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#幸せと人外の明日を  作者: 夜風 邑
第一章 『人外の学校』
4/11

4.『王子様っ』


「きゃーっ♡いた〜っ!」


教室から歓声が聞こえる。

廊下から、生徒達が突進していく。

この状況の原因はただ一人。


(かい)くーん!」


「ねぇ、こっち見て!!」


「ちょっとどいて!」


「やーっ!踏まないでっ!」


押し寄せる人に潰されそうになりながら、龍斗と凛雨は教室に入る。

先程、瑠衣と別れたばかりだと言うのに、また怒涛の展開である。

溜息を吐きながら、凛雨は不満を口にした。


「今朝の二の舞をされると、幻滅もいいところだね、龍斗」


「そこで俺を見るなよ。これは俺のせいじゃねぇぞ」


「同じ様なものだ」


「お前な!」


あっさりと龍斗への不満へと転換し、ファンクラブの歓声を聞く。

それは、遠くの声や、近くにいる人達の声からもする。

こちらにも龍斗がいることに気づいたらしく、人だかりが早くも出来始めていた。


「ボクは、もう退場するよ。そろそろ、身の危険を感じるからね」


嫉妬と妬みの目で睨まれ、凛雨はあっさりと引き下がる。

龍斗に薄情者と視線で訴えられつつ、彼を囮にして逃げた。


「龍斗くん!こっち向いて〜っ♡」


「おいやめろ!近づくなっ!」


彼の訴えは通じず、ファン達の餌食になってしまう。

凛雨は遠くから見て、嘲笑と言う笑いを噛み殺した。

――高みの見物とは、まさにこれ。


「あ、あの。木舟さん!」


その声に振り向く。

震える手で肩を叩いてきた――肩を軽く触り(本人は叩いたつもりなのだろう)、急いで手を引っ込めたのは、由奈だった。


「なに?君には、凛雨で良いって言ったはずだけど?」


やや厳しめな口調で応答する。

彼女――由奈は、はいぃっ、と言った変な声を出しながらも、質問を投げかける。

人気ランキング事件から、彼女と凛雨は親しくなったいた。


「凛雨さん、宮馬(みやま)君と知り合い?」


「龍斗?いや?違うけど?」


ボクは何も知りません。

そこで偶々会っただけ。

如何にもその様に装う。

凛雨の嫌がらせに気づいたのか、龍斗の生暖かい視線を浴びた。


「あ、そうなんだ……。そ、それはごめんなさいっ!」


「君、あんまり謝らない方がいいよ」


「それは、すみま……分かりました!」


学習能力が高い様だ。

少し意地悪ながらも、二人は笑い合う。

それを恨めしそうに見つめる目。


「龍斗、ファンに解放されたわけ?」


ようやく人だからから抜け出せた様で、息を切らす龍斗に悪態をつく。


「お前、よくも無関係とか言ってくれたなあ……!」


大変お怒り。

凛雨は、あからさまにため息を吐いた。


「面倒臭そうにすんなよ!」


「君と関わるのは、疲れるんだよ」


「てめぇ……」


ご機嫌が一気に傾いた龍斗に向かい、凛雨は小さく本音を言う。


「良かったね」


「は?」


唖然とした龍斗に、ついさっき耳にしたことに対して、祝辞を述べたい。


「オリエンテーション合宿で、リーダーに選ばれたんだろ?」


「あ。って、何で、お前はそういうところの勘だけ、鋭いんだろうな」


「えへへ」


「褒めてねぇ」


嬉しそうに笑う凛雨に、龍斗は少し赤くなりながら否定する。



オリエンテーション合宿とは、高一のみ行われる合宿で、その名の通り、クラス内の親睦を深めようと言ったものだ。

10月ごろに行われる、親睦会とは別物にせよ、やる事はさほど変わらない。

そのリーダーに選ばれた者は、プログラムを考えたり、時間配分を決める役割を持つ。

当然、期待も背負うし、仕事も多くなるが、名誉がそれに値する。

そのくらい、重要な行事である。


「オリエンテーション、宮馬くん、期待しています!」


由奈は大変嬉しい様で、微笑みかける。

龍斗は普段、凛雨に見せない笑顔を見せた。


「よく見たら、龍斗って案外美男だね」


「案外ってお前……!」


「二人とも、仲良いですね……。やっぱりお知り合いなのでは……?」


再び疑問を感じたのだろう。

由奈が投げかけて来たため、あっさりと白状した。


「全然。ただ、一緒に登下校して、幼馴染で、クラスも同じだけの男子」


「へぇー。そうな――ってえ!?それって、知り合いなんじゃ……?」


由奈の混乱を解くには、随分と時間がかかった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


