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第57話「花嫁」(1)【挿絵あり】

いよいよ始まった結婚式。ついにルナトでの物語も、最終局面へ⁉︎


改稿中(2020/09/17)

 花嫁が歩みを進めると、礼拝堂に人が押し寄せた。早くから席に座っている住民もいたが、後から駆けつけた住民たちが、一斉に礼拝堂に飛び込んで来る。

 その中にバーバラとその同志たちの姿もあった。無事に、礼拝堂に侵入することが出来たようだ。


 月衛隊(ルナ・ガード)は気が気でない様子で、礼拝堂内を監視している。この結婚式は教皇が公の場に姿を見せる数少ない機会。

 当然、月衛隊(ルナ・ガード)は総動員され、蛇の仮面をつけた彼らは静かに式を見守っている。その中にレイリーの姿もあった。跳ねた白髪が彼女の大きな特徴だ。


 ものの数分で、礼拝堂には人が入りきれなくなり、門番を務める月衛隊(ルナ・ガード)が重い扉を閉めた。

 締め出された町民たちは落胆した。絶望する者もいれば、悪態をつくものもいる。月の塔の中も外も、大きな混乱に包まれていた。月の塔内部の礼拝堂も、人々のざわめきが収まることはないが、外に比べると幾分か静かだった。


 ベルに連れられて歩いて来る花嫁を、教皇は見つめている。布で顔が隠されているため本当のところは分からないが、教皇の身体はエミリアの方を向いていた。

 もし、このまま本当にエミリアが結婚してしまうのであれば、彼女が今歩いているヴァージン・ロードは地獄への道。心なしか、その足取りは重いようにも見えた。


 ついにエミリアがベルの腕を離れ、祭壇の前に立つ。彼女はそのまま、隣にいる教皇の方を向いた。

 それに気づいた教皇もまた、彼女の方を向き直る。ようやく礼拝堂に、本日の主役が揃った。


 いよいよ始まる。教皇の身勝手な婚礼の儀が。


「………………」


 ところが、儀式は一向に始まる様子を見せない。教皇はただ黙ったまま、エミリアの横に佇んでいる。これに驚いたのか、エミリアはしきりに教皇の方を見ている。


 そして、教皇は徐に右手を伸ばした。


挿絵(By みてみん)


 その手の延長線上には、溢れかえるほどの町民がいる。当然その中にはバーバラたちもいた。一体彼は何をしようとしているのか。


「へっ⁉︎」


 次の瞬間、人混みの中から1人の人物が教皇の前へと引き寄せられる。教皇が物体を引き寄せる黒魔術(グリモア)を使ったのだ。

 引っ張り出された人物は、何が起きたのか分からない様子で慌てふためいている。


 ザワザワ……


 教皇の前に引っ張り出された人物を見ると、その場にいる全員が息を呑んだ。

 何とそれは、紛れもなくエミリアだったのだ。祭壇の前には花嫁姿のエミリアと、町娘の衣服に身を包んだエミリアがいる。


 町娘のエミリアは黒いローブを服の上から羽織っていた。ローブについているフードで顔を隠していