表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/388

第66話「炎の印」(1)

星屑の泉を見失ったベルの行く手を、塞ぐ者がいた。


改稿(2020/09/26)

 炎の印を見たのを最後に、ベルは星屑の泉を永遠に見失った。失った記憶と知るべき記憶を見せつけられたベルは、再びアムニス砂漠の真ん中に立っていた。


 今まで見てきたものは夢か幻だったのだろうか。そう疑っていたベルだったが、星屑の泉とブルーセの存在を証明するものがあった。それは彼から受け取ったアイテムだ。ベルは砂色のローブに身を包み、手には青い小瓶を握りしめている。

 さっきベルが見た全てのものの真偽は、疑いの余地もない。ベルが知らずのうちに犯してしまった罪も、忌むべき存在も、この先進むべき道も、使うことの出来る力も、全てが本物。中には蓋をして2度と触れたくない真実もあるが、どれだけ否定しようと、どれだけ隠そうと、真実はそこで待っている。


「よし…………」


 今まで自分が何をして来たにせよ、今やるべきことはただ1つ。さっきブルーセから見せてもらったルートを進み、手薄の国境を越えてアドフォードへ侵入する。悩むのはその後だ。

 幸い、ブルーセから貰った星空の雫があるおかげで、砂漠で野垂れ死ぬ心配はない。気持ちを入れ替えたベルは、しっかりとした足取りで歩き始める。


 それにしてもブルーセと言う人物は、一体何者だったのだろうか。星屑の泉も十分謎めいた存在ではあったが、そこにいたブルーセはそれ以上に謎めいていた。なぜ誰も探すことの出来ない幻の場所で暮らし、会ったこともないベルの記憶を持っていたのか。なぜ星空の雫という凄まじいエネルギーを秘めた道具を持っていたのか。ブルーセについて考えれば考えるほど、謎は深まっていくばかり。アドフォードへの道を進む間ずっと、ブルーセの存在がベルの頭を離れなかった。


 そうして数時間砂塵吹き荒れる砂漠をひたすら歩いていた時、何者かがベルの前に現れる。砂塵による視界不良と、まだ2人の間には距離があったため、ベルはまだそれに気づいていないが、確かにそこに誰かがいる。


「おい、テメェ‼︎」


 ベルに近づく謎の人物が声をあげる。その声は砂風に掻き消され、ベルには届かない。その人物の存在に気づいていないベルは、ただまっすぐ歩き続ける。


「無視すんじゃねえよ、コラァ‼︎」


 ベルに気づかれていないことに腹を立てたその人物は、視認出来るほどベルに近づいて吠える。


「誰だ、お前?」


 当然目の前に現れたのは、ベルには見覚えのない人物だった。


「アムニス砂漠は俺たち盗賊の縄張りなんだよ。俺の前を通りたかったら、持ってるもん全部置いて行きな」


 ベルの行く手を塞ぐ謎の人物は、アムニス砂漠に現れると言う盗賊の1人だった。乱れた銀髪の盗賊は、野性味溢れる灰色の瞳でベルを睨みつけている。


 彼の額にはヘアバンドが巻いてあり、無造作な銀髪が幾分か整って見えた。

 両腕には包帯が何重にも巻いてあり、その喧嘩っ早い性格が伺える。また、耳に光るピアスからは、光り物が好きな盗賊の性格を伺えた。


「盗賊なんか怖くないさ。俺はアドフォードに行かなきゃならないんだ。失礼するぜ」


 目の前に現れた闘志剥き出しの盗賊を、ベルは一切相手にしなかった。全てを思い知らされたベルは、ある種悟りを開いたのかもしれない。普通の人間なら怖気づいて逃げ出すところだが、ベルは全く恐れる様子を見せない。


「クソ生意気な野郎だ。痛い目見ないと分かんねえのか、コノヤロウ!」


 銀髪の盗賊は苛立ちを募らせていく。言葉で威嚇する盗賊は、その手に巨大なハンマーを携えていた。それはガラクタを寄せ集めて造られたかのようなハンマーであり、先端には重量感のあるしっかりとした金属が一対備えられている。


「うるせーよ」


 どれだけ脅されようと、ベルには目の前の盗賊の相手をする気はなかった。アムニス砂漠で余計な時間を食うわけにはいかない。


 その時砂塵が舞い、ベルの右目を覆い隠していた前髪が浮かび上がる。

 そして目に砂つぶが入ったのか、ベルは右手の甲で左目を擦った。


「⁉︎」


 銀髪の盗賊はベルの顔の火傷、そして右掌の炎の印を目撃し、なぜか驚いた表情をして見せる。


「これはこれは驚いたぜ……大量虐殺の殺人鬼さんよぉ」


 ベルの炎の印を見た途端、銀髪の盗賊の態度が一変した。どうやら彼はベルのことを知っているらしい。


「何の話だ?さっさとどいてくれ」


 今のベルは、早く先に進みたくてうずうずしている。


「シラを切るつもりか。ヴァルダーザ。忘れたとは言わせねえぞ!」


「⁉︎」


 自分の正体に気づかないベルを見て、銀髪の盗賊はある名前を口にする。その言葉を耳にしたベルは、一瞬固まった。この言葉で、ベルは目の前にいる人物が何者であるかを理解したようだ。


「俺はガラン・ドレイク。リミア連邦ヴァルダーザ出身の盗賊だ」


 ようやくベルが状況を呑み込んで来たところで、銀髪の盗賊が初めて自分の名前を口にした。ベルは、ガランの口から出た地名を聞いて動揺した。


「あれは忘れもしねえ10年前のこと。あの夜から2日後のことだった。ブラック・ムーンから2日後‼︎俺の町に悪魔が現れた!俺と変わらねーくらいの小さい子どもの姿をした悪魔がな!」


 ガランの言葉を聞けば聞くほど、ベルの顔が青ざめていく。


「顔に火傷のある、金髪の子どもがヴァルダーザに火を放った。赤い眼をしたそいつぁ本物の悪魔だった。忘れられねえのはその印だ!その赤い印!その赤い印から放たれた炎が俺の故郷を焼き尽くしたんだ‼︎」


 ベルが青ざめていった理由を、ガランが全て説明した。この時から10年前、ベルがアローシャを身体に入れられて2日が経ったある日。ベルの身体を手に入れたアローシャが暴走した。


 身体の自由を確かめるように、リミア連邦を放浪していたアローシャはヴァルダーザという町にたどり着いた。そして、そこに火を放ったのだ。


「お袋、親父、家族は皆焼け死んだよ。町の人間は皆焼け死んだ‼︎俺は生き残ったが、死んだ方がマシだったよ。大切な人を全て失った人生の苦しみが、お前に分かるか!」


 アローシャが襲った町ヴァルダーザは、一夜にして崩壊した。アローシャの放った業火は瞬く間に町中に広がり、大勢の命を奪って行った。これもベルの感知しない所で引き起こされた悲劇だったが、奇しくもベルは、星屑の泉でこの事件を知らされた。


 知りたくはなかった知るべき真実。自分の中に眠る悪魔は、自分の手の届かない所で取り返しのつかない悪行をしでかしていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


記憶を取り戻したベルの前に現れた盗賊。家族を奪われた盗賊が、ベルに襲いかかる!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