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噂・引っ越し予定

嘉隆殿の図面が描き上がった。港外側に当面の厠三つも入る。屋外で描きやすいように書付板も欲しいの。

さて、ここでの用は済んだ。せっかく来たので出島の先、防波堤へと足を延ばす。



そこには先客がいた。防波堤の先端、土台に打ち込んだ滑車で向きを変えた綱を曳く人足たちである。

今はこちら側は休憩で反対側の堤防側で曳いているようだ。船が近づく度に滑車の向きも変える必要がある。


滑車は土台から引き抜かれ、次の面がかんな掛けされている。

音頭取りの馬廻りも顔見知りであるが、お互い目礼を交わすに留める。ワシは訳ありの身であるしな。


そんな様子を見ていた嘉隆殿が小声で話し掛けてくる。

「そう言えば林殿が亡くなったと聞いて、上様が済まぬことをしたと漏らしたと、噂が流れておりましたな」

「そうか。ではもう葬儀も済ませて、亡くなった事になって居るのじゃな」

林殿も親族を集めているであろう。若様に付く者も居るかもな。


「それに併せて、信盛殿親子も高野山を下りる様に圧力が掛かったとか、高野山が突っぱねたとか、自発的に山を下りてエウロパに向かった、との噂が出てますな」


「フフ、もうそんな噂が。なにやらモンゴルに向かった義経公の伝説みたいじゃの。まぁ暫く影の身にてよろしく頼む」

「承知した。姿を消す者も有ればあらわす物もありですな。船が姿を見せるのもあと数日と」


「フフン、嘉隆殿の所の船大工も忙しくなるぞ」

「棟梁と図面を引く者は忙しくなりましょうが、大工達が忙しくなるのはまだ先でしょう」


大工達は今日までは桟橋作りや引き揚げる際の船台やコロを作っておるそうじゃが、明日からは暇らしい。木材も船で既に曳いて来ておるそうじゃ。


「では、ワシらのパティオの方も明日から頼むでな」

「お任せ下され。大事な拠点の第一歩ですからな」


「ウム、更に船が揚って修理が成れば水軍衆もこちらに

泊まる事になろう。線の強化の始まりもここからじゃ」

「何やら歴史的な場面に出会わした気がしますぞ。そうなると我が九鬼水軍だけでなく、集まる他の水軍衆にも拠点の図面や作り方を共有すべきですな」


「ウム、そして有閑殿や上様にも報告してもらえるか。こちらだけで決めて良い話では無いからの。金も場所も使うでな」

「承知した。今夜にも根回ししようぞ」


「忙しくなろうが頼む、今日の1歩が1年後の千歩ぞ」

「他家より先を進むということですな」


「ウム、他家だけでなく他国に対してもな」

「船を動かすまでに如何程の時間をお考えか?」


「引き揚げて修理と同時に採寸もしよう? 各部品の詳細を描き取って、組み上げ方も調べねば自分たちで作れまい。1ヶ月ほど掛かるのでは無いか?」

「修理に詳しい船員も貸して貰えるのでしたな。聞き取りながらなら話は早いですな」


「そうさな、採寸が済んだら1/10の大きさの船を作ってはどうかの?本来の1/10なら作りやすかろうし、材料も無駄なく試せよう?」

「ですな、それで上手く組み上がれば、次は実物大の帆船を作ると」


「採寸が済んで1/10が組み上がれば、もう実物はそれほど見なくても進められよう。その時に船を動かそうぞ」

「では1ヶ月を目処に水夫を集めましょう」


「まぁ状況に併せてになろうがな。さて屋敷に戻ろうかの」



屋敷に戻ると、ビスケットが焼き上がっていた。買い出し班も戻っている。

一人2枚づつ受け取り、残りはワシから方々に土産にすると告げる。

まずは蔵屋敷の者たちに2枚づつ渡る様に紙に包んで持たせる。嘉隆殿にも包む。余った分も紙に包ませる。


「主だった者に渡らせてくれ」

「頂きます。辛口の者も甘い物には勝てんでしょう」


皆を集めて明日から嘉隆殿の大工がパティオ作りに入ると伝え、その図面を見せる。


取り敢えず一棟だけ建てる予定である事、これから承認をもらう事、追加したい事があれば今言う様に、明日から船員達は二段寝床を自分達で作る事なども伝える。


通詞達が図面の意味する所を説明している。それぞれが口にする事を書き上げていく。


ワシも気になる事を追記する。飲料水の事である。海の近くの井戸でもそのまま飲める水が湧く所もある。千利休殿の生家の井戸も海に近いが旨い。


こればかりは井戸掘りの技能者に、何本か掘って貰って

試すしかあるまい。有閑殿を頼むことになろう。下水道もそうじゃな。

その辺も嘉隆殿を通して頼むとしよう。


そう言えば建物の高さを決めていなかったな。皆と図って倉庫の1階は2間(3.6m)で2階は1.5(2.7m)、3階は外側を0.5間(0.9m)高くする事に決めた。


話は階段の事に移る。船員達は2階の内側に渡り廊下を作って隣の棟とつなげ、幅は0.5間で階段も0.5間で充分と言う。落ちぬように手摺を付けて、屋根は廊下を覆う程に延ばす。


そんなことを図面に落とし込んでいると、通詞の次通殿と信通殿がワシらの様子をじっと見ている。


「パティオの事で意見でもあるのかの?」

「それとは別の話でお忙しき所に申し訳ないのですが、もう1件の引っ越しの事で相談したき事があります。場所を替えてお話出来ますでしょうか?」

「私は外した方が良さそうですな」


「嘉隆殿も同席頂けると助かります」

フム、何やら大事かもしれん。ワシはゴンサロに今日の分の会計をまとめておくように、他の者はパティオについて考える様に伝える。



兄弟と嘉隆殿を連れて一室へ入る。

「それでもう一つの引っ越しとは何処のことかの?」

「今上天皇が退位をご希望されて居られますが、仙洞御所(退位後の上皇の生活場所)の手当が付かぬ、と聞き及んでおります」


「前回上様よりそのような話が出ておったな」

「我が屋敷をお貸しする用意が御座います」

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