仙洞御所・大学・砲戦予想
「屋敷を貸すとな!驚きの提案じゃが、場所は何処かの?」
聞くと御所からほど近く広さも充分である。理由も聞いたが、納得出来る。
「これは上様に至急お伝えした方が良かろうの?」
「よろしくお願い致しまする」
「では一緒に参ろうぞ」
必要なものを揃えて部屋を出て船員達の元に行く。2階建てを設計した者が嘉隆殿の描いた図面を写している。
粗方描きとった所で元の図面を持って、帰りは遅くなるから各自食事を取り作業を進めておくよう伝える。
護衛を引き連れて堺政所へ急ぐ。
嘉隆殿を認めて門番は中へと誘う。側使えが奥へ誘導する。部屋へ入ると上様と有閑殿が机から顔を上げこちらを認めた。
「信盛まで来るとは余程の事が有ったようじゃの?」
「次通殿より仙洞御所として屋敷を貸す用意があると提案が御座いました」
「屋敷は何処に有る?」
「上京の御所近くになります。地図ですとこちらに」
と次通殿は屋敷の位置を示す図面を差し出す。
「ここでこの広さなら仙洞御所として充分であろうな。
が通詞の位は高くないと聞く。何故これほどの一等地を持っておった?」
「我が祖先は代々通詞をして仕えておりましたが、平清盛公の時分、日宋貿易が盛大になされる頃にお声が掛かること多く、今の屋敷を賜りました」
「それを貸し出す気になったのは何故か?」
「宋から元に代わって没交渉となり、さらに明になっても正式な交易関係も無く、我が家の地位は下がり続けました。家の維持も厳しく、親族からお家の乗っ取りまで画策される始末でして、如何にするか兄弟で思案しておりました」
「なるほどの、で代わりに何を望む?」
「御用が済みましたら上京の屋敷は返還頂きたく、またこの堺に替わりの屋敷を賜りたく存じます」
「マニラに向かっている久通や他の親兄弟の承諾は得て
居るのか?」
「親と長兄は既に亡く、姉妹は全て嫁に出て居ります。久通とは出航前に話し合っておりました。清盛公と同じく外に開かれる国造りを織田家が目指す事が確実ならば、我が家はその流れに乗り後押しすべしと」
「よく申し出てくれた!これで今上天皇のご譲位は成ろうぞ。屋敷の受領は中を確かめてからになるが良いか?」上様満面の笑みである。
「家人にこの書状をお渡し下されば中を案内出来まする」
「ウム、返還の約定書には余と信忠、今上陛下と誠仁親王の署名が有れば良いか?」
「はい、充分でございます」
「万が一返還が出来ぬ場合は買い取るがよいか?」
「承知致しました」
「船も揚がる見込みが立ち、仙洞御所の目処も立ちと今日はめでたき日よ!」
そう言って預けられた書状を馬廻り衆に渡す。これから京へ屋敷の検分に行かせるのだろう。
「して、信盛はまた別の話が有りそうじゃの?」
「嘉隆殿と船員達と協議して出島での屋敷の図面を引きました」
パティオの図面を差し出す。
「外郭を囲むが『煉瓦』か。大砲と地震が無ければ堅そうじゃの」
「大砲を持ち出されれば、もはやどの様な巨城も持ちこたえられませぬ故、弓・鉄砲を防げれば充分かと」
「良かろう。新しき試み故、嘉隆はもとより他の船大工達も加えよう。差配は有閑に任せる」
それからここ数日船員から聞き、感じた事を伝える。
地中海の東の巨城が大砲で落ちた、新大陸でスペインが集めた金を海賊で奪うブリテン、カルバリン砲、南のマラリアの脅威、下水道事業、井戸、煉瓦、セメント、会計、通詞の人手不足、硝石の事で事前に根来衆を引き込むのが良いのでは等など
箇条書きにした紙を渡す。カルバリン砲の図面も渡す。
「巨城はコンスタンティノープルと言うたの。封鎖された湾内に侵入させるために船を山越えさせたとか、嘘か真か分からぬ話であったがの」
「コロを使って船を陸路運んで湾内に突入、海上封鎖を成功させ、3間越え(約6m)の大砲で巨壁に割れ目を作り、そこから突入させて千年以上続いた東ローマ帝国を滅ぼしたとの事」
「正に諸行無常よの。して対抗策はあるか?」
ワシは思いつくままに答える。
大砲同士の撃ち合いになる事、
こちらから大敵に仕掛けるべきでは無い事、
常に相手よりも射程が短い事を想定する事、
覆すには高度差を活かす事、
そのために技能集団を活かす事など。
「なるほど、頭がはち切れんばかりに溢れ出るの。船員達との時間がそれらを齎して居るのか?」
「これまで断片的に聞き齧って居った事が、直に話を聞いて網のように繋がって来ます」
「そうか、しかし技能集団を活かせか、そちらは状況次第じゃな」
「承知しました。公家衆もそれぞれに技能衆と縁を持つ者が多いと聞きますが」
そう言ってワシは次通殿兄弟を見遣る。
「有名無実の者も多いですが、技能を家伝とする者も居ります」
「医術などを秘伝として居るとも聞くの。何か考えは有るか?」
「秘伝とするは、公にすると家の利が消えることを恐れての事かと存じます」
「その事ですが、特許の様に形に出来る物はそちらで良いとして、形に出来ず秘伝に留め置く者に、公にするよう促す仕組みが必要かと」
「具体的にはどの様に考える?」
「イエズス会の者たちは大学を作り、高度な研究をしておるとか。国が大学を作る事例も増えていると聞きます」
「国が教師として召し抱えろということじゃな」
「はい。知恵も財産なれば、保護せねば公にはせぬでしょう」
「永代の権利ではなく一代限りという事よの」
「左様にて、大学内で競わせて優秀の者を次の教師とすれば良いかと。通詞の技能も学ぶ場が有れば増やせましょう」
「良かろう、考えておく。信盛の所の通詞は船員9人に対して2人では厳しいの。1人増員しようぞ」
「ハッ、お頼みします」
「次にスペインに敵対するブリテンのカルバリン砲か」
「当面の入手が難しいと思われます」
「エウロパと日本の間に港を作って居るのはポルトガルとスペインばかりではな」
実はカルバリン砲が1580年の日本近くを通過した事例が有ります。フランシス・ドレークの世界周航がマゼランに遅れる事60年1577秋−1580.9に行われ、新大陸から太平洋を横断しモルッカ諸島へ1580.1.9に到着した。
黒潮の流れに乗ったルートかと。
ドレークが日本に漂着していればカルバリン砲で無双出来る!との思いもある。が彼の目的がスペインからの略奪である事、日本に流れ着くにも黒潮の流れに逆らう事になり不自然と考えて採用せず。




