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#幸せと人外の明日を  作者: 夜風 邑
第一章 『人外の学校』
1/11

1. 『まほう』


――「失礼します。お嬢様」


ドアを叩く音がする。

冷たい音が響いて、目が覚めた。


「ご朝食をお運びしました」


本当は嫌々なくせに、と悪態をつく。

日差しの降る部屋では、それさえも呑み込まれそうだった。


「お支度をなさって下さい」


冷たい指示に、嫌気が指す。

使用人らしい、スケジュール管理。

ベッドから飛び起きて、制服に手をかけた。


凛雨(りう)様。お早くなさって」


凛雨は肩に付くくらいしかない、茶髪を撫でる。

「ボクにだって、怠い朝くらいあるよ?」


制服のラインに触れる。

朝のひんやりとした感覚が、指先を襲った。


余程気に食わないのか、使用人は口を挟む。

早くしろと急かす。


龍斗(りゅうと)様がお待ちです」



★☆☆☆★☆☆☆☆☆☆★☆☆☆★★☆☆☆☆☆☆★☆☆☆


「――それの、何が気に食わねぇんだよ」


「だって、酷いと思わないか?」


凛雨の愚痴を懸命に聞いてくれるのは、幼馴染の龍斗だった。

学校の5大王子の一人で、大変な人気者である。

――正直、目立ちたくないので、一緒に登校するのは拒否したいところだが。


「んなこと言ったて……凛雨――ボクっ子」


「言うなよ。それ、ボクでも治らないんだ」


凛雨は、一応女子である身。

龍斗はからかいこそするものの、それ以上追求はして来ない。


「とにかく!酷いだろう?急かす様に言ってさ」


「お前の家が羨ましいよ!態々、俺を迎えに行かせるほどだからなあ!」


凛雨の両親は、まぁギリギリ上級家庭、と言われる身だ。

そうでなければ、授業料諸々高い、蓮笹(れんしす)高校には行かせない。


因みに、凛雨の姉である華音(はなね)とは、大学で青春を謳歌している真っ只中。

しかし彼女は、蓮笹高校が母校ではない。


次姉も、蓮笹高校とは別の高校の3年生である。

こちらも、人外では無いためだ。


「別に、向かいに来なくても良いんだよ。大変だろう?――目立つのやだし」


「今、最後にさらっと本音出たな」


「うるさいよ」


凛雨は鞄を持ち直す。

そして、去年の次姉の言葉を思い出した。



――「良かったわね、合格できて。姉さんも第一志望校受かってたから、間違いなく姉さん似!さすが私の妹だわ!」



心から喜んでくれた。

無論、次姉だけではない。

母も、父も、もう1人の姉、華音も、祖父も祖母も喜んでくれた。


「お前が学校行く時、親とじゃ行きにくいから、俺がいるんだろうが。気遣いすげぇな。凛雨の親」


普通の家庭では考えられない待遇。

考えられない配慮。

そう。

凛雨は恵まれている。


「ま、使用人には、毎度嫌な目をされるけれどね」


「贅沢言うな」


「だけど、母さん達がいつも激怒してるから、最近は露骨に嫌がられることは無くなったかな」


凛雨や龍斗の事情を知っているものは、いつも嫌な目をする。

じとっ、と湿っていて、それでいて乾いた様な目つき。

見るだけで、恐ろしくなる目つき。


「幸せ者だな」


「うん。幸せ!」


勢いよく即答する。

笑顔が眩しく朝日に輝く。

そう、美しいものに見えるだろう。


「そっか」

溜息を吐いた彼は、少し沈んで見えた。


「龍斗、大丈――」


不味いことを言ったかと、手を差し伸べる。

しかしその手は、別の誰かの手に阻まれた。


「いやーん♡龍斗く〜ん!何で他の人と来てるのよ〜っ」


「きゃーっ♡こっち向いて〜!!」


「かっこいいー!!」


どすん、と突き飛ばされた凛雨。

そしてファンクラブに押し潰されそうな、龍斗を恨めしげに見る。


「龍斗先輩!今日どこに行くんですか!?」


「ねぇねぇ!こっち見て!」


「やだ!あんた、退きなさいよっ!」


「嫌です!」


内輪揉め状態のファンクラブ『RYU』。

ご覧の通り、龍斗のファンクラブである。


「放り出された、ボクの事は無視なのか」


凛雨は半ば諦めた様に落胆。

そうだ、もうすぐ校門だったと思い立つ。

何とか凛雨との登校が噂になる前に、止めなくてはと思いつつも、ファンクラブの推しについて行けない。


「あ、えっと……」


「私!お弁当作ってきたの!」


「あの……」


「駄目!私の食べて!」


Loseという文字が、頭の中に浮かぶ。

軽く俯いた彼女に、飛んできた紙袋が当たった。

更に、一人の女子生徒が凛雨にぶつかり、凛雨は倒れる。


