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第67話「幼き日の面影」(2)【挿絵あり】

「ベル。遅かったじゃないか」


 その時ヒューゴが口を開く。聞き覚えのある懐かしい声が、ベルの耳に届いた。

 これは夢か幻か。ベルはそう思っていたが、目の前に広がる懐かしくて温かい光景を受け入れた。目の前の光景が幻かもしれないと言うことは、ベルは内心理解していた。彼らの姿は、ベルの記憶にある姿と変わらず、変わらず子どものままなのだ。


挿絵(By みてみん)


 ヒューゴも、アンカーもアイリスも。3人とも11年前と全く変わらない姿で存在している。


 ヒューゴはベルよりも明るい金髪で、グレーのスーツに身を包んでいる。首元には紺色の大きな蝶ネクタイが巻いてあり、まるで小さな紳士だ。


 アンカーはベルと同じような金髪の上に赤いバンダナを巻いている。ボロボロのシャツに、腰に巻いた長く赤い布、そして手首のリストバンド。海賊に憧れているのがバレバレのファッションだ。


 紅一点のアイリスは茶髪で、三つ編みのおさげ。彼女はシャツの上に茶色いコルセットを巻き、赤いカーディガンを羽織っている。下半身には薄ピンクの柔らかなスカート。いわゆる森ガールのようなファッションだ。


 3人とも11年前の姿のまま。そんなことがあり得るのだろうか。11年間を牢獄で過ごしてきたベルでさえ、立派に成長している。それなのに、彼らが全く成長していないわけがない。


 ところが、ひとときの幸せに浸っていたベルは、一瞬にして現実に引き戻されることとなる。

 何者かがベルの背後から現れ、3人の友のもとへと走って行ったのだ。ベルは信じられない様子で、呆然としている。3人のもとに駆けつけた人物の正体は、何とベルだったのだ。


 ベルの後ろから現れた“ベル”は、明らかに現在のベルよりも幼い。どう見ても11年前の姿と同じだ。その光景を目の当たりにしたベルは、あることを思い知る。

 今目の前に広がっている光景は、11年前の懐かしい思い出と全く同じ。まだ平和だった頃の何気ない日常の断片。


 ベルは眠って夢を見ているのか、それとも何らかの方法で幻を見せられているのか。考えを巡らせていたその時、さらにベルを混乱させる事態が起こる。


「ゲヘヘヘヘ……」


 何と、楽しそうに戯れる4人の子どもの前にベルゼバブが現れたのだ。そう、あのベルゼバブだ。


「‼︎」


 ベルは思わず身構える。アドフォードでジェイクに撃退されたはずのベルゼバブが、なぜだか幸せな記憶の中に現れた。

 小さいベル、ヒューゴ、アンカー、アイリスの4人はベルの記憶通りの動きをしているが、そこにベルゼバブが現れることはあり得ない。

 11年前、この4人の子どもとベルゼバブに接点があったとは考えにくい。


「旨そうなガキ共だな……」


 ベルゼバブは4人の子どもたちにどんどん近づき、やがて牙を剥く。無力な子どもたちは、抵抗することも出来ずに呑み込まれてしまう。ただ、不思議なことに彼らはベルゼバブを全く恐れていない。


 その瞬間、4人の子どもの姿は煙のように儚く消えてしまった。傷ましい光景を目撃せずに済んだベルは、胸を撫でおろす。幼い自分と幼馴染がベルゼバブに食われる光景など、見たくもない。


 幻の子どもたちが消えた瞬間、なぜだか森の中の光が失われた。


 ギロ……


 直後、子どもたちに襲いかかったベルゼバブは、ベルの姿を捉える。

 確実にベルゼバブはベルの存在に気づいている。もし今見ていた4人の子どもだけが幻で、ベルゼバブに干渉されて消えたのだとしたら、今そこにいるベルゼバブが幻ではないとしたら。そう考えたベルは、思わずその場から走り去った。