――「それじゃ、オリ合宿の係決めをしたいと思います。推薦や立候補、ありますか?」


教室前で騒がれていた、霜峯(しもね)(かい)が陣頭指揮を取る。

王子の言う事は何でも聞く女子。

龍斗がリーダーであり、櫂が司会の今、クラス内では緊張が漂っている。


「まず、司会係。俺は決まったけど、あともう一人、いませんか?」


女子が全員手を挙げる。

無論、全員と言っても、凛雨は挙手するつもりはない。

面倒臭そうだし、女子を敵に回すのも嫌だし。

由奈も手を挙げていない。

まぁ、由奈は櫂に興味無さそうだし、と理解する。

あと、数名くらいだろうか。手を挙げていないのは。


「私!やる気あります!」


「馬鹿!私の方があるよっ!」


「何言っちゃってんの!?私でしょ!私!」


凄いを通り越して怖い。

ここは女子の独壇場で、男子は口を挟む暇がない。


「あー……」


担任の教師も、苦笑いの始末である。


「いや、えっと」


「おい!静かにしろ!」


櫂と龍斗も協力するが、全くもって効果が無い。

いよいよ、教師の怒りの程が高まっていく。


「お前らーっ!!」


その声で、教室が静まり返った。

先程とは打って変わり、静寂が辺りを包み込む。


「よし、手をあげてない奴にする!」


「はーっ!?」


担任の鶴の一声。

全員の前で、そう宣言した。


「それじゃ、咸鬼羽。お前がやれ」


「えっ!?私!?」


女子の視線が、由奈へ向く。

それは決して哀れみではなく。

――嫉妬と牽制だった。


案の定、それに由奈が耐えられるわけがない。

断るのは、目に見えていた。


「わ、私、より、木舟さん……凛雨さんが良いと思いますっ」


「は!?」


まさかのオウム返し。

由奈の推薦は考えなかった。

凛雨も誰かを推薦しようと、目で探す。

しかし、手を挙げずにいた数人は、次は自分が推薦されまいと目を逸らした。


「じゃあ、木舟で」


「いやあの」


「よろしく、木舟さん」


あれやこれやと話が進み、気がつくと、黒板に名前が書かれていた。

女子の嫌悪が突き刺さる。

痛い……。


嫌々ながら、教壇に立つ。

視線の半分(男子)は同情、半分(女子)は反感だった。


「よかったなー、凛雨」


「うるさい。黙ってて」


龍斗の茶々にストップをかけ、櫂を見る。


龍斗よりも少しだけ白い肌。

凛とした表情からは、優しさと、あと――


「木舟さん、よろしく」


声も通っているものの、包み込む様な当たり。

まぁ、よく言う、美人顔。


「よろしく」


手短に挨拶を済ませる。

王子様と庶民は釣り合わないだろうに、と自分を卑下しつつ、今のこの状況を皮肉った。


由奈とついでに龍斗には、後で地獄が待っているとして、問題はその前にあるリーダー補佐役だ。

櫂と仕事ができなかった、ということもあり、今度は全員手を挙げないだろう。


その通りだった。

二の舞は避けたいと言う腹のもと、一気に静かになる。

空気を読まずに手をあげそうな男子を、目で牽制するほどだ。 

担任は、見かねた様に呆れ顔をした。


「今度はいないのか」


「じゃー、仕方ないな〜!私がやって――」


一人の女子が手を挙げる。

しかし、それ以前に手を挙げていた人がいた。


「私がやる」


手短に話すと、口を閉じる。

後には、唖然とした全員の顔が浮かび出した。


「え!」


「じゃあ稲嶺(いなみね)、やれ」


「――!」


それは先の話。

櫂との仕事挙手制で、手を挙げなかった人物だった。

凛雨もよくは知らないものの、名前くらいは聞いたことがある。

稲嶺(いなみね)千隼(ちはや)

存在感がなさすぎて、逆に覚えられている。


その千隼が立候補とは、珍しいこともあるものだ。

入学してから早一ヶ月。

そんな姿は、一度も見たことがなかった。


「い、稲嶺さん!本当にやりたい!?」


「無理しなくても良いんだよ!?」


「無理してない。やるから」


「――!!」


無理矢理過ぎる女子の懇願を、千隼はあっさり切り捨てる。

凛雨はそんな彼女を見て、少しだけ呆れて息を吐いた。



――かくして、司会 : 霜峯櫂・木舟凛雨

       リーダー : 宮馬龍斗

       リーダー補佐 : 稲嶺千隼

と言う黒板の字が、並べられたのである。

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