身だしなみと買い出し
船員たちが買い込んだ物の査定、もう既にかなり買い取っているのであまり目新しいモノは……あった!
料理の本だ。分量や挿絵がチラホラと見受けられる。カステラや菓子の作り方があればここでも作れるやも!
早速皆に買い取り金を渡す。料理書を持って来た者には
かなり多めにと。
船団の料理長から買い取ったらしい。実用で使うから手放したがらなかったが、もう覚えてるだろ!と言って高値で買い取ったそうな。
名簿を見て料理が得意な者3名と通詞を組ませて料理書を渡す。堺で材料が手に入り、すぐ作れそうな料理の割り出しと必要機材・食材を書き出すように伝える。
残りの6名には何をさせよう? 名簿を改めて見る。船大工の経験者も居るが、まだ出番ではない。ウム、自分に考えが無い時は相手に聞いてみよう。
金を貯めたらどうするのか? 家族に送金するのか? 船員は儲かるのか? 命の危険は無いのか? キリストが日本の神々の一神となったらどう思うか? 等々
金があれば嫁を貰う、家族に送金はしてない、他の仕事よりは儲かる、沈没や病気・特に熱帯地域でマラリアに掛かって高熱を繰り返して死ぬのが怖い、教会は考えは違うだろうが自分は構わない、だいたいこんな所だ。
マラリアについて気になったので更に聞く。
何をすると病気になるのか? 予防法はあるのか? 薬はあるのか? 等々
熱帯の蚊に刺されると発病する、蚊に刺されないように蚊帳に入る、薬は分からない、運が良ければ助かる、とこんな感じだ。
病気か……彼らが持ち込んだモノは可能なら虫干し、煙に当てたり、洗濯した方が良いかも知れぬ。長く風呂に入っていないのか汗臭いしな。
料理班の方はビスケットに決めた。小麦粉と砂糖・油があれば作れ、日保ちするからと。
そこで全員を集め昼から堺の町に買い物に行く事と、それまでに衣服の洗濯と風呂に入る事を言い渡す。
臭くないから大丈夫、などと言うが最後に風呂に入った
のは何時か? と聞くと遠い目をしている。汗臭いと女に嫌われるぞと言うと一斉に動き出した。
助介の配下2人が残って居ったので通詞達と共に、洗濯と風呂の準備を手伝ってもらう。たらいに水を張り、洗濯物を船員たちが踏みながら洗う。洗濯板も使って汚れを落とす。
寝具として厚手の布も持って来ていたので、洗っても大丈夫か確認してついでに踏み洗わせる。毛布と言って温かいらしい。
髪も長いのでハサミを渡し、それぞれ過ごしやすい長さに切るように伝える。へちまタワシと石鹸とお湯を渡し、身体と頭を洗わせる。
互いにゴシゴシと洗い合う船員たち。しかし腰から下の
下着は脱がない。裸になるのに抵抗はあるのかと尋ねると特に無いという。が宗教的な理由からだろうか中々脱ぎたがらない。
そこで褌を持って来て、後でこれをつければ良いから下着も洗ってしまえと伝える。
庭で船員が裸で服を洗うあまり見れた物ではない光景が
繰り広げられる。
その間に湯屋に湯が貯められる。洗濯物を干して、身体を洗い終わった者から湯に浸かる様に伝える。
上がった者から手拭いを渡し水気を拭いて、褌の使い方を教わる。全員褌を付けた所で湯屋を見に行くと、やはり垢がたまっている。これだけ汚れが身体に付いていたんだぞと言い、石鹸とへちまで洗っとくように伝える。
3日後ぐらいにもう一度入浴が必要かも知れない。
服の替えが無いようなので、着物を用意する。全体的に丈が足りない。下駄の用意は無かったので後で買いに行こう。靴をそのまま履くが、汚れてるので次回洗わせる。
髪も拭いてそのままでボサボサしている。せめて櫛をと渡す。互いに櫛を入れていく。
大分サッパリした。気持ち良さそうである。町に出しても嫌がられる事は無いだろう。
用意してもらった握り飯と茶を出す。
具も色々入れているが、梅干しは酸味が強すぎるのか、不評であった。次回は切って1/4にすると良いかも知れぬ。
皆して腹も膨らんだしシエスタも入れて後、町へ買い物に出かける。通詞2人と護衛2人も同行する。
笠を深く被った僧と9人の着物を来たスペイン人の一行。かなり異質だがそこは堺の町、大騒ぎになることもなく通りを進んでいく。
草履屋に来た。靴を自分たちで作れるか聞いてみる。2人が作れるという。機材はワシが買うので、作れたら2人から買わせよう。
当面使う為の草履を買うように伝える。船の上でも滑らないモノを選ぶ様にとも。安いのでワシが払っておく。皆懐に入れたり渡しておいた風呂敷に包んでいる。
次いで古着屋に寄る。船の上で動きやすい服を選ぶよう伝える。コチラは買い物に慣れるためにも、自分で買わせる。それぞれが様々な着物を手に取り、通詞から聞いた代金を払っていく。
服を作れる者は残念ながら居ない。いずれ船上で使いやすい服を買うか、作る必要が有るかも知れぬ。
途中食材や使えそうな鍋・靴を作る機材等も購入し、手荷物も多くなったので切り上げることにする。
帰りがけに助介達の作業の様子も見に行く。一連の動きをゆっくりながらも続けている。堤防の先では土台を打ち付けている。
助介がコチラを見つけて寄ってくる。作業は順調か聞く。
「特に支障はござらん。船中で大樽を移動するのも一人で出来るようになりましてござる」
空気の詰まった大樽を天井面に付けて少し斜めにし転がして移動させているそうな。
「素潜りの息はどうか?」
「3人ですと空気が悪くなるのが早いので、2人に減らして行っておりまする」
「交代で回して疲れは出ているか?」
「2人で6班ですので大丈夫でござる」
「船が軽くなった感触はあるか?」
「最初は固定されてましたが、次第に揺れる様に」
「まぁ無理はせず着実にな、詳しくは夜に聞こう」
「ハッ!」
夕方に近づいているので、今日は撤収するが良いと伝える。
順調そうで何よりである。船員たちも引上げに興味が有るようだ。樽に空気を詰めて船を軽くしている所だと説明する。
船員達、まだ元気そうだな。夜にビスケットを作ってもらおう。
屋敷へと戻る。船員達の日本生活初日の昼間はこうして流れていった。




