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#幸せと人外の明日を  作者: 夜風 邑
第一章 『人外の学校』
11/11

11. 『オリエンテーション1日目・【違い】』


「凛雨さんっ!だ、大活躍でしたね……って、わわっ!」


「由奈、目は覚めたのかい?」


「ひゃ、ひゃい!なんひょか、ぶひぃに、めふぁ、さまひぃまひぃたあ」


「通訳」


千隼に頬を両手で挟まれ、動けない状態の由奈。

彼女の通訳を、稲嶺千隼に依頼する。

一瞬、戸惑いを見せた彼女だったが、即座に返答へと身を翻した。


「受けてやる。『は、はい!何とか、無事に、目は、覚ましましたあ』、だ」


「満点」


フルスコアを挙げた凛雨。

それを肯定するかの様に、当然だ、と千隼は自慢げに胸を張る。

それをまだ頬を挟まれたまま、傍観していた由奈は、あっ、もしや!と声を張り上げた。


「あっ、もしや!」


「いや、今、そのくだりやったから。次どうぞ」


「こ、此処って、一流旅館じゃ無いですかっ!自由時間ですし、探検しませんか!?」


そう。

此処は旅館『ゆり』。

凛雨達の合宿の宿泊地である。


――バス車内に侵入した『魔獣』を倒し、凛雨達一行は、かくかくしかじかで、この旅館に滞在している。

女子3人部屋。

ベッドは一人一つずつ。

丁度良いのか違うのか。

和風で落ち着いた室内とは異なり、各々の言動はかなり斜め上の所にある。

何故なら――


「りうりうっ!久しぶり!!僕、会えなくて寂しかった〜!」


ドアが開かれ、小柄な体が宙を舞った。

凛雨に抱き付く小さい体を受け止める。

凛雨より明るい茶髪に、青色の瞳。

五大王子の一人――夕凪瑠衣。


「夕凪!何故、此処にいる?」


「瑠衣、久しぶりと言う程でも無いと思うよ。10日前、ボクと会ったばかりだろう?」


「わっ、わっ!ご、五大王子の方が、こんな所に……っ」


驚く千隼、訂正する凛雨、パニックに陥る由奈。

それぞれにリアクションを取りながら、瑠衣を取り囲んだ。


「それで、状況は?」


凛雨が尋ねると、彼はあっさりと白状する。


「ん。宿泊期間は変更無し。キャンドルサービスもあるよーっ!りうりう、一緒にキャンドル持とう?」


「嫌だ」


そんな会話はさておき。

『魔獣』騒動の後、凛雨達の宿泊日程に然程影響は無かった。

合宿に影響が無い点、生徒達にそれと言って重傷者は出なかった点、『魔獣』が今、何処にいるか分からぬ状況で動くより、救助を待った方が良い点。

この様な理由からだ。

騒動の後、由奈が深い眠りについた事は、知らぬふりを。


『魔獣』は逃したものの、蓮笹のスパイが情報を操作、この高校が『人外学校』と言う事実の漏洩を防いだ。

『人外』は、暗黙の了解の措置を得ているが、表面上に出れば無事と言う保証は無い。

その様な事を踏まえ、蓮笹以外の『人外』を受け入れる、『人外学校』には普通にスパイがいる。

『人間』側に、弱点を悟られる事を防ぐ為である。

弱点を握られれば、例に挙げると、今回の様な『魔獣』の様な事件を知られれば、学校は勿論、生徒達も危うい立場となる。

その様な事態を防ぐのがスパイ。

そして、それもまた、『人外』である――。


「救助、大きな木が倒れちゃって、結構遅れるんだって!だから、日程変更が無いらしいよ〜っ」


「そ、そうなんですか……。それは、す、少し心配ですね……」


「救助が来ないから続けるなんて、随分と大袈裟な話だな」


「まあ、無くなるよりはマシでしょ」


瑠衣の説明の、千隼達の反応は様々だ。

心配する、疑問に思う、ポジティブに捉える。

それぞれの思う事も、また違う。


「ボクらが合宿を続けるかは別として、注意を払う必要があるのも事実だ。アストラルに釣られて、また『魔獣』が襲ってこないとも限らない」


「あれ……。アストラルって、何でしたっけ?」


「――」


4人の間に沈黙。

由奈の質問に、周りの空気が凍り付いた。

凛雨がゆっくりと口を開いたのは、それから数十秒後の事。


「授業で習ったはずだけど……?確か昨日」


「ぅ」


小さな呻き声。

由奈が顔を赤くし、俯いている最中だった。

肩をすくめた凛雨と千隼は、交互に説明を重ねる。


「ボクらには……って『人間』も含めるけど、アストラルと言う物体が備わっている。アストラルは、謂わゆる生命力だ」


「ワタシ達の目には見えない。アストラルは四次元にあるからだ。誰だろうと、四次元を左右できない限り、アストラルを操ることはできない」


「『人外』と『人間』の決定的な違いは、アストラルの色だ。『人外』はアストラルの色が付いているが、『人間』は透明だ。形もまた違うんだよ。そもそもの話、性質も全く異なる」


そこまで説明をし終えると、隣から瑠衣も参戦、説明に加わった。


「僕達の魔法はね、外気のエーテルと内気の『人外』のアストラルが衝突して出来るんだよっ!エーテルは自然に取り込んでるでしょ?」


「エーテルは3.5次元にある筈だよ」


纏めると、アストラルとは、四次元にありつつ、自らの中に備わる内気であり生命力。

『人間』と『人外』の根本的な違いだ。

また、エーテルと言う3.5次元の空間を漂うモノを吸収し、『人外』の特殊なアストラルと衝突させる事で魔法や異能力、亜人などの形態が行われるのだ。

そして面倒な事に、アストラルとエーテルの衝突は避けられない。


「要はさ、ボク達は『人間』にはなれない。根本的な事が違うんだから。エーテルは『人間』のアストラルと衝突しても特殊反応を起こさない。起こさないのが普通なのか、起こすのが普通なのか。考えさせられるよね」


「そ、そんなの……!アストラルの違いだなんて、個性の一種じゃないですか!」


「そうだ。だが、それが及ぼす影響が多大すぎる。――で、理解したか?」


「あ、はい!ありがとうございます!!」


アストラルについての講義が終わったところで、由奈の兼ねてよりの提案を採用する。

旅館の探検だ。


「それじゃ、探検行く?」


「わ!やったっ!」


「僕も行く〜!」


「そうだな」


一致団結した4人は早い。

千隼は貴重品を詰め、由奈は旅館のスリッパを用意、凛雨は部屋の鍵を持って、瑠衣は各々の靴を片付ける。


「早く行きましょう!楽しみです!!」


由奈は、先程の重い空気を払う様に笑った。

それに凛雨も鼓舞される。


『人外』は『人間』では無い。

髪の色などの見た目も異なり、能力も異なる。

それでも、差別される理由は無いのだと。


「そうだね」


返答した時の凛雨の顔は、どの様なものだっただろうか。

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