13.森のほとりでティータイム
雨が降っていた。風が吹く度に、ざあという音が波の様に通り過ぎて行く。
しかし雨を喜ぶ草木の姿はない。砂と岩とが、激しい雨に打たれてもじっと黙っているばかりだ。あるいはざあざあというのは彼らの悲鳴だろうか。
誰かが歩いていた。背は小さい。灰色の雨除けのマントを羽織って、フードを深くかぶっている。しかしサイズが大き過ぎるらしく、裾は地面を引きずっていた。
小さな影がいるのは、元々は村があったと思しき所だった。朽ちて潰れかけた民家があちこちにあり、道端には石垣が積まれ、その上にはかつて畑だったと思しき平地が広がっている。
その村外れに小さな祠があった。土地の神を祀った素朴な祠だ。
だが、その祠の裏に回ると、地下へと続く隠し扉がある。誰かが出入りしているのか、頻繁に開け閉めされた跡があった。
フードの人物は周囲を見回すと、素早く入り口を開けて中に入った。入ると狭い階段になっていた。壁から小さな黄輝石が突き出していて、それがわずかな照明になっている。
雨が落ちて来なくなったから、フードを取った。
幼い少女の顔が現れた。赤みがかった茶色い髪の毛を大雑把に束ねている。八、九歳といったところだ。しかし表情には年相応の無邪気さは感じられず、むしろ油断のならない老獪さをたたえていた。
少女は階段を降り、その先の鉄の扉を押し開けた。
中は何かの研究室の様だった。それなりに広く、天井の黄輝石の照明が、部屋の中を淡く照らしている。
フラスコやビーカーが棚に並び、人間がすっぽり入れるくらいのカプセルと、奇妙な魔術式の刻まれた機械が壁際に鎮座していた。壁や床、天井はつるつるした素材で造られており、外観の無骨さからは想像も出来ない洗練された様相である。
しかしそれらの設備は、今ではほとんど使われていない様子だ。
実験装置らしきものは埃をかぶり、機械類の上には少女のものらしい服が干されている。壁際に藁を積み上げて上に布を敷いた寝床があって、その周囲には武器や本などが雑多に置かれていた。
少女は外套を脱いで、入り口近くの壁にかけた。水がぽたぽたと垂れる。
「さむっ」
と言って、少女は寝床の方へぽてぽてと歩いて行った。そうして干してあった上着を一枚、乱雑に羽織って部屋の奥へと向かう。
部屋の奥にはまた別の扉があった。その向こうには同じような研究施設になっていたが、そこも少女に色々といじくられているらしかった。
奥の部屋は蒼輝石で青白く照らされていた。棚に並べられたプランターから、種々の茸がにょきにょきと生えている。苔の様なものもあった。
「久々の雨じゃわ」
少女は呟きながら、懐から淡く光る丸いものを取り出した。現世喰のエネルギーらしい。それを解放して、茸や苔へと振りかけた。
それから部屋の隅の方に行く。そこは天井が壊れかけているのか、地上で降る雨がしみて来ているらしかった。
少女はその水を霧吹きらしいのに入れて、茸や苔に吹き付けた。
「これでまたしばらく持つわい」
そうして、特に大きく育っているのを数本収穫した。それを持って前の部屋に戻る。
実験器具らしいのの中に魔力式の焜炉があって、少女はそれで薄切りにした茸を炙った。じゅうじゅうと香ばしい音がする。品種改良された特殊な茸らしく、肉汁の様な脂の濃い汁が滴っていた。
隣では、鍋で乾いた苔を煎じていた。お湯が薄茶色に染まっている。お茶の類らしい。
少女は茸を頬張り、苔茶を飲んだ。満足そうな表情をしている。
やがて腹がくちくなったのか、寝床に腰かけて壁に背をもたせる。そうして近場に放ってあった本を手に取った。折り目で目印をつけたページをじっくりと眺める。果物やナッツを練り込んだケーキの作り方が、絵と一緒に書いてある。料理の本らしい。
