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書記について

ほぁぁぁ、フー、はーんんん……

むにゃむにゃと目をこすりながらまどろみから目覚める。ふー、底冷えするわい。


「目覚められたか、信盛殿」

背中から声がする。目をやると爺が囲炉裏に薪をくべている。


林秀貞殿である。ワシ佐久間信盛と同じく

織田家から追放された男。

「おはよう、林殿、ということは、昨日の事は夢では無かったのだな」

「ハハッ、まさに夢のような話であったな」


「そうだな、追放されてから昨日まで、天国から地獄に突き落とされて、奈落の底を這いまわっていたような気分よ。

そこで朝起きたら底冷えするじゃろ、まだ高野山におって夢でも見とるのかと思うてな」

「某もまだ狐に化かされてる様に思えて、三途の川の渡し船に片足掛た所で

引き戻された気分よ」


「そうよの、ワシも川を渡ってる最中に手綱で岸に引き戻された感じじゃわい」

「お互い一度死んだ様なものよな」

「じゃな、生きておった頃の贅肉がガッツリ削ぎ落とされたようでな、浮世の煩悩が消し飛んだ気がするわ」


「ほんにの、じゃから柵から解き放たれて、後は保身のことなど気にせず好きにモノも言えるというもんじゃ」

「そうよの、好き勝手に天下の事を語っておるしな」

と開いている窓から空を見る。


青空から光が降り注ぎ天気も良いが、ここは京都の外れで山も近い。秋口でも朝の底冷えも納得である。


土間の所で助介が数人に指示を出している。

皆が散って助介が戻ってくる。


「おはようございまする。佐久間殿、林殿」

「お早う、朝から忙しいようだの」

「お早う、お主が居ると言うことはやはり夢では無かったようじゃの」


「夢では済ましませんぞ、昨晩の話はぜひ実現

させて頂きたく、早速上様に書状を出したで

ござる」


「そ、そうか、仕事が速いの。

でその、上様の命を横になって二人とも聞いておった所じゃがな、そこは省いて呉れてるであろうな?」

「ローマ式のもてなしの様子でござるな。話の肝ですので当然、経緯と効果の程は報告してござる」

うっ、頭が痛い……二日酔いかももしくは夢の続きであって欲しい……



林殿はというと、助介の両肩を掴んで詰め寄っている。親指が喉に掛かっている。

「報告の仕方によっては、某らは上様に対して

無礼者になろうが!!」


が、するりと助介は林殿の手からすり抜け、後ろに下がってひざまずく。

「ご安心下され、お2人は織田家の今後の方針を示す大事な方々、上様との仲を裂くような事は決して致しませぬ。

上手く報告を上げております。不要な部分は拙者の胸の内に留めております。ローマ式の真髄でござる!」


なんだか助介が頼もしく見える。

そして弱みを握られた様な気もするが、まぁ今更である。どちらにせよ頼ることになるのだから。


「助介よ、頼もしきやつよ、ワシはお主を

頼りとしておるぞ」

「某も頼りとしとるぞ、ただ書状の書き方は

重々注意したほうが良い。信盛殿への折檻状

の例もあるしの」


「ハッ、頼りにして頂きたくござる」

「で書状はどのようにしたためて居った?」


「書記の者が2人でそれぞれお二方の発言の要点のみ記帳し、暫くして別の者と交代し、奥で要点を繋いで、お二方の会話を再現した報告書でござる」

「要点は押さえて流れも汲んで居るということじゃな?」

「そうなりまする」

ウム、と林殿は納得したようだ。元右筆だけに書状の書き方には、強く思う所があるようだ。


「そうか、安心したぞ、では某は顔を洗ってくるでの」という林殿にワシもついて行く。

手拭いを渡されて、外の井戸へと向かう。


井戸から汲み上げた桶から、互いに柄杓ひしゃく

で手皿に水を移し口をゆすぎ顔を洗う。

手拭いで顔と上半身をぬぐう。


「助介は要領よく出来る男の様じゃの」と声を抑えるでもなく林殿は言う。

「そうだな、上様から直接指示を受けておる様な応答であったし、信頼も厚いのであろう」

周りに聞き耳もあろうが、それも含んだ上で返事をする。


「某らの案も安全も、助介達次第という所かの」

「一方的に保護されるだけという事にならなければ良いがの〜」


「硝石の特許やら戦国の世の終わらせ方、帆船の取得だけでも大手柄であろう? 

それをあやつらが手助けするのじゃ。言わば我らは一つ船に乗る同士と言うことよ」

「ワシが言いたいことを最後にいいよったな。所で、林殿も何か色々考えはあろう?」


「あるが、それは飯を食うてからにしよう」

「なんじゃ、勿体ぶるのう、気になるぞ」


「じゃがもう昼近いでな、飯じゃ!飯」

そう言うと絞った手拭いを干場の紐に引っ掛けて、屋内へと入っていった。


見上げると太陽は高く上がっている。

昨日は夜遅くまで話しすぎたようだ。

物干しでは洗濯バサミ使うだろうと思いつつ、

洗濯バサミ 歴史 でググったら1580年頃にあった

かは不明でしたので作中では使っていません。


今の様な形の洗濯バサミは1850年頃に出て

来たようで、「若草物語」で4女のエイミーが

低い鼻を気にして寝るときに、鼻を洗濯バサミで

はさんでるという記述があるそうです。

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