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カステラと石山本願寺

「信盛の拠点は堺の織田家の蔵屋敷でよかろ。必要な物はお前の旧宅から取り寄せるが良い」


そう言って上様は書状をワシと林殿へ渡した。旧宅からの私財の受け取り許可状である。


「受け取りは助介の手の者を介してのみ行うように」

「畏まりました」


助介が皿を持ってくる。カステラが切り分けられている。急須も温かい茶が入れられている。

地球儀も上様の脇に置かれる。


「さて、カステラじゃ、最近のワシの好物での、頂こうぞ」

「頂戴致します」


一口で甘みが口の中に行き渡る。

「口の中が極楽気分になりますなぁ」

「これを食べて虜とならぬ者がいようか。最近は余も自ら作っておるでな」

甘いもの好きが加速しているの〜

「上様自らですか、有り難いことです。貴人方への引き出物にも喜ばれましょうな」


「効果抜群よ、じゃが余はこれを金持ちだけでなく、庶民でも頑張ったら手に入れる様な世にしたいのよ」

「庶民までですか、そうなると砂糖が大量に必要となりますな」


「そのことぞ、今のまま輸入に頼っていては夢のまま。その為にも南方開発は必須よ。信盛に助介よ。帆船の入手、お主らの働きに期待しておるぞ!」

「ハハッ、」「畏まりてござる」

毒味としてチビチビと食べていた助介は平伏する。


「助介よ、カステラを何本か土産として与える!村の者皆で分けよ。女子に多めにの。

エウロパの船員と結婚して、言葉を互いに教え合うても良いと思う者には特に重点的にな」

「ハハッ、村の者に砂糖の旨みをしっかと行き渡らせ、上様の意に寄り添うよう説き伏せまする!」


上様、砂糖の為に本気だ。そして甘い物でとろけさせる策戦だ。その先の考えも確認しておきたい。


「上様は先ほど庶民でもカステラを食べる世とおっしゃいましたが、これまで通り働いた者に厚く報いる、とい事に変わりは有りませんか?」

「当然じゃ、逆に何もせずに領地を上手く経営もせず、人から奪うことのみに長けた者には厳しく当たるぞ!」


やはり上様は天下人となられた今も昔も変わって居られなかった!

関所の廃止などで既得権を排し、銭の回りをよくして民も織田家も共に潤う。このお方に仕えられてワシは幸せ者じゃ!

しかし疑われての追放はつくづく悔やまれる。

ワシの脇の甘さが原因ではあるが……


「寺院の既得権益については如何でしょう?」

「宗教が民の心を安らげる役に立つ限り手を出さぬ。じゃが兵を集めて己の教えと違うものを認めぬ者など、余は認めぬ」


上様は寺社へ寄進や保護など数多く行っている。

宗教全般を毛嫌いしているのではなく、排他的・拝金的なモノを嫌っている。


「一向宗の財力は莫大でございます。寺領にて、金貸し、色町、賭博など行い税を収めません。如何なさいますか?」

「教えと世俗的な事業は分離させる。事業は儲けの多さに従い税を収めさせる!」


上様とワシの想いは同じである。


「一向宗共のこもった石山本願寺に対して講和の勅令が出されましたが、あれは上様の働きかけでしょうか?」

「いいや、包囲していたお前が仕掛けたのかと思うて居ったがな」


「ワシは本願寺顕如とは書状にて降伏の条件など話合うておりましたが、中々に強気の態度で折り合いがつきませなんだ」

「本願寺側から朝廷に働きかけたかもな。いつまでも包囲されて動けぬでは顕如の絶対権力も足元掬すくわれかねんからな」


今上天皇であらせられる正親町天皇は、うち続く戦乱の世で困窮し、即位の儀を執り行う事が難しかったが、毛利元就からの多大の献金を受けて即位している。


その後、また困窮した際は本願寺顕如からの献金で凌いで感謝も表している。

上様が仰られる朝廷とはその線であろう。


「左様ですな。今更ですが石山本願寺攻め、上様なら如何なされるおつもりでしたか?」

「大砲が揃うのを待ったであろうな。さすれば小田原城まで出向かずとも、畿内で織田家と大砲の威力を知らしめたであろうよ」


「石山でのお披露目をお考えでしたか」

「ウム、先に勅令が下されてしまったし、まだ大砲も数が揃わぬしで実現出来なかったがの」


「そうでしたか。ワシは力攻めしてでも、石山を落とすべきだったのでしょうか?」

「雑賀衆の鉄砲の待ち構える所に、大砲なしではな。五割の兵をすり潰してやっと落とせる辺りか。そんな戦をすれば、次に号令を掛けても兵は集まらんだろう」


ワシと上様で方針に差があった訳では、無さそうじゃ。

「信盛の回りには讒言ざんげんや流言が多くてな。石山と組んで、謀反を企んでおるなどとな。そこにお主の筆で顕如宛の書状が届けられたりもあってな。

所々墨でつぶしてあったり破れているが、お主が顕如と組んでいると読める様になっててな。

勿論、余はお主の忠誠を疑ってはおらんかったがの!」


「石山を包囲していたワシの方こそ包囲されて、進退極まっておったと言うことですな……」

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