「まだ帰って来んのかのー。ケーキ、また作ってくれるって約束したんじゃがのー」
そう呟いて、寝床にごろりと横になった。また大きな欠伸をした。
〇
魔姫たちが魔王谷へと居を移して十日ばかり経った。
城塞都市とは何もかもが違う環境に、最初は何となく浮足立った様子だった魔姫たちも少しずつ生活に慣れ、自分がここで何をするべきか模索する段階に来つつあった。
ホネボーンを伴って森の際に立ったアクナバサクは、外側に広がる荒野を見て腕組みした。
「さて、ここからさらに森を広げて行こうというわけなのだが」
「はあ」
「自然に広がってもいるんだよね?」
「そうです」
「しかしやっぱり植樹を行った方がその速度は増す、と」
「そうです」
「あの廃都市でゲットしたエネルギーを使えば、効率はさらにいいだろうと」
「そうです」
「しかし、どれくらい広げたら渦潮暗いの生息場所とかち合うだろうね?」
「現世喰です。まあ、しばらくは大丈夫だと思いますが、何分あれの生態もまだよく解りませんからね。変異をしている様ですし、警戒するに越した事はないでしょう」
「魔姫たちが来てくれてよかったよなあ」
「はあ」
「けどこれだけ広がってると、外から襲撃があった時に駆けつけるのが大変じゃないか?」
「そうですね」
「何か対策がないものだろうか?」
「現在領内の転移装置を開発中です」
「マジか」
「マジです。王様に造ってもらった魔石柱を利用しようと思っています。場合によってはもう何本か立てていただく事になるかと」
「おお、それくらいお安い御用だ。転移装置が出来ると楽でいいな」
「まあそうすぐに出来るものじゃありませんが、シャウラが少し魔法の知識があります。あれに勉強させて手伝わせる予定です」
「なんだ、いつの間にか仲良しになってんじゃん」
「そうでもありません」
「照れるなって。でものろけるなら気をつけろよ。壁にミミャーリ、障子にメアリーっていうからな」
「野外ですから壁も障子もありませんが」
「うん……けどあの子らは皆いい子だネ。最初はちょっとテンパってたけど、今は割と落ち着いて来てるし。ちびっこどもはわたしに甘える様になったし」
「はあ」
「ともかく一旦戻ろうかね」
それで二人は連れ立って谷の奥に戻った。
畑を開墾した辺りに苗木畑もあって、種々の若木が枝葉を伸ばしている。どの木も元気いっぱいで、日の光を燦燦と浴びて気持ちよさそうだ。
アクナバサクたちが行くと、丁度魔姫たちがナエユミエナに教わりながら、苗木を移植の為に掘り返している最中であった。畑妖精や精霊たちもうろうろしている。
「あっ、王様、お帰りなさい」
アルゲディがぽてぽてと駆け寄って来た。肩には野ネズミが乗っている。ネズミは小鳥の羽根で作ったらしい頭飾りをつけていた。
「おう、ただいま。進んでる?」
「うん、こっちはシイの木で、こっちが山栗で」
掘り上げた苗木の、根と枝とを整理したものが、十本ずつ束ねて並べられている。根の部分はたらいの水に浸けられていた。
「いいね! これなら明日中には新しく植樹が始められそうだぞ」
「こんなに木が植えられるなんて、なんだか夢みたいだね……」
とハクヨウが汗を拭き拭き言った。グリーゼが頷く。
「都市じゃ畑も満足にできなかったからな。自然って、取り戻せるものなんだなあ」
「ま、厳密には元の形とはちがうんだろうがね。しかし自然は形を変えるものだ。壊しさえしなけりゃ何とかなるもんだ。ささ、ナエちゃん、お茶にしようぜ。それから明日の作業の打合せするから」
「はぁい」
野外に持ち出せる小さな焜炉があって、そこでお湯を沸かす。薬缶がしゅうしゅうと湯気を吹く度に、羽を生やした小さな妖精たちが面白そうにきゃっきゃとはしゃいだ。
