特許権条文化・セメント・1%10年間
「はい、天下統一の前に硝石を抑えましょうぞ」
「算段が有るということじゃな」
「上手く行けばと言う所ですが、飴と鞭で根来衆に硝石で名乗り出て貰うつもりです」
「例の特許か」
「はい、それを明確にするために公案を考えた者にも1%の利益を与えるというのは如何でしょう?」
「それは先程の蚊遣り火の小型化を口にしたお主に与えろという事か」
「まず隗より始めよと申します。小さなことにも払うべき者には払うという姿勢を形にして次に繋がります」
(※「まず隗より始めよ」は中国の戦国時代の本『戦国策』にある故事。
郭隗に燕の王様は聞きました。「賢者はどのようにしたら求めることができるか」
「賢者を招くならまずは平凡な私を重用して下さい。さすればもっと優遇してもらえると考え、私より優れた人物が自然と集まってくるでしょう」と答えた。
燕王は郭隗を優遇し、最終的に中国古代史上最強の楽毅将軍を招く事に成功した)
「フム、まだ余は許されて居らんということか」
「あらぬ疑いを避けるため、月々のワシの給与は余さず使うております。船を頂いた時に載せる品を買う金が無くては話になりませぬ」
「会計を態々(わざわざ)報告するもそのためか」
「会計は身の潔白を証明する為に発展したと聞きます」
「良かろう。尤もな話である。1%の期限はあるか?」
「商品が出て10年間で充分です」
「判った。公案を領内各所に貼りだそう。1%を10年の証文も用意する」
「利益のではなく売上の1%ですぞ」
「条文に明示しようぞ」
「有り難い事です。それが有れば根来衆も口説きやすいかと。ついでに他にも思いついた際も頂けましょうか?」
「約束する」
「それで頂いたものは織田家とは関係なくワシ個人の財産として扱いますが、宜しいですな?勿論船もですぞ」
「構わん」
「ワシ以外でも身分の上下に関わらず、誰でもで宜しいですな?」
「ウム、明示する」
「特許についてもですな?」
「公案と併せて布告する」
「それは大いに安心されるでしょうな」
誰が安心って?勿論ワシじゃ。いや、知財に関係する者全員じゃ。積み上げて来た物を気分次第で取り上げられる等、有って良い訳がない!捨扶持を充てがわれて、それを不測の事態に備えて蓄えているを、不正蓄財などと難癖を付けられては堪らん!!
がそんな事は言える訳が無いので、ここまでにする。証人は嘉隆殿に有閑殿、次通殿達に助介も居る。
これだけの者が見聞きしたものを後で違えるは、上様の信用に大きく傷が付く。万全では無いが充分である。
「根来衆も信盛に任せるで良いか?その分給与に上乗せするが」
「承知致しました」
(※織田家の分国法が存在したという記録はまだ無い。天下統一後の統治期間が無かった為である。民間に有る習慣法を踏襲していたと思われる。今回は権利をいきなり剥奪されるなど同じ目に遭いたくないという信盛の執念で、特許権の条文化に至る)
「根来衆については助介に手伝うて貰いたのですが、宜しいですか?」
「船の目処も付いたで助介達の手も空いておろう。良いぞ」
「警護の方は宜しいでござるか?」
「警護は他の者が付くで良いぞ」
「承知にござる。で手伝いとは?」
「それじゃが、匂いに敏感な者を使いたい。犬使いだけで良いのじゃが居るかの?」
「ハッ、根来領に入る事を黙認されておる猟師が居ります、そちらで宜しいでござるか?」
(根来衆は根来寺を中心に自治領を形成し、他領の者が断り無く入ると殺されても文句が言えなかった。領主でさえも来訪の際は事前に連絡が必要とされた)
「それは有り難い、今回追うは硝石の匂いでな」
「なるほど、承知にござる」
「それとセメントの材料の石灰石ですが、まずは甲賀衆の所で配合の組み合わせを調べる事にしませぬか?」
「助介よ、頼めるか?」
「調合に詳しき者が居ります。石灰石も近くで採れます故、可能でござる」
「セメントは外国に古来より有りますが、日本には伝わって居ません。漆喰とは違う配合で組み合わせ約1日で固まり水に強き事が望まれます。成功すればそれは知恵の固まりです。知恵の財産、つまり知財となります故、特許に近い扱いが必要かと」
「特許権を与えて一般公開させよということじゃな。取り分と期間は如何程が相応しいか?」
「信盛殿と同じく売上の1%の10年間で充分でござる」
「良かろう。まだ内々の話故、書面を用意しておく」
助介は1%を選んだか。良い判断じゃ。
甲賀衆の領地は石灰石を産する。セメントが出来れば琵琶湖と淀川で堺まで船で運び込める。他に先駆けて製造出来れば自分達で十分売上も出せようし、製法を公開で他の製造者から感謝と共に1%が入るだろう。
大々的に製造されれば、公共土木を重視する上様にも感謝されよう。
「ワシの方からは以上になります」
「他に報告する者はあるか?」
「イエ、有りません」
関係者達も色々と増えた分担の事で、頭が一杯であろう。特に何かを上げる者は居なかった。
そこでワシは今まで話した内容の分担を書き連ねていく。
船 上様、水軍衆、船員達
カルバリン砲 有閑殿、ワシ、鋳物衆
マラリア
・メダカ 上様
・大瓶 ワシ、水野殿
・蚊帳 上様
パティオ 有閑殿、嘉隆殿、大工衆、ワシ
水車小屋 上様、有閑殿
土管作り ワシ、水野殿
出島の上下水道 有閑殿、ワシ
仙洞御所 次通兄弟、上様
セメント 助介、調合師
会計 ワシ(ゴンサロ)、上様
特許 上様、ワシ
公案 上様、ワシ
根来衆の抱き込み ワシ、助介
「このように認識しておりますが、宜しいですかな?」
「ウム、余と信盛が関わる物が多いが、それぞれ別の者に分担させることになろう。監督じゃな。水野は近い内に信盛の所に顔を出させよう」
「ハッ!」
関係者は皆自分が関係する部分を書き取っていく。
上様の右筆は全てを書き取る。
「飴と鞭」はドイツ帝国の人民懐柔策と弾圧法規の制定を行った、宰相ビスマルクの政策を評価した言葉が初出の様子。
ただ日本における特許法では排他的独占権である「特許権」が飴に、「特許発明の一般公開」が鞭に相当するとの考えがあるので、あえて「飴と鞭」を使っています。
どちらも既にこの時代に存在するので。
(※平安時代に麦芽を煮詰めて水飴を作っていた)




