敷地・図面・2段寝床
シエスタも終わり全員集まった。
そこで皆に伝える。宿舎は木造と煉瓦壁の組み合わせで作る事、図面を描いた2人に3日分の給与を報酬として与える事、カルバリン砲の図面を描いた者に5日分、パエリアを作った者に1日分、他諸々にも報酬を与えていった。ゴンサロに会計記帳もさせる。
午後にまた買い出しに行く者たちを1班として通詞と護衛とゴンサロがつく。
料理班はビスケット作りで、他の者は作業机や靴作りなどを続けるように言い渡す。料理班がゴンサロに何か頼んでいる。追加の食材だろう。
ワシは嘉隆殿と護衛2人連れて宿舎建設予定地の出島へ
下見に出向く。
「場所はこの辺りになろうかの」
出島の入り口の橋を越えてから少し離れた位置である。入り口両側は門や詰め所を作るから少し空ける。
「はい、やはり堺の町に近い所が良いでしょうな」
「ウム、防波堤内の港に面する所がよいでな。船着場から荷を降ろしてすぐ倉庫に運び込みたい」
「1階は倉庫が多めと言う事ですか?」と嘉隆殿。
「そうよの、後は商談の来客を対応する大きめの部屋も
1階がよいな。その上に来客の泊まる部屋が2階にあると良い」
「フム、外から来たものは一画に集めるんですな」
「ウム、それと皆が使える風呂が欲しいな。これも1階かの、横に薪の部屋があると便利じゃな」
「蒸し風呂ですかな、火を使うとなると失火も考慮する必要がありますな」
「それじゃが、隣の部屋との区切りに煉瓦を使えんかの。外壁と繋げれば互いの支えにもなろうし、区切りの方は日干しの煉瓦で充分よな」
「なるほど、火を使う場所は煉瓦で区切ってと」
「そうじゃな、次まずは寝床よ。大枠は決めねばな」
当面は船員9人と通詞2人、ワシと助介と護衛6人程に
その後に嫁候補が10人程か
「まずは30名程が暮らせる一画を作ろうぞ」
そう言ってワシは石を4つ正方形になるように置く。
間を10間(18m)ほど取る。門に近い1辺に立つ。
「この辺に最初の一画を作ろうと思う。間仕切りを2つで2階じゃで6部屋じゃな」
「奥行きは如何程に?」
「3間(5.4m)で考えておる。横7間・縦3間の直方体を4つ互いに組み合わせて、10間平方で外郭を作るかの」
73の箱を地面に描いて1辺10になるように並べる。
「なるほど、中庭が4間(7.2m)の平方ですな」
「ウム、その広さがあれば大抵の作業は出来よう」
「ですな、4つの角部屋は隣の棟と接して出入りしにくいかと思いますが、大部屋にしますか?」
「じゃな、幅は4間程にすれば入り口を幅1間程につくれよう。残り2つは1.5間づつかの。大部屋の1階は風呂で2階はワシと通詞と護衛の者が寝て執務部屋と考えておる」
「1.5の部屋2つが船員の部屋ですか?」
「いや一つの部屋に入れようと考えておる」
「一つの部屋ですと1.5の3間で9畳ほどですか。雑魚寝でギッチリでは無いですか?」
「嘉隆殿はエウロパの船室の中を見た事はあるか?」
「いえ、外側しか観ておりません」
「ワシは堺に度々来ておったでな。中を見た事があるのじゃ。寝床が四本の柱で支えられた2段であったのよ」
「なんと!屋敷も2段で寝床も2段で作るお積もりか」
「ウム、2段の寝床な、あれは船員達の憧れの品らしい。船の中で自分の寝床が有るのは船長やら古株の船員達だけでな。ワシが雇った奴らは新参者やらスペイン出身以外の者でな。船では立場が低く通路や大砲の隙間で寝ていたらしい」
「エウロパ人の間にも格差が有るのですな」
「だからこそワシからの引き抜きが効いたのよ。他国ではエウロパの船員が現地で船から脱走なども起きるらしい」
「船もでかくなると船長と水夫では隔たりが有りますな」
「同じエウロパ人でもそうなのじゃ。人種が違えばどう
なろうな?」
「力に差が有り過ぎれば扱いも酷くなりましょうな」
「ワシの元でそのような事はしたく無いでな。船員には
材料を渡すで2段寝床を作ってもらおうと思うとる。
一部屋に5台置けるじゃろ」
「なるほど、2階のもう一部屋は何にされますか?」
「船員の嫁候補も10人ほど来るでな。独身のうちはその部屋じゃな」
「娶せて定着させる気ですか?」
「ただの旅人では技術を本気で伝えようと思うまい? そこに住む気になれば妻子の為にも本気になろう? さらにエウロパから親戚縁者を呼び込めるかもしれん」
「尤もですな。しかし何やら調略をエウロパに掛けておる様ですな」
「フフン、領地も持たんワシが仕掛けるとは相手も思うまい?」
「ハハハ!正に盲点ですな」
「嘉隆殿もよければ付きおうてくれんかの?」
「私で力に成れることであれば!」
「その内何かお願いするかも知れんが、今はこの出島の
パティオ作りよ。いずれこの狭い出島に各国の商館と遊郭や店が立ち並ぶじゃろ。3階4階の建物も出来るかもしれんぞ」
「随分と先を見て居られますな」
「可能性の話じゃがな、ただ人が一つ所に集まれば起きる問題もあろう?」
「揉め事は増えそうですが、疫病を気にされておりますか?」
「そうじゃな、出来るなら建てる前に下水を外港に流す仕組みをと思うておる。嘉隆殿の領地で焼き物はやっておるか?」
「あまり大きくはやってませんな、あっ、それで水野家
を……」
何やら感づいた様だが、先の話であるし可能性も見えない。今答える事では無い。
「当面厠は遠くなるが港外に近い所に3つほど頼む。垂れ流しになるがな。で1棟だけ図面を引いて貰えんかな?1階の風呂の横の部屋に炊き場を付けてな、蒸し風呂と入る風呂釜両方に熱を入れられるようにな。で棚を置いて薪の保管庫にしたいのじゃ」
「はぁ、でその薪室の横が台所ですか」
「そうなるな、やはり薪室と台所は煉瓦で区切った方がよいかの?」
「薪と火を扱う所は全て区切った方が良いでしょう。薪室の奥に扉を付けて風呂へ通路を作りその先を焚き場に
すると良いかと」
「そうじゃな、多少風呂が狭くなるだけじゃしな。それで行こう。図面を描いてみてくれんか?」
ワシは鉛筆と紙を渡す。
「鉛筆ですか。描きやすくてよいですな」
さらさらと正方形を横に2つ描いて行く。1辺を7対3に分け七・三と書く。
「あー、実は三階も考えていての。じゃで三つの正方形を縦の柱で繋ぐように描いてもらえるかの?ご飯粒で擦れば線は消えるでな」
ワシは朝、台所から持ちだしたお握りを包みから出して1粒渡す。
「なるほど、米粒に黒い粉が巻き取られますな。しかし三階は何に使われますか?」
「外側の屋根を高くして片流れにしてな、で外側の壁に銃眼を作って欲しいのじゃ」
「簡単に落とさせぬということですな」
「そうじゃの、織田のいや日本に手を出さば大やけどをして何も手に入らぬと思わせたいのよ」