夏が終わろうとしていた。森の木々は緑色を少しずつ褪せさせ、赤や黄に染まる気配を持っているものもある。
空は青い。秋口の空は抜ける様に高く、形のくっきりした雲が流れている。日差しは柔らかくなったが、風はまだ冷たくはなっていない。すごしやすい陽気である。
まもなくお茶が入った。乾かした茶葉に、取ったばかりの香草を混ぜ込んだものである。
鼻に抜ける爽やかな香りがして、一口飲むだけで胸が透く様だ。
「おいしい。ナエさんはお茶を淹れるのが上手だね」
とハクヨウが言うと、シャウラがふんすと鼻を鳴らした。
「こ、これはわたしが、い、淹れたやつ」
「え、そうなのか? そう言われるとそれほどでも……」
とグリーゼが冗談めかして言うと、シャウラは頬を膨らました。
「ぐ、グリーゼは、すす、すぐ、いじわる言う……」
「ごめんごめん。ちゃんとおいしいから安心しろ」
むくれているシャウラを見て、魔姫たちはくすくす笑う。ナエユミエナもにこにこしている。
「シャウラちゃん、上手になったんですよぉ? お茶っ葉の配合が大事なんです。生葉と乾燥葉の」
「へえ……わたしも今度教わろうかな」
「グリーゼには、む、無理でしょ。らら、乱暴だもん」
さっきのお返しとばかりにシャウラが言った。グリーゼは口を尖らしてシャウラを小突いた。ハクヨウたち魔姫がけらけらと笑う。
前までは心に余裕がなかったせいで、こんなふざけ合いすら滅多に出来なかった。それが今は事ある毎にじゃれ合ったり軽口を叩き合ったりと、笑顔が絶えない。
ナエユミエナが焼いたお菓子をつまみながら、一同は談笑し、ふざけ合った。小さな妖精たちがお菓子をひょいひょいと抱えて持って行く。
アクナバサクは地面にあぐらをかいて座っている。アルゲディとキシュクが、アクナバサクに寄り添って髪の毛を触ったり後ろから抱き付いたりしている。最初は遠慮がちだった幼い魔姫二人も、今ではすっかりアクナバサクに懐いて甘える様になっていた。
「王様は森のにおいがするね」とアルゲディが言った。
「えっ、そう?」
「爽やかなにおいがしやがるです」
「自分のにおいは自分じゃ解らないけど、そうかな」
「うん、すごくいいの」
「だってさ。どうだホネボーン。アクナちゃんはいいにおいなんだってさ!」
「今飲んだお茶のにおいでしょう」
とホネボーンは素っ気ない。アルゲディがわたわたとフォローする様に口を開いた。
「そ、それにね、抱き付くと柔らかくて、すべすべしてて、好き」
「ほっぺがぷにぷにですもんね」
「へえー、自信作だとは思っていたけど、この体は中々上出来だという事だネ。がははは、近う寄れ。可愛がってやろうぞ」
とアクナバサクは二人を両脇に侍らせて笑っている。暴君を気取っているらしい。
ハクヨウが何となくむずむずした様子でそれを見ていた。グリーゼがそんなハクヨウの顔を覗き込む。
「……羨ましいのか?」
「えっ!? い、いや、別に……」
「ど、どっちを羨ましがってる、の?」
とシャウラまで来た。ハクヨウは慌てた様に手を振る。
「羨ましくなんかないってば!」
「そうかな?」
「は、は、ハクヨウは甘えたいの? そ、それとも甘えられたい?」
「だから違うってば!」
とハクヨウは必死になって否定している。キシュクがくすくす笑った。
「初代様、なんか可愛くなりやがったですね」
「ね。王様、ハクヨウ姉さんも甘えさせてあげたら?」
「こ、こら! お前たちまで……」
と慌てるハクヨウの方を向いて、アクナバサクは両腕を広げた。
「いいとも。でも甘えるのはそう甘いもんじゃねえぞ。全力で来いや!」
「……わ、解った! えいっ!」
「ぐおっ!」