「嘘だろ……」


 ベルゼバブから一目散に逃げ去ったベルの心臓の鼓動は、速まっていくばかり。 “消えゆく星の残り火”と言う特殊なアイテムによりベルゼバブは大きな傷を負ったはず。あの悪魔はすでにその傷を癒していて、あっという間にベルに追いついたと言うのだろうか。

 それが事実だとすれば、ジェイクは無事でいるのだろうか。様々な思いがベルの頭を駆け巡る。新しい技も身に付けた今、ベルゼバブと戦うことも出来るが、人智を超えた悪魔の力に、ベルは感じたことのない恐怖を抱いていた。それにここにはリリとアレンもいる。2人を護り抜く自信は、ベルにはなかった。


 悪魔はベルの想像以上に強力な力を持っていて、決して侮るべき存在ではない。1度撃退したと思い込んでいた悪魔が再び現れたと言う事実が、ベルを恐怖に陥れていた。


 もしあのベルゼバブが幻ではなく本物だとすれば、呑気にこの森の中で休んでいる暇はない。一刻も早くリリとアレンを連れてここを抜け出さなければ取り返しのつかないことになりかねない。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 その頃不安に怯えていたのも束の間、リリは眠りについていた。どれだけ怖かろうと身体は正直だ。疲れ切っていたリリは気持ち良さそうに、口をモゴモゴさせながら眠っている。

 その隣にいたアレンは横になってはいるものの、薄眼を開けていた。ベルが傍にいてくれないと、やっぱり心配なのだろう。


 ガサガサ……


 目の冴えているアレンは、不穏な物音に気づく。何かが近くにいて、草を掻き分けながらこちらに迫って来る。幼いアレンでもそれは分かっていた。徐々に徐々にその音は大きくなっていく。


 この時すでにアレンは身を起こしていて、音の聞こえて来る方に釘付けになっていた。

 正体不明の何者かがすぐそこまで迫っていることを予感したアレンは、アドフォードの火事の時のように怯えていた。恐怖に支配されたアレンは動くことが出来なくなっている。


 草を掻き分ける音が大きくなるほど、アレンの鼓動も大きく聞こえて来る。


 ガサガサッ!


「わあぁぁーっ!」


「おっ!」


「えっ?」


 これまで物音を立ててきた謎の人物が目の前に飛び出し、アレンは思わず大きな声を上げてしまう。それに驚いた正体不明の何者かも声を上げ、それで目を覚ましたリリも、思わず声を上げた。


「お、お前か」


 アレンとリリの前に飛び出して来たのは正体不明の何者かではなく、ベルだった。慌てて来た道を帰って来たベルは、無造作に生い茂る草を掻き分けて元の場所に戻って来たのだ。


「お兄ちゃん!おどかさないでよ!」


 ベルの姿を確認したアレンは大きく溜め息をついて、安堵する。何も心配することはなかったのだ。それでも、ベルに驚かされたことに腹を立てたアレンはふくれっ面だ。


「ハハハ……ごめんな………………ってそれどころじゃないんだよ!」


 ベルは笑いながらアレンに謝ると、慌ててベルゼバブの存在を思い出した。


「それどころじゃないって……何かあったの?」


 慌てふためくベルを見て、リリは首をかしげる。


「さっさとこんな薄気味悪い森なんて抜け出すぞ‼︎ベルゼバブがいたんだよ!」


 悪魔の未知数の力を恐れるベルは、リリとアレンの腕を掴んで、すぐにこの場を去ろうとする。


「ちょっと待ってよ、ベルゼバブって…………え、ベルゼバブ⁉︎」


 腕を掴むベルの手を振りほどきながら、リリはその話を聞き流す。少し遅れてベルの話を理解したリリは、思わず大きな声を出して驚いた。


 今ベルたちが追われているのはリミア連邦と月衛隊(ルナ・ガード)だけではない。ベルゼバブも彼らを追っていたのだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


幼き日の面影とか言いながら、めちゃくちゃ新キャラ登場しました笑 彼らは近いうちには登場しませんが、もちろん今後重要なキャラクターになってきます。


さて、またまたベルゼバブが登場しました。ベルたちはベルゼバブから逃げ切れるのか⁉︎

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