容疑者の一覧
「甘い物も食べた事だし、苦い話も詰めておくか。林殿にも他家からの仕官の誘いは来たのだろう?」
「毛利に武田、上杉家、大友や長宗我部、北条家辺りは来たの。全部断ったがな」
「ワシの所と大凡同じじゃな、いずれも織田家に従属か戦を続けるかで悩んでいたの〜」
「石山本願寺が抜けて、畿内で織田家を脅かす勢力は居なくなったから、当然じゃの。
後はそれぞれの方面軍が外に押し出して行くだけじゃ」
「方面軍が優勢のまま膠着させて、上様と若様の増援を合わせて各個撃破という流れかの」
「うむ、相手もそこが分かるからこそ、織田家中をかき乱したいという所か」
「そうさな、所で上様はどの大大名にも2国までしか持たせない、と言うのは真であろうか?」
「あぁ、長宗我部家には5年前には四国の切り取り次第と認めていたがな。
阿波を本拠としてかつて畿内に強く影響力を持った三好家の例があったであろう?」
「であったな、故に阿波とひいては畿内への要所は織田家で抑えたいと」
「うむ、案外お主の領地召し上げも、他の大名家への方針と連動しておるのかもな」
「ワシがさっさと領地返上を認めて上様に詫びを入れれば、織田家中で先例を作ったとなるな。
家中の宿老でも大領地は召し上げるのに、諸大名に大領地を任せる訳無いという事か」
「そうだな、お主に追い落としを掛けた誰ともしれぬ相手を探すより、上様の思惑に乗るのも良かろうて。
領地にあまり未練なさそうなお主だからこそ、出来ることかも知れんな」
「まぁ、確かにこのまま許されなければ、大海を渡れる船を作って交易を始めようかと思っておったからな」
「ハッ、お主の事でもはやそうそう驚かんよ、伝手も抑えておるのだろう?」
「おぅ!南蛮船の廃棄前のを色を付けて購入してな、造船技師は無理でもポルトガルの船員で修理経験のある者を引き抜いてだな。
日本の船大工と組ませて解体と再組み立てを現物でやらせてみたら、新造でも建艦出来ると思わんか?」
「実物さえあれば同じように作れるとは、お主にとっては地球儀も帆船も同じなのだな」
「まさに同じよ、石山が片付いたら堺でやるつもりじゃった」
「そんなデカイ計画を上様に相談せずに進めて居ったのか。
折檻状の『この信長に相談すればよいのにしなかった』にピタリと当てはまるの?」
「ウッ、上様好みの計画であったから、確実に行けると踏んでから報告するつもりだったんじゃ」
「全く、上様もお主も悪童と守役の頃から抜けておらんようだの。
片や重臣にべったり甘えて、もう一方は主君に対して大事な報告を怠りおって」
「いや、良かれと思ってだな、大体南蛮人が持ってくるのを口を開けて待ってるなどいいカモではないか。
自前の船団を持ってこちらから取りに行くぐらいでないとだな……」
「黙らっしゃい!人が説教してる時はしおらしく頭を下げて、相手の熱が下がるのを待てばよいのだ。
まさに説教中に『口答え』だ。
折檻状の内容そのものではないか!」
五〇歳超えて説教される。しかも今年2度めである。
(こんなに元気で口煩いから追放されたんじゃろな)
などと思っていると、
タンッ と入り口で音がする。
(夜間に大声出すから、ご近所さんかな
しかし周りには家は無かったような……)
音がした方に目をやると、町人風の小柄な男が
いつの間にか立っていた。
「何奴?!」
(ンッ?、顔見知りじゃないだと……)
と同時に林殿は片膝立ちし、ワシの首根っこを
掴んで引き上げる。
その目はお前が連れてきたのかと睨んでいる。
(ちょっ、この爺、力強すぎ、ワシが連れてきたわけじゃないから、親指が喉仏に掛かってるぞ!)
勿論、物理的に言葉にならない。
「話は聞かせてもらいました。
林殿、佐久間殿。上様の命によりお二人の命頂きたく」