第59話「力なき戦士」(1)
ベルがレイリーと戦っている一方で、バーバラたちは月衛隊隊長ベンジャミンに立ち向かっていた。
改稿(2020/09/19)
紫髪の巨漢が大剣を構える。そのただならぬ威圧感は、魔獣をも制した。バーバラたちと交戦していた魔獣たちは自ら戦場を退き、全てを隊長に委ねた。
月衛隊隊員はもはや、誰も戦いに加わろうとしなかった。加勢をすれば殺されてしまうのではないかと思わせるほど、ベンジャミンは周囲を威圧していたのだ。
「アンタら、かかるんだよ!」
その時バーバラが無謀な指令を出す。修羅と化したベンジャミンを前に、同志たちは一瞬たじろぐが、果敢に動き出す。
彼らの前に立ちはだかるのは、レイリーをも倒し、ベルもそこから逃げてしまうような強敵。頼りにしていた優秀な黒魔術士でさえ敵わない相手に、黒魔術士でもない彼らが敵うのだろうか。
「覚悟しろ!」
ベンジャミンは、容赦なく大剣を振り回す。あまりにも太いその刃は風を斬り裂き、振り回すだけでも大きな音がする。強力な武器を手に襲いかかって来るベンジャミンに、バーバラたちは手も足も出なかった。
直後、重い一撃がバート目掛けて振り下ろされる。
「くっ……‼︎」
その一撃はバートの脚を掠めたものの、致命傷を負わせることはなかった。
「無力な小僧め」
ベンジャミンはバートを蔑んだ。
6日前、ベンジャミンはまんまとバートの術中にハマった。当初からベンジャミンはエミリアの居場所を知ってはいたものの、わざとバートの演技に騙されたふりをしていた。
ベンジャミンは決して彼の策略にハマったわけではなく、自ら罠にかかった。それが分かっていても、いざその相手を目前にすると、怒りが収まらないようだ。
「デカブツが偉そうな口を利くなっ!」
バートは自らを奮い立たせた。目の前にいるのは、敵いもしない強敵。だが、そんな事はバートには関係なかった。今は、ただ目の前にいる敵に果敢に挑むのみ。
結束こそが力を生む。それがバーバラの教え。
バートは低い体勢から、鋭い刃を振るう。
カキン‼︎
しかし、その刃がベンジャミンの身体をかすめることはなかった。
再び振り下ろされたベンジャミンの大剣と、バートの鋭い剣が、激しい音色を奏でる。あの時のようにバートの剣が粉砕されることはなかったものの、ベンジャミンにダメージを与える事は出来なかった。
「隙だらけなんだよ!」
直後にバーバラがそう叫ぶと、ベンジャミンの身体に小さな穴が空く。バーバラの正確な狙いは外れることはない。バートとベンジャミンが戦っている間、バーバラはずっと狙いを定めていたのだ。
「…………」
バーバラの一撃を受けたベンジャミンは、鬼の形相で彼女を睨みつける。その一撃がベンジャミンに大したダメージを与えることはなく、反対に彼の怒りのボルテージを上昇させた。
「よそ見してんじゃねえぞ!」
すかさず、ランバートが追撃する。それは、剣を携えた突き。6日前にベンジャミンの身体を貫いたあの技とまさしく同じものだ。
ランバートの刃は、バーバラの弾丸が撃ち抜いたのと同じ箇所を貫く。いくらベンジャミンが強靭な肉体を持っていようと、確実に痛みを与えられているはずだ。
ドーン‼︎
そしてその直後、再びベンジャミンを襲うものがあった。爆弾だ。それは、遠くに隠れていたアレンが投げつけたものだった。1人ひとりの実力はベンジャミンに到底及ばないが、束となれば話は違う。
「アタシらを舐めんじゃないよ!」
その爆発をキッカケに、同志たちは一斉に攻撃を開始する。一気に決着をつけるつもりだろう。
バーバラとリリが弾丸を放ち、バートとランバートは刃を突き刺す。アレンの攻撃を皮切りに、4人の攻撃がベンジャミンを一斉に襲う。それは、息のあった最高のコンビネーションだった。
2つの弾丸、そして2本の刃は、同じ場所を貫いていた。一撃だけでは意味をなさなくとも、4つの攻撃が1度に降りかかれば話は違って来る。その威力は4倍にも8倍にもなった。
「くだらん‼︎」
ところが、それはベンジャミンにとって致命傷とは成り得なかった。ベンジャミンは、大剣で大きく水平に円弧を描く。
その一撃がバートとランバートを遠ざけた。4人掛かりで挑んでも、ベンジャミンがダメージを受ける様子は一向に見られない。
「無力は罪。力に溺れる黒魔術士も滑稽なものだが、魔法も使えぬ無力な人間はそれ以上に愚かしい」
以前からベンジャミンは一貫して同様の発言を繰り返している。黒魔術士を嘲るベンジャミンは、本当に黒魔術を使わずにこの強さを手に入れたのだろうか。
「勝ったような顔してんじゃないよ。まだまだアタシらの力はこんなもんじゃない!」
バーバラは大声で叫ぶ。それは根拠の無いハッタリだったが、仲間の士気を上げるためには十分に役立った。
今はただ、まだ見ぬ可能性を信じて全力を尽くすのみ。諦めずに戦い続ければ、勝機が見えて来ることだってあるのだから。
「ほう。では見せてもらおうではないか」
ベンジャミンは不気味な笑みを浮かべながら、バーバラに向かって駆け出した。
「そう来るかい……」
バーバラは息を呑む。さっきの発言はハッタリ。ベンジャミンを倒すための作戦なんて、もうどこにもない。
こちらへ向かって来る屈強な兵士に対し、彼女は発砲する事しか出来なかった。諦めずに攻撃を続ける以外に、出来ることはない。
「させるか!」
ここですかさずランバートが動く。
バーバラは反抗勢力にとって大事な司令塔であり、シンボルのような存在でもある。少し強引でガサツなところもあるが、その力強い姿勢が、いつでも仲間を引っ張ってきた。
今彼女を失うことになれば、彼らの士気が一気に下がってしまうことさえ考えられる。
ランバートは無我夢中で、ベンジャミンに飛び掛かった。ただバーバラを護ることだけを考えていた彼は、刃さえも鞘に収めたまま。ただ、その身ひとつでベンジャミンに挑んだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
全員で力を合わせ、強過ぎるベンジャミンとぶつかる無神論者の同志たち。大き過ぎる力の差を超え、同志たちはベンジャミンを止めることが出来るのか!?




