台風と潜入
親子の対面が叶った3日後に大きく天候が崩れた。
堺の港から外れた砂浜に建てられた小屋。闇夜の中、強風と雨が小屋を軋ませる。中でワシと助介の配下数人が焚き火を囲む。
堺の町は海と川堀で囲われて、2箇所ある門は夜間には閉じられる。
10人もの多数で人目につかず行動するには、堺の中より外からのほうが良い。
「助介、工具の用意は問題ないか?」
「道具は小舟に固定して揃えてござる」
小舟は2隻用意し、工具の配置も同じ位置に揃えている。これなら暗闇でも手探りで目当ての工具を探し当てられるだろう。
工作員達は黒手拭いを被り、腕と胸から上は真っ黒である。油と炭を混ぜたものを塗っている。眼だけが白く浮き出ている。水に濡れても色落ちせぬだろう。
船の方も同様に真っ黒である。人目を避けることはできそうだ。
手順は以下のとおりだ。
小舟で漕いで堺の港近くに侵入し、そこからは舟をひっくり返して舟を浮かべながら押して泳いでいく。
狙いはすでにつけている。
数日前にまだ風がさほど強くない時期に到着した3隻の船団である。
持ち込んだ荷物は軽めの物や、高価な物を一旦蔵に運び込んだようだ。台風を警戒して、過ぎ去ってから荷物を積み直すのだろう。
その内の帆柱3本の中型船が目標だ。防波堤で囲われた湾内にいる。
防波堤から縄を張り船から2間(3.6m)離れた辺りを通して対岸に縄を括る。舟を縄に括りつけ碇でさらに固定する。目標の帆船とは竿で距離を一定に離す。と同時に伝い棒とする。
後は1尺(30cm)ほどの穴を開けたら、持ち込んだ全てを回収して戻ってくる。
「問題は中に人が残っているか分からん事じゃが」
「作業の前に船に一人潜入して、人が居ない箇所を見つけてから作業始めまする」
「となれば後はやるだけじゃな」
「ハッ、では皆いくぞ」 「ハッ!」
皆が身体に油を塗り始めた。防寒用だろう。舟を担ぎ海へ2隻漕ぎだしていく。30秒ほどで輪郭も分からなくなる。
ワシは小屋に戻り焚き火の番である。
パチパチと弾ける熾火に薪を載せながら、失敗して露見した場合には警戒されるだろう事を憂う。
いや、今は工作の成功を祈ろう。
そして上手く沈めた後も問題はある。相手の船長にどうやって納得の上で売ってもらうか、その後にどのように引き揚げ、修理するか。船大工には誰が適当であろうか。
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