思い切り抱き付いたハクヨウに押し倒される形でアクナバサクはひっくり返った。見ていた皆がけらけら笑う。ハクヨウは真っ赤になってぱっと離れた。
「ごっ、ごめん!」
「くそう、奇襲とは恐れ入ったぞ。このアクナちゃんに地を舐めさせるとはハクヨウ、恐ろしい子! はい、今度はわたしのターン!」
「え、あ、えっと、わわ」
アクナバサクはハクヨウを抱き寄せてよしよしと頭を撫でた。
ハクヨウは俯き気味に、しかし頬を染めてもじもじしている。ハクヨウの方が体は大きいのに、アクナバサクに撫でられているのは不思議な光景だ。
第一世代であり、実力も高い事もあって、ハクヨウは城塞都市における魔姫たちの精神的支柱だった。体を壊して前線に立つ数が減ってもそれは変わらなかった。
体を壊してからも、勿論労わられてはいたが、ハクヨウ自身も妹の様な魔姫たちの支えとなるべく気丈に振舞っていた。武闘派で生真面目なグリーゼでさえ、ハクヨウの前では弱さを見せた。それを受け入れるのが当然だとハクヨウは思っていた。
しかし今、こうやってすっかり元気になり、戦いの場から遠ざかってみれば、何だか気が抜けてしまう様だった。張り詰めていた心が緩むと、頼られるよりも誰かに弱い自分を知ってもらいたい様な気分だ。
ここにはアクナバサクがいる。
自分よりも幼い容姿だし、内面も頼り甲斐があるかといえばそういうわけでもないが、魂にある魔王の因子のせいなのか、より大きな魔王の力を持つ者に不思議と安心感を覚える様だ。
(実際、助けてもらったわけだしな……)
とハクヨウはもそもそと身じろぎする。
まだ生み出されたばかりの頃、こんな風に抱きしめてくれた誰かがいた様な気がする。もう百年近く前の話だから、名前は勿論、顔さえ満足に思い出せない。
うとうとと目を閉じかけているハクヨウを見て、アクナバサクがおやという顔をした。
「眠い?」
「んっ、あ、ううん」
ハクヨウは慌てて体を起こした。しょぼしょぼする目をこする。すっかり眠気にやられていた。陽気のせいかアクナバサクのせいか。
ホネボーンが呆れた様に言った。
「もういいですか。そろそろ作業工程の確認をしたいのですが」
「あっ、はい」
ハクヨウたち魔姫は姿勢を正した。
王であるアクナバサクは呆れるほど気さくでちっとも怖くないけれど、この骨はいつまで経っても素っ気ないのでちょっと怖いのである。
「植樹や土地造成による森の拡大は他の事柄と並行して行いますが、それ以外にするべき事があります」
「何すんの? ウナギの養殖とか?」
「違います」
ホネボーンは持っていた杖の先端で、地面に図を描いた。
「今がこの地点。森の端がこの辺りです」
「結構離れてんな」
「そうです。飛行魔法を使っても小一時間かかります。ですから、まず領内の移動を円滑にする為の転移装置の開発をしなくてはいけません。これは現在使っている魔法の網の石柱を応用して術式を組みます。シャウラ、お前にも手伝ってもらいますよ」
「ひゃい!」
シャウラが冷や汗をかきながら返事をした。そうしておずおずとホネボーンを見上げる。
「どど、どういった仕組みの、じゅ、術式を組む、の? ですか?」
「ここで説明しては長くなりますが」
と言いつつ、ホネボーンはかいつまんで説明した。
石柱は魔力を発生させ、それらを結ぶことで網目状に展開されている。外部から来たものがその網に触れると反応して、それをアクナバサクやホネボーンに知らせる。要するに警報の魔法が組み込まれているわけだ。
ここに手を加えて、出入り口になるポータルを設置し、魔力の糸で結ぶ。そうしてそれを辿って転移できるように整える、というわけらしい。
細かな部分はかなり省略していたから、実際は話すほど楽な作業で完成するわけではなさそうだ。それでもホネボーンの口ぶりでは、時間をかければ確実に出来るという様な印象である。
