、言ったわよね」


母は、静かに部屋を見渡した。

電気さえ付いていない部屋。

本も布団も何も無い部屋。

イロが付いていない部屋。

特段、目に付くものは無い。


「はぁ。早く外に出なさい」


「はい」


「どうして?」


沙月とは違い、反抗したのは華音だった。

彼女はしっかりと瞳を見据え、問いかける。


「どうしてって……。そう言うものなの!」


「それじゃ、なっとくできない」


「華音――」


「りうを、どうして、とじこめるの?」


「――ぁ。そ、それは……」


母の言葉が詰まった。

これを機とばかりに、せめぎ合いが続く。


「『じんがい』、だから?」


「……っ!黙りなさい!」


母の平手打ちが左頬に炸裂して、ようやく華音は黙る。

それも、目を厳しくしたままで。


自分の為に、凛雨の為に、何故そこまでするのか。

理解できない。

『常人』と『人外』の溝を抱えたまま成り立つ、木舟家を、嫌っているのか。

それとも――



事実は不明。

華音は不思議な人だった。

そして、ドアの外から漏れ出す温かいイロに、華音と沙月の応援する様な、傷を癒す様な笑顔に、凛雨は確かに救われた。

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