その途端、堪忍袋の緒が切れた。

タイミングを見計らう。


バリン


「うわ!?」


「キャーッ!」


龍斗が飛躍して屋根に飛んだ瞬間、ガラスの破片がファンを襲った。

鋭利な武器は、大きく上昇し、不自然に落ちる。

跡には、ファン達の怒声や悲鳴が聞こえた。


「ちょっと!魔法使ったの誰!?」


「指切ったぁ!」


「これ!サイコキネシスじゃない!?これ使うのって――」


全員が凛雨の方を向く。



「「「木舟(きふね)さ〜んッ!!」」」



木舟凛雨は、やってしまったと膝をついた。


★☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「やってしまった……」


「そんな落ち込むなっての。魔法使ったくらいで」


「それが嫌なんじゃないか……!はぁ」


凛雨は酷く肩を落とす。

もう昼頃だというのに、その気持ちは一向に収まらない。


「ボクが『魔法使い』じゃなきゃ良かったよ」



凛雨は、魔法使いである。

魔女といった方が良いのかもしれないが、『魔法使い』と称しておこう。


何せ、『魔法使い』は、彼女一人ではないからだ。



「氷の飛礫飛ばすなぁ!」


「わっ!水降ってきた!」


「綺麗〜。お花がどんどん育ってる〜♫」


『魔法使い』は、学校中にいる。

それこそ、『魔法』という名の異能力を使った人間は、どこにでも。


他にも、異常な程の身体能力、『亜人』の様な姿、『人外』の姿を持ち合わせている者しか、この学校に通えない。

例え、入試で合格出来ても、その様な能力を持ち合わせていなければ不合格。


その為、頭の良い者でも落ちる程の難関校。

と、呼ばれている。

しかしながら、勿論、ある程度の学力は必要となるにせよ、『人外』はかなり入りやすい。



古くから『人外』は蔑まれ、いたぶられてきた。

『魔女』は悪者に仕立て上げられ、『亜人』は孤独に追いやられた。

『エルフ』は虫の類だと疎まれ、身体能力を持つ者は迫害された。


それは、今でも変わらない。



「何て子!」


「近寄らないで!」


「嫌ぁぁっ!来ないで!」


「お前なんか要らない」


そんな言葉ばかり浴びせられた。

耳を塞ぎたくなる様な罵声を、浴びせられた。


――でも、ここでは違う。


例え、使用人が気味悪がろうと、親が疎もうと、ここでは関係無い。

ここは――



『人外』専門の学校。



姉が行かなかったのも、『人外』ではなかったからだ。

『人外』の素質に、血縁は関係無い。


酷く、悪質な作り話に騙され、皆、血縁を怯えているだけだ。

でも、だからこそ。


一番分かって欲しい家族に、親に、兄弟に、分かってもらえないことがある。

それは、非常に辛く、悲しいこと。

凛雨も、何度も見てきた世界。


それでも。

ここにいる間は、皆、ただの『人』。

それが、蓮笹高校。


――『人外』の楽園。


龍斗は先に教室へ向かう。

見計った様に現れたのは――



「木舟さん!朝、龍斗君と来てたのは、どういうこと!?」


「やだ!一緒に登校したの!?」


「ファンクラブのルールを守ってもらうって、約束したわよね!?」


いや、してないんだけど、とは言えない。

カースト制度、と言っては何だが、ここも普通の高校と変わらない。

こういう人は、クラスに一人か二人、多いところでは十数人いるものだ。

面倒臭い女子No.1に選ばれそうなものだが。

凛雨は目を逸らす。


こういう時の対策――無視!!


クラスのあるあるだ。

こんな女子達は異様に目立ちたがる。

なくせに、教師の前だけは声が小さくなるという、大変要領がいい。


だから、無視をすれば良い。

別に、特段、何か起こるという訳でもないのだ。


「ちょっと!聞いてるの!?」


「ひど〜い!無視したぁ!」


「せんせーい!いじめですぅ〜!」


そんな、小学生じゃあるまいし、と思う。

――小学生でも、こんな幼稚なことしないぞ?

と思う。


「ボクは、偶々龍斗と会って、そのまま来ただけだ。特別、何かが起こった訳では無いよ」


仕方なく説明。



――無視作戦が、通用しないこともあるのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「人外専門の学校」「魔法使い」……設定がとても素敵でした! 人外と呼ばれ気味悪がられてしまうこと、家族にも分かってもらえないこと。この世界は人外として生きるには難しい世界。でも、「人外」…
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