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RUN

作者: 黒桐柊一

カナロは走った。

がむしゃらに走った。


土を蹴った。

草を踏んだ。

コンクリートを駆けた。


町の賑わいを横目に。

街の喧騒を尻目に。


ただ前だけを見て、ただひたすらに走った。


木々のざわめきが耳をかすめ、

海鳴りが遠く静かに響いた。

川のせせらぎは染み入るようで。


誰かに呼ばれた気がした。

それでもかまわず走った。


友がいた気がする。

・・・家族は?


考える間すら惜しむようにひたすら駆けていく。


不意に足が止まった。


息も絶え絶えで、肩が大きく上下する。


ゆっくりと呼吸を整え、辺りを見渡す。


・・・ここはどこだ?


いったいどれほどの時を、どれだけの距離を走り抜けてきたのだろう。


たちどまったそこは、カナロが見たことのない場所だった。


木々が生い茂り、風がやさしく流れている。

眼下には遠く町並みが見てとれる、小高い丘にいるようだった。


いったいどれほどの道程を駆けてきたのだろう。


失ったものは多く、

取りこぼしたものは数え切れず、

無くした何かの中には、

大切で大事なものもあったのだろう。


愛おしかったはずの人の、

顔も声もおぼろげで。


後悔はある。未練も。


痛みと嘆きを振り払うように駆けてきたのだから。


それでも何か、得たものはあるはずだ。

自分の中に、確かに残っているこれは、

持って産まれた何かじゃないはずだ。


そう言い聞かせて。


大きく息を吸う。

静かに息を吐く。

軽く上に跳ねた。


再び脚に力を込める。


・・・ここはまだゴールじゃない。


そう思って少し笑った。


ゴールを求めて駆けてきたわけでもないのに。


さりとて、

カナロは再び駆けていく。


また失っていくのだろう。

また無くすのだろう。


けれど今度は、


得るものの多い旅路を。


失くした何かを取り戻す道行を。


そんな微かな期待とともに。


そしていつか、風になる。

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