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信栄・久通・カルロス・守人はマニラ行き

朝日が眩しい。モゾモゾと起きだして井戸端で顔を洗う。


昨日の南風は止み、涼しい西風に変わっている。水場の作業は早めた方が良いかも知れぬ。


部屋へ戻ると弥助が旅立ちの準備を終えている。

「信辰が居なくとも、2日は近場で待機してくれ。近所から戻ってくるかも知れんでな」

「了解しました、では行って参ります」


「叔父上の所へ行くか、信栄も頼りにしてると伝えてくれ」

「ハッ! 必ずや」

弥助は身軽に出発する。上手く行けば10日で戻ろう。



助介はと見ると、配下達と何か話している。助介を呼ぶ。

「助介よ、船の引き揚げだが、スペインの船団が去ったら本格的に始めようと思う。先に準備は始めてくれ。

また水中を往復して貰うことになろうから、潜る者たちはそれまでは休養させてくれ」

「承知にござる」


「嫁入り希望の者はいつ頃堺に着こうかの?」

「10日後程には着く予定にござる」


「それまでには宿舎や教室も用意せねばならんな。有閑殿と相談しておこう」

「頼みまする」


「それとマニラに同行する護衛の者は決まったか?」

「はい、守人!こちらへ」

呼ばれて飛んで来た小柄な男は信栄より少し若そうだ。

「守人にござる。護衛に選ばれて光栄の至り!」


「ウム、守人よ、信栄達の護衛もだが、スペイン語も覚えよ」

「ハッ!」


「あと、寄港先で日本人の奴隷が居たら買い戻していくが、現地に残ることを希望する者も居よう。可能なら現地で情報収集させよ。各地に情報網を作るのじゃ」

「ハハッ!」


「買い戻しは別の者が行う。残置諜報の活動費用を守人に預けておく。多くは無いが上手く使ってくれ」

50人が1年食える額を渡しておく。

「草(現地の情報提供者)を作れと言うことですな。了解にござる」


「では信栄の事、しっかと見てやってくれ。博打で有り金持って行かれたりせぬよう頼むぞ」

「ハハ、父上も冗談がキツい。公金に手など付けませぬ。守人よ、護衛やら色々大変だが、よろしく頼む」

「承知致した! よろしくでござる」


「信栄と久通殿はワシと船員の様子を見に行こう。守人も付いて来るが良い。スペイン人にも早めに慣れておいた方が良い。 まずは朝飯を食ってからじゃな」

「ハッ」



焼き魚のほぐし身と漬物を入れた茶漬けで腹を作るとワシらは商館へ、助介は引き揚げの準備に向かった。


商館に行く前に有閑殿の居る堺政所へと向かう。通詞の2人を追加で借り受ける為である。


門番に来意を伝え、有閑殿の側仕えが迎えに来て、部屋へ案内される。

「お早う、盛栄殿、これから商館へ行かれるか?」

「おはよう、有閑殿、その通りじゃ」


「ウム、追加の通詞2人じゃがの、久通殿の兄弟を充てる事にした。次通殿と定通殿じゃ」


「よろしくお願い致す」二男と四男だろう兄弟が挨拶する。世間的に身分を隠すワシの事情を考慮しての事だろう。


「次通殿と定通殿、よろしく頼む。お二人とも久通殿並に通詞が出来ると考えて宜しいか?」

「いえ、最初に久通が覚えて、実入りが良いので私共も覚えたので、久通が一番言葉を多く知っております」


「そうであったか、では久通殿、マニラにはやはり貴殿が同行してもらえようか?」

「畏まりました、船旅に慣れるか不安は有りますが、信栄殿、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお頼みします」


マニラ行きは信栄、久通殿、カルロス、守人となる。

まぁ船団長と上様の許可次第ではあるが。


「有閑殿、船員達は明日からの宿が決まっておらん。また嫁候補も10人ほどが10日経つ頃には堺に到着する。何処か良い屋敷は無いだろうか?」

「それは手前が用意する。後々は出島に居留地であったな。そちらも準備しておこう」


「何から何まで手間を掛けて貰って申し訳ない」

「なに、いずれ掛けた手間の数倍の利を織田家にもたらしてくれよう? 先行投資よ」


「期待していてくれ!」

ウム、ウムと有閑殿は嬉し気である。ではと礼をし、通詞三兄弟も連れて商館へと向かう。



商館へ着くと配下の船員たちが残っていて中へ通される。船団の船員は貨物の配置をどうするか港湾荷役に指示するため、船に向かった後だ。

重いものは底に配置し、軽い物や次の寄港地で降ろす予定の品は上の船倉に置くのだろう。



配下の船員達は紙と、去っていく船員から買い取った品物を持って列を作る。紙には夫夫の名前と役に立つと思う事柄が書かれている。

通詞が翻訳し内容が良ければ後で払う、と伝え紙を回収する。


品物は一人一人、通詞を交えて評価を決め、その場で金粒を渡す。渡す度に歓声が上がる。

地図や鉛筆を束で持って来た者には多めに渡した。鉛筆は助かる。ワシも使うが消耗品じゃからな。


本は評価が難しい。が大まかに値段を決めて買い取る。これも通詞が内容を確認して、良ければ追加で払うと伝える。


配下の船員は買い取った金額以上を受け取る。追加で今夜も他の船員から買い取るだろう。


多少多めに渡しても商人を介するより格安である。古本でも情報の価値は新品と変わらんしな。


引き続き良い考えが浮かんだら、紙に書いて提出するよう伝える。これは当面の彼らの業務である。

業務報告書は通詞達に翻訳させていく。各行の上に訳語を書く様に早速鉛筆を渡しておく。


船員たちには解散を言い渡し、カルロスを呼ぶ。

「昨晩アラビア数字を覚えたが、計算しやすくて良いな。会計報告書の見本を持ってないか?」

「会計報告書ですか、ちょっと取ってきますネ」


しばらくして何枚か書類を持ってきて渡してくる。

「これは上に報告しなくても大丈夫な書類か?」

「沈没した船の分デス。もう不要です。よろしければドウゾ」


「助かる、でどの様に見るのじゃ?」

「一枚の紙の左右に買った物の金額と出て行った金額を、並べて書いていきマス。次に別の物を買った時には、次の行に書きマス。取引を何度繰り返しても左右の合計は同じになりマス」


「わざわざ2つに分けることに意味があるんじゃな?」

「そうデス。金の出処と用途・所在が分かりマス。慣れれば全体の金の流れが分かりやすくなりますヨ」


「フム、ではマニラに買い付けに行く時の報告書は、この方法でやってくれ。詳しく聞きたいが時間が無いでの。解説本もあったら買ってきてくれ」

「分かりまシタ。代金は明日までに間に合いますカ?」


「それはなんとかしよう。4人乗船の件は大丈夫か?」

「代金が用意できれば問題無しデス」


「そうか、船長や航海士の雇入れはどうであろう?」

「シエスタ大名の金払いの良さが伝わって、気持ちは傾いておりマス」


「良し、では明日の朝にまた来るでの」


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