砲・蚊帳・公案・土管・会計
「そうですな、マニラでカルバリン砲を入手するは難しいかと。上様の方で今作って居られるのはフランキ砲と大鉄砲でしたか」
(※大鉄砲は3cmの弾を1km程飛ばす大型の火縄銃)
「そうじゃな」
「大鉄砲は射程が長く、海戦で相手の帆を撃ち抜くには良さそうですな。対鉄砲でも活躍しそうに思えます」
「そうであろう」
「ただフランキ砲は射程が短い割に形が複雑で暴発も多いと聞きます。同じ青銅製で鋳造であるカルバリン砲も考慮に入れると良いのではと思案します」
「鋳型に流し込むなら構造が単純な方がよいと言うことじゃな?」
「左様にて。カルバリン砲の発砲を見た者によりますと2貫(7.5㎏)の砲弾を当てるなら240間(約440m)で、フランキ砲の倍となり威力も桁違いです。砲を上向きにすれば1里(約4km)までも届いたと申しております」
「距離が伸びれば当然当たる場所はバラけようが、城なら良い的になろうな」
「小田原城の最奥にも外から当てられましょうぞ。港を守る砲としても良き性能かと」
「そうよな。試しに造らせるがよい。今フランキ砲を造っておる職人が良かろう。口も堅く大きな鋳物造りにも慣れておる。フランキに就く者の半数をカルバリンに就かせよう。指導は信盛が付け。金の話は有閑に任せよ」
「ハハッ!」ワシと有閑殿は声を合わせる。右筆が職人宛の書状を認める。
「次がマラリアか、現地の者に対処法が有れば良いがな」
「薬も無い様にて、蚊を寄せ付けぬが最良に思われます」
「蚊が敵とは厄介よな。蚊帳を張るぐらいか」
「蚊帳と他に蚊遣り火も有効かと」
(※蚊遣り火はよもぎの葉、榧の木、杉や松の青葉などを燃やし、煙で蚊を追い払う。平安時代から大正初期まで一般に使われ、夏の季語である)
(※蚊帳は江戸時代には庶民にも普及した)
「蚊帳は少し値が張るが、揃えられよう。蚊遣り火は常時使うには嵩張るのではないか?」
「原料を練って固めて乾燥させれば保存しやすいかと。一晩煙を出し続け小型で携帯可能な蚊遣り火を公案として出し、懸賞金を出しては如何でしょう?」
「懸賞金をだして案を公募するか。知恵比べの祭りの様じゃの!良かろう。余の方で準備する」
「ハッ、それと船員に聞きました所、船の底に水が溜まって蚊の幼虫の発生源となるそうな。常時水を汲み上げておるそうですが、積み荷の奥などには手が届かず完全には出来ておらんようです」
「フム、手が回らん所で発生して日本に寄る船が持ち込む可能性が有るということか」
「左様にて。メダカは蚊の幼虫を食べると聞きます。そこで船は勿論の事、港にも大瓶を置いてメダカを飼育しては如何でしょう?水たまりを作らぬよう排水し、水の有る所に蚊を誘導してメダカに食わせる策です」
(※メダカは4−30℃で飼育が可能で耐塩性を持つ。水面が凍っていても泳いでいる。)
「メダカか。費用は掛からんな。大瓶ぐらいか。小瓶でも良いのではないか?」
「大きな方が棲みやすいかと。また出火の際の消火にも使えましょう」
「なるほど、が船に載せるには簡単に倒れぬ形が必要であるな。」
「ハッ、大型の瓶で特製ですと水野家の常滑焼が適すかと」
「水野か、此度の船建造で呼んでおるが、信盛から話して貰えるか?」
「畏まりました」
「下水事業じゃが、道路脇に側溝で流すのでは足りぬと言うことか?」
「人が多く集まる出島は疫病の発生源となり易く、予め
下水管を敷設して置くが良いかと。また関東を開発するにも、下水管は重要かと存じます」
「大都市には下水管をということじゃな」
「はい、『衛生の整った都市にこそ文化は栄える』です」
「下水管の事例はあるか?」
「古代のローマでは有ったとか。日本では飛鳥寺の西門の外にあるそうです」
「船員に聞いたか。したが飛鳥寺は何処より聞いた?」
「高野山にて」
「ウ、ウム、同じ真言宗であるし繋がりはあろうな」
「ハッ!」
「大きさは分かるか?」
「まだ見ておりませぬ故、大まかですが直径7寸(21cm)長さ2尺(60cm)足らずと聞いております」
「大物よの。それも水野に任せよと?」
「ハッ、大物焼きは常滑焼きの得意とする所にて。また
恨みは残さぬ様に、上様の公共土木に組み込む事が肝要かと」
「ではそれも信盛に任せよう。上手く口説き落とせ」
「ハハッ、承知!」
「次に、煉瓦とセメントか」
「煉瓦は船員達が造りますので、その内お見せ出来ます。セメントですが、今回のマニラ行きには間に合いませんでした。次回に製法か現物を入手出来ればと考えて居ります」
「原料は石灰石か。国内で賄えると言うのは大きいな」
「はい、試す価値は有りかと」
「ウム、次回航海に期待しようぞ。で次は会計か」
「はい、ワシの現在の会計報告はこちらになります」
「横書きで左から右に書くか。そしてアラビア数字を使うと。エウロパに揃えるという事じゃな」
「信用取引を円滑に行うに必要かと」
「良かろう。まずは会計から合わせていくか。それと
会計用語を統一した方が良いとの事じゃな」
「はい、用語で方言が多数あると混乱致しますので」
「では、今記帳している会計と併せて、用語一覧を月末に提出せよ。それをこちらで使って不都合が有れば修正する」
「承知しました」
「で次が硝石と根来衆か」