ある程度魔法の知識があるシャウラやハクヨウは呆気に取られていた。
「そんな高度な事が、出来るんですか?」
「できます。すぐに、というわけではありませんが、ともかく時間をかけて術式の一つ一つを丁寧に刻まなくてはいけません。刻んでからのチェックもしっかりと行います。お前にはそれを手伝ってもらいます」
シャウラは緊張で真っ青になりながら、胸を抑えた。普段からあるどもりがひどくなる。
「でで、できる、かな……わたわた、わ、わたしに」
「できるか、ではなくやるのです。まずは勉強からですが」
「ははは、はいぃ……」
がちがちになっているシャウラの背中をグリーゼがさすってやった。
「それから、外界にいる魔姫を探し出す為の設備も整えなくてはいけません。これには魔姫自体の解析が前提ですから、お前たちの検査をさせてもらう事になります」
「け、検査ですか?」
と魔姫たちは思わず鯱張る。アクナバサクが首を傾げた。
「どした?」
「いえ、あの……」
ハクヨウは言いにくそうにぽつぽつと語った。
彼女たちは元々兵器として生み出された存在である。生まれてすぐに因子の濃さや戦闘能力、身体能力などを調べられた。右も左も解らぬ状況で、魔法や投薬、無理な運動などで苦しい思いをしたから、検査というのは魔姫にとってはトラウマに近いものがあるらしい。
アクナバサクは憤慨した。
「検査ってか拷問かよ! そんな可哀想な事しないでもいいじゃねーか!」
ホネボーンが杖で地面をとんとんと叩いた。
「そう怖がらなくてよろしい。苦痛を与える過程はありませんから安心しなさい」
「えっ、そうなの?」
「低能な人間の研究者どもと同じにしないでいただきたいですナ。大体、身体能力のデータは都市での戦いで十分に取りました。これ以上は必要ありません」
「なーんだ」
とアクナバサクは面白そうな顔をしている。
「つまりお医者さんごっこか。いいなそれ、そんならわたしもやりたい。げははは、にがーい薬を処方してやるぜぇ」
「王様は患者側ですよ。主に頭の」
「あれ? 今わたしディスられてる?」
「あのう、わたしは何をしていればいいんですかぁ?」
とナエユミエナが手を上げた。
「お前は豊穣神らしく、今まで通り森や畑の手入れをしていればよろしい」
「あうう、わたしだけ扱いがぞんざいな様な……」
「気のせいです」
「そうだぞナエちゃん。こいつは元々誰に対してもこうなんだ。まったく、親の顔が見てみたいね。わたしだった。ちくしょう、なんてこった!」
「一人で何を言っているんです。ともかく、お前たち魔姫は普段は王様やナエユミエナの手伝いをして、私が呼んだ時は私に協力なさい。いいですか」
魔姫たちは頷いた。
怖さが拭い去られたわけではない。しかしホネボーンは対応こそしょっぱいけれど、自分たちをわざわざいじめる様な事はしないだろう。むしろ、そんな事は時間の無駄だと切り捨てる筈だ。そういう点でホネボーンは信用されていた。
「……キシュクちゃん、ホネボーンさんは怒らせない様にしようね」
「ですね。宰相さんは王様より怖えですよ」
いつの間にかアクナバサクにぴったりくっついていたアルゲディとキシュクが言った。アクナバサクはやれやれと頭を振った。
「この優しいアクナちゃんが創ったのに、なんでこう怖い子になったんだか……まあいいや。おかげで助かってる部分もあるしな。さー、お茶も飲んだし、もう一仕事すっか」
苗木はまだまだある。明日の作業の為の段取りを終えておかなくてはいけない。
魔姫たちは早速くるくると動き回っている。どの娘もよく働く。
アクナバサクは立ち上がって大きく伸びをした。その拍子に背中や肩がこきこきと音を立てた。