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第63話「吸血鬼の涙」(2)【挿絵あり】

 あの日、バートのベッドに現れた吸血鬼がレイリーだったのだとすれば、全て説明がつく。バートは人知を超えた力が手に入ると嘘をつかれ、吸血鬼になる事を承諾してしまったのかもしれない。


「本当の友達が欲しかった…………本当の家族が欲しかった……」


 レイリーの頭に浮かぶのはベル、リリ、バート、そしてエミリアの顔。少なくとも偽りの存在として過ごしていた頃、彼らはレイリーの友達だった。


 それから家族。彼女にとって、家族という言葉から思い浮かぶ顔は、ベンジャミンただ1人。彼は厳しくレイリーを鍛え上げた。常にレイリーを叱責し、褒めたりする事はほとんどなかった。だからこそ、褒めてくれた時の記憶が忘れられない。

 ベンジャミンは彼女にとって、厳しい父親そのものだった。路頭に迷っていた彼女を拾い、育て上げた屈強な男。そんな父親の顔を思い浮かべ、レイリーは止めどなく涙を流していた。


「私は1人じゃなかったのかな……」


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 一方、ベンジャミンは2人の月衛隊(ルナ・ガード)を引き連れ、月の塔の屋上へとたどり着いていた。部屋には何もなく、人影もなかったため、彼らはすぐに屋上へと上がった。


「…………………」


 屋上に登った3人の月衛隊(ルナ・ガード)の目に飛び込んで来たのは、黒い塊。今となっては、もはやそれが人間なのかどうかも判断する事が出来ない。


 近づけば近づくほど、黒い塊の詳細が見えて来る。よく見ればそれは黒い塊ではなく、黒く焦げ付いた肉の残る骨だという事が分かった。距離が近くなるほどに、それが人の形を成していることが明らかになって来る。


「…………………教皇様?」


 この3人の中でも、教皇の姿をハッキリと見た事のある人間はベンジャミンのみ。数百年も生き永らえた神のような教皇が、死ぬはずがない。そんな想いを抱きながら、彼は目の前の死骸を見つめている。


「………………教皇様が死んだ?」


 ジムは口をあんぐりと開け、呆然としている。教皇はルナト教信者にとって絶対的な存在。そんな教皇が、今彼らの前で、見るも無惨な姿に変わり果てている。


「これを……ファウストがやったとでも言うのか?」


 そしてもう1人、顔を隠した月衛隊(ルナ・ガード)が口を開く。


「………………っ」


 ベンジャミンは声にならない声を漏らした。

 それは誰が見ても明らかな事実。教皇はファウストに殺された。


 その死骸を見つめるベンジャミンの顔は悲哀に満ち、その中にどす黒い怒りも混ざっていた。

 ベンジャミンは生涯を賭けて信じ、仕えて来た絶対的な存在の死を、目の当たりにしたのだ。初めこそ、悲しみが彼の心の中を覆っていたものの、段々と怒りが悲しみを呑み込み始めた。


「必ずやベル・クイール・ファウストを見つけ出し、殺す。仲間も同罪だ」


 すでに、ベンジャミンは修羅となっていた。握りしめた拳は怒りに震え、その瞳は真っ直ぐ、亡き教皇を見つめている。


 アローシャが復讐の鬼を生み出した。かつてない怒りに燃えるベンジャミンは、もう誰にも止められない。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 3人の月衛隊(ルナ・ガード)は、ものの十数分で礼拝堂に戻って来た。


 怒りに燃えるベンジャミンは、階段のすぐ近くに力なく倒れるレイリーの姿を、この時初めて確認した。上に登る時は教皇の安否を確認するのに必死だったため気づかなかったようだが、ベンジャミンは幾分か冷静さを取り戻していた。


 彼女は口から血を流して、薄っすらと目を開けている。

 やがてレイリーは視線を動かし、ベンジャミンと目を合わせた。


挿絵(By みてみん)


 彼女は幸せそうな笑みを浮かべた。それに応えるかのように、ベンジャミンも笑みを浮かべる。


「………………役立たずは不要だ」


 しかし、ベンジャミンの顔から途端に笑みが消えた。


 それから、彼は携えた大剣をレイリーに突き刺した。その大剣は、真っ直ぐにレイリーの腹部を貫いた。巨大な刃は彼女の腹部を切り裂き、回復しようのない傷を負わせた。その傷口からは大量の血液が溢れ出し、同時にレイリーは口から血を吐き出した。


「かはっ………」


 レイリーの(まぶた)はゆっくりと下がり、間も無く目を閉じた。ただでさえ大量の血液を失っていた彼女は、今のベンジャミンの攻撃で、身体中ほとんどの血液を失ってしまった。


 その後すぐに、彼女の身体を動かなくなった。レイリーは生みの親に捨てられ、育ての親に殺されたのだ。彼女の父への愛は、一方的なものに過ぎなかった。


「動ける人員を総動員して奴らを探し出す!必ずや、奴らのオーブを教皇様に捧げるぞ!」


 今のベンジャミンは復讐に取り憑かれた鬼。彼は今まで育ててきた、我が子のようなレイリーを、一切の躊躇なく殺害した。

 ベンジャミンにとっては教皇が全て。レイリーの存在など小さいものだった。レイリーの生き死にを気にかけず、ベンジャミンは、ベルの命を奪うことだけを考えている。


 人の命を奪えば、必ず誰かの心を傷つける事になる。悪魔であるアローシャはそれを全く気にしていなかった。アローシャの奪った命は、復讐の鬼を生み出した。ベンジャミンの奪った命もまた、何かを生み出すのかもしれない。


 いとも簡単にレイリーの命を奪ったベンジャミンは、他の月衛隊(ルナ・ガード)と共に礼拝堂を飛び出した。


 再び月衛隊(ルナ・ガード)の去った礼拝堂には、血塗(まみ)れのレイリーの亡骸が、静かに横たわっている。孤独な吸血鬼の少女の時間は、完全に止まってしまった。動いているのは、流れ出す血と、彼女の目から溢れた涙だけ。


 辺りには血の匂いが充満し、そこからは彼女の哀しみも嗅ぎとる事が出来るかのようだった。かつてない静けさが、礼拝堂を支配していた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ベンジャミンがレイリーの気持ちに応えることはなかった……

レイリーの命が尽きても、ルナトでの戦いはまだ終わりません。


復讐に燃えるベンジャミンから、ベルたちは逃れられるのか⁉︎

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