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胸襟を開く事と金平糖

「所で林殿、南蛮の最盛期にローマという国があった

そうなんじゃが聞き及んでおるか?」

「ローマ?初耳じゃな、上様の側仕えの

時分にも聞いて居らんな」


「そうか、伝わって居らんのか。

そのローマは千年ほど前に大凡滅んだんじゃが、その頃既に石造りの上下水道が国の至る所に張り巡らされておったらしい」


「なんと、恐るべし技術じゃの!」

「そうなんじゃ。でなローマの貴人同士では、寝そべりながら飲み食いしておったそうな」


そう言って信盛は横になると頭に手を添えて杯を呷ってみせた。


林殿は呆れた顔をしながらも、座布団を何枚か持って来てこちらに2枚渡す。

座布団を敷いて向かい合わせるように林殿も横になる。杯を空ける。


「確かに腰が楽よな。なんじゃお主も妙な気遣いをするの。さっきのローマ云々は只の枕詞かい?」

腕枕をしつつニヤニヤ笑いかけてくる。


「南蛮の船員に聞いた話しよ」

「イエズス会の者では無くか?」


「あやつらは上っ面の事しか話しよらん。

それでは役に立たんじゃろ、で船員の休憩所に酒を持って行ったのよ。

そしたら横になって酒盛りしておっての」

「ほう」


「何度か通っておるうちに通詞も交えてワシも混じって横になってな。

色々話した中にローマも出て来た訳よ」

「南蛮の船員と横になって酒酌み交わしてか!ハハハ、

そのような所業はお主くらいであろうよ」


「信栄もやるようだがな」

「親子でか、上様以上にかぶいておるな」

「いや、これが効果あってな。

横になるとほれ、胸元も自然と開けて来よう?

まさに『胸襟を開いて話す』をその通りやってるのよ」


「フハハ、正しくそうじゃの!

お主以上の交渉上手は居らんかも知れんな。

して横になった男同士で相手の胸をまさぐってからの、、」

「ワシに男色の気はないぞ!」


「冗談じゃよ。光源氏には似ても似つかんしな」

「フフン、林殿も冗談など言うのだな。

付き合いも30年近くになるが初めて聞いたぞ」

「これも胸襟開示の効果かの〜」



「ではぶっちゃけた話で追放の理由じゃ。

ワシの追放には領地の召し上げが絡んでくるが、林殿は右筆の職ゆえにさほどには持っておらんじゃろう?

何故家中に疑心暗鬼が巻き起こすことを、続けて上様はされたのかのう?」


「急に真面目な話に引き戻されたの。

そうさな、お主の場合は

1、畿内の領地召し上げ

2、家臣の讒言

3、他家の謀略 辺りかの。

ワシの方は『老臣の排除』しか心当たりないがな」


「ワシの方はそれでも、お主の方はまだあろうよ。

上様と若様の右筆を務めた身じゃろう。

主君の行動予定や習慣、好みや外交文書など、他家の忍びの命を幾つも散らさねば得られん情報を持っていよう?」


「つまりは他家の謀略がワシにも及んだと?

ワシを追い落として取り込めば情報を得られると?」

「うむ、他家からのはもちろんじゃが、織田家中の者も除外出来んぞ」


「家中とな?」と林殿は顔をしかめる。

「謀反するにもゴマをするにも主君の側仕えからの情報は欲しかろう?」


「確かに、そういう事をそれとなく聞いてくる者もおったな。

もちろん、やんわりと断ったし、後輩の側仕え共にも口を固くせよと伝えておったがの」


「ふん、口煩い右筆を追いやる理由は家中の内外にあるではないか」

「確かにな」


「お互い自身の事はよく見えていないものよな」

「灯台下暗し、じゃな」


そう言ってから林殿は灯台の灯心に火を点けた。

(※灯台には港に明かりを提供するものと、

油皿の油を燃やす室内照明具がある)


昼過ぎに訪問したが、かなり時間が経って

いたようで、もう外は夕闇に包まれている。



ワシは道中で買った土産を思い出した。

みたらし団子である。

笹包みを開き、早速一本の串を摘んで口にする。

「どうぞ、召し上がれ」

「頂こう、うむ、ほんのり甘いの」


お気に召したようで「そうじゃ」と林殿は立ち上がり、大根の漬物を持って戻ってきた。


「どうぞ、召し上がれ」

「うむ、こちらもほんのり甘いの」


「甘いは旨いじゃな」

「ほんにのう、甘いといえば金平糖は食べた事あろう?」

「あれはほんに甘いの!

上様のご相伴で頂いたがの、歯に染み渡って2日経っても口の中に甘みが残ったもんじゃ」


「気に入ったということかの、その金平糖じゃがの、ポルトガルの言葉で砂糖菓子の意味のコンフェイトが由来らしいぞ」

「コンフェイトが金平糖?」

「あちらの発音そのままに、日本語で意味が通じやすいように通詞が考えたようじゃな」


それがしはてっきり金と同じくらい高価な菓子ゆえ、金平糖と名付けられたと思っておったよ」

「ワシもじゃ、船員に酒を持って行った時にな、金平糖もつけたんじゃ。

そしたらコンフェイト、コンフェイトと喜ぶでな。金平糖!金平糖じゃと言うたらの〜

通詞が当字の由来を語ってくれたんじゃ」


「ほう、喜んだと言うことはあちらでも高価なのか?」

「町民でも多少金に余裕があれば買えるそうじゃ。

ポルトガルは南方にも領地があって、砂糖を栽培させて安く作れるそうな。

地球儀でどの辺りの南なら作れるか聞いたら、日本からすると沖縄や台湾辺りで出来るんじゃないかとな。

砂糖さえあれば作るのは難しくないらしいぞ」


「沖縄や台湾とな、でお主地球儀なぞ持って居ったのか?」

「堺の豪商に招待された時にな、地球儀が置いてあっての。

それで頼み込んでな、半紙を上から丸く当てて折り目をつけて書き写したのよ。

後は馴染みの職人の所に持ち込んで、再現して貰ったという訳よ」


「お主、抜け目ないの〜!」

「ムッフフ、現物があると話が早いでの。

で金平糖じゃが、保存が効くらしくてな。

乾燥させておけば20-30年後でも食えるらしいぞ。

量産できれば兵糧にもできるかもな」

「お主の話はほんに面白いな。堺の豪商が自宅に招きたがるのも納得じゃ」



その頃にはみたらし団子も無くなっている。

沖縄の由来は、「沖あいの漁場」を意味する「おき(沖)な(魚)は(場)」説と、「沖にある場所」「遠き場所」を意味する「おき(沖・遠き)なは(場所)」説がある。


淡海三船が著した鑑真の伝記『唐大和上東征伝』(779年成立)では、(754年1月9日)遣唐使一行が阿児奈波島(おきなわじま/あじなわじま/あこなはじま)に到着したとある。

「琉球」は中国名ですので、こちらでは沖縄を採用。


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