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#幸せと人外の明日を  作者: 夜風 邑
第一章 『人外の学校』
2/11

2.『最下位』


――「何位?」


「58位かなー」


モダン風の廊下を歩いていると、黄色い悲鳴や、落胆きた声が聞こえる。

なぜなら――


「人気ランキングってさ、そんな高校生になってもするかなぁ」


学校の一大イベントの一つ!と囁かれるほどの、大規模。

いや実際、非公式だし、見つかったらまずいんだけど、と言いそうになる。


しかも、ずる賢いことに、教師に見つからないよう、ロッカーのドアの内側に順位が張り出されている。

それが、とても迷惑。

つまり、張られている、ということは、張る人がいるということだ。


それが、なぜ迷惑かと言うと……


「最下位の張り紙知ってる人ー!」


知っている人は、最下位を知っていると言うことだ。

本当にややこしいのである。


「あ、俺知ってるー!」


「たしか、こいつ!」


それに男子が知っている。

人気ランキングは、主に男子が投票者。

理不尽なことに、殆どの場合、美人な人が上位に立つ。

一学年250人の生徒の中で、最下位の者は当然蔑まれる。


外よりはましだけど。

その蔑みも、一ヶ月で飽きられるし。


そんな無意味な投票なのだが、顔が良い生徒が投票されているに違いないだろう。

無論、特殊例はある。

例えば――


「はあっ!?」


そう。

五大王子が投票した場合。


その他の男子は、その投票に引っ張られ、上位に上がる。

まあ何と、公平性に欠けるものだろうか。


だが、それよりも重要なことがある。


凛雨が……


「龍斗、ボクに投票した?」


隣の彼に声をかける。


「してねぇ」


「絶対うそ!」


凛雨がロッカーを開けた先に待ち受けた数字は、16位。


「ボクがこの順位なんて、ある訳ないだろ!」


「さぁ?」


「去年は106位だったんだぞ!?」


「昇進おめでとさん」


「おい!」


永遠にループしそうな展開。

少しだけ手に力を込める。

サイコキネシスで先程は割れた花瓶を使ったから、次は――と、思い立つ。


しかし、それは不発に終わった。

その理由は、ロッカーを見たクラスメイトにあった。


「さ、最下位……」


自分から言ったら自殺行為でしょ、とは言えない。


「あら、咸鬼羽(みなきう)さん!最下位だったのー?」


「かわいそ〜!」


「あ……」


彼女――咸鬼羽由奈(ゆな)は、目を伏せる。

それが、いかにも不憫だった。


由奈の周りに立つ生徒は二人。

猫耳の『亜人』と、クラスのボス的存在、『魔法使い』だった。


「きゃーっ!莉々も同情しちゃ〜う!」


「あらあら!可哀想ねぇ」


煽り立てるのは、『亜人』であり、猫耳を持つ相林(いいばやし)莉々(りり)と、『魔法使い』の羽瀬川(はせがわ) 美来(みくる)

俗に言う、いじめっ子、と言うやつだ。


由奈は、顔を下に向ける。

莉々と美来は、それを嘲笑うように見る。


その顔が、今朝の使用人の顔と重なって。


「やめなよ、醜い」


さすがに夢見が悪くなって来た。

凛雨は止めに入る。

目立ちたくないのに、と内心思いながらも、由奈を庇って仁王立ちになる。


どこの学校でも、虐めとは醜いものだ。

だが、それは莉々達のご機嫌を損ねたようだ。


「えーっ!?凛雨ちゃんひど〜い!莉々は本心を言っただけだよお〜!」


「あんた、何様なのよ?」


二体一とは、何と卑怯だろうか。

凛雨は臨戦態勢になる。


「私は38位。偉そうに言うんじゃないわ!」


順位でものを言わせるとは、何と浅はかな。


「ボク、16位だけど?」


ロッカーに張ってあった紙を見せる。

その途端、二人の顔色が変わった。


「嘘お!あり得ないよお!」


「あり得るんだけど」


「ぐっ」


それ以上は何も言って来ず、すごすごと引き下がる。

大分騒ぎになったものの、大方片付いたと言った感じだ。


「大変だっただろう?大丈夫かい?」


「あ、ありがと……!えと、木舟さん……?」


「凛雨で良いよ。由奈」


「うぉぉお!すげぇ!」


「木舟さんかっこい〜!」


芽生えた友情に、周りが拍手を送る。

その中に龍斗がいたことに、物凄い不満を覚えるのは何故だろう。


凛雨は顔を少しだけ赤らめた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆☆☆☆★☆☆☆


「はーっ。目立ちたくなかったのに……」


「お前、典型的な陰キャ派だよなー」


教室へ向かう傍ら、彼女の愚痴を聞いている、と言うのが良いだろう。

肩を落とす凛雨の側で、龍斗がしみじみと呟いた。


「はー、しかし。順位をひけらかすとはな。意外」


「元々、君が発端じゃないか。ボクが陽キャではないと、知ってるくせに」


恨言を口にする彼女に、龍斗はからかい顔を向ける。

それはさらに、凛雨の逆鱗に触れたようで、随分とお怒りになった。


「大体、サイコキネシスでも使えばよかった」


「それはそれで、目立ってただろ」


「遠隔操作できるだろう?」


そもそも、人気ランキングなんて、なければ良かったのだ。

邪推していると、階段に差し掛かる。


「そんな怒るなよ」


「君に対して、怒りマークが出そうだよ」


大変お怒り。

ぷりぷりと怒る凛雨は、下へ降りる階段へと足をかけた。


「おい、凛雨、危な――」


そして、一段。


階段を踏み外した。



「えっ」


「あ、凛雨!!」


龍斗が叫んだ時には時、既に遅し。

空中に放り出される。

あ、と言う間も無く、くるくるくると舞っていく。

下向きの階段により、地面に激突しそうになる。


「ひゃあっ!」


投げ飛ばされて、投げ飛ばされて。


地面まで、後2メートル。

1.5メートル。

1メートル。


「嫌ぁ!」


「人が落ちて来てる!!」


「誰か!」


皆、遠くに下がるだけで、離れていく。

サイコキネシスを使うにはスピードがあり過ぎるし。

終わりかな、と思った時。



トスン


「ナイスキャッチ!」


悲鳴が上がるのと同時に、誰かに抱きかかえられた。


「おっ、お姫様抱っこ!?」


130センチ位の、小柄な体。

その腕に、凛雨は抱き止められていた。


「もー!りゅうも見てなきゃ駄目じゃーん!」


ふわふわな、凛雨より明るめな茶髪。

つぶらな瞳で、見つめられる。


「ふぇ」


「ねぇ、りうりうだっけ?」


幼い顔立ちから出る、純真無垢な声。

驚きと安堵で口が塞がれる。


もしや、この子。

本当に男子生徒か、と思わせる顔立ち。

優しげに笑う顔。

本当に、まさか。


「君が、りゅうのお姫様?」


――五大王子の一人!?

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