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船揚げ準備

上様は買い付けに向かう一行に今回の目的が利益では無く、今後の日本に役立つ「苗木」となるものを持ち帰り、また「植えて来る」ことだと繰り返し説明した。



また残る船員達には日本の治安の良さは厳しい規律によるもので、スペイン人に対してもそれは変わらないと伝えた。更に船員としてだけでなく役に立つ物や考えを教える者には手厚く報酬を払うとも伝えた。


船員たちも一銭切りの話を聞いているのだろう。規律を乱す事はしないと誓った。また金払いは良いことも実感しているので、役立つように動くと言った。



上様は分からない事や困った事は信盛に聞けとも言った。どうやらワシを窓口にするらしい。

ワシも異存は無いので頷いた。船員達はワシの配下となる。次通殿と信通殿が通詞として付くことも正式に決まった。


その後に船団長がやって来て、船を降りる船員たちに声を掛ける。


上様が彼にローマ教皇への親書の手順を確認する。

「買い付けの一行がマニラに付いた後に、日本のイエズス会を通して送るのが良いでショウ。先に総督に話を通しておきマス」


彼はイエズス会の者が奴隷売買に関与した事を知っている。証拠を消す為に買い戻しの妨害をせぬよう、後から送る方が良いと言うことだ。

こちらの事情に則した答えだ。日本側も一枚岩で無い様に、スペイン側も同様であろう。イエズス会の不始末はイエズス会でと言う事か。


夜遅くまで対応してくれた事に感謝し、上様と一行は商館を出る。


ワシは確認する。

「上様はイエズス会にどの様に対するのですか?」

「寺社に対するのと同じよ。民の心を安らげる本分に居る限り、余から口出しすることは無い。が唯我独尊で他の教えを排するなら厳しくあたる事になろうぞ」


「ゆくゆくは八百万の神の一柱と言うことですか?」

「あちらも一神教と言いながら、聖人やら天使やらが居るらしいでな。数十柱ぐらいになるであろう」


やはり上様の中では神道が中心となり、他の神々を同列に扱うつもりか。


上様の3代ぐらい前は神官であったと聞く。平氏姓を称しているが(源氏姓を称する大名が多数の中、異例である)、あくまでも近隣との付き合いの中での事だろう。


藤原氏に排斥された忌部氏(祭祀氏族)の末裔だろうか。


まぁ良い。公共土木を重視し民の生活を守り、民からの支持が絶大な上様の本質は、神道なのだろう。


だが、邪推するものも居る。寺院勢力には仏敵とまで

罵られた。



「神道重視の姿勢は朝廷には伝わってましょうか?」

「今上陛下は毛利や本願寺からの献金による所が多いでな。あちらに配慮もあろうよ。が皇太子であられる誠仁親王とは昵懇であるでな。余の赤心は伝わっていよう」


「誠仁親王はすでに今上天皇と共同で公務に就いておられますな。今上天皇は既に高齢で退位を希望されているとか」

「退位後の御所の手当がつかんでな。中々に進まんのじゃ」


「左様でしたか。所で、今回の一行に信栄をいれていますが問題は有りませんか?」

「船員たちとも上手くやっておる様じゃし、問題無かろう」


「戦自慢をして場を白けさせる武人より、間を繋ぐ信栄殿を頼りにしてますぞ」とは宗薫殿である。

「宗薫殿にそう言って頂けると心強い。しかし信栄がふらりと何か仕出かしそうな時は、しっかとお止め下され」

「非才ながら一行に加えて頂いた事を受け止め、実直に勤務に励む所存にてご安心を」と真面目を装う信栄。とはいえやはり心配である。


「守人もお目付け頼むでな」

「父上、心配するにも程が有りましょう!」


「そうは言うが、お主の肩に佐久間家の未来が掛かって居るのじゃ。心して掛かるが良い」

「ハハハ、親の心、子知らずとは言うたモノよの。余も嫡男はなんとか成ったが、二男以降はどうしたものかと悩ましくてな」


「ローマ教皇に使節を派遣する際に、軽んぜられぬ様に

一行の長とするのは如何でしょう?」

「使節の長か、長旅になろうし船に慣らさねば覚つかんな」

「左様にございますな」



堺政所に到着した。寄らずに帰ろうとするが、翌月の給与を受け取っていけと言う。有閑殿からたっぷりと受け取り、借りていた分を戻す。これで自由に動かせる幅が増える。


感謝し政所を後にする。

蔵屋敷に戻り、干物などを炙って食ってマニラへの一行と暫しの別れに一杯呷あおる。




翌朝も快晴である。出航にも素潜り作業にも都合が良い。朝飯を手早く済ませ、現地集合する。


商館にて船員を引き取る。一人の漏れも出ていない。


乗船する一行にも一言づつ言葉を掛ける。事前に話し合って居るので今更付け加えることは無い。が少しばかりの心付けとして多少の金を渡しておく。手元が少ないでは心許無いでな。


少ない手荷物をぶら下げ、一行は一隻にまとめて乗艦する。次に会えるのは三ヶ月程してからか。帆が張られ風を受けて動き出す。


帆が小さくなる頃に助介達が港に道具を並べだす。船員が描いた沈没船の間取り図を元に作業を進めるようだ。


作業目的は船の中に空気を送り込む。浮かせる事は出来ずとも、引っ張る時に船を軽くさせる事。


大まかに手順は伝えておいた。

船の真上まで竹筏を組み桟橋を作り、木枠をはめてガッチリ固めて人の高さほどの柱を二本立てて、滑車を取り付ける。


滑車から先には綱に重しを結び、網を取り付け空気樽を網に入れる。船の船倉への出入り口内側に大樽を2つ設置し、大樽に空気を貯めて水中作業者の息継ぎ場とする。


重しと空気樽は併せてゆっくり落ちる様に調整し、出入り口へ綱で引き込み大樽に空気を詰めて行く。


空気が悪くなった大樽は蓋をして浮きとして船の前後に配置する。大樽は常に2つ用意してそれを繰り返す。


これで水上と水中の往復で力を使い果たすことは無い。水中作業は3人で行い、15分を目安に交代する。キッチリ時間を測れるように時計を用意する。こちらは助介の手の者が12名で行う。


水上で空樽と重石を繋げゆっくり降ろし、空気を吐き出した樽と重石を引き揚げるのは、上様が集めた者達が行う。馬廻り衆が監督する。


一通りの流れが繰り返されて問題無い事を確認して、ワシは港を離れる。あとは現場の者が調整するであろう。


ワシは船員たちと通詞を連れて蔵屋敷に戻る。先ずは彼らが買い込んで来た物の査定だ。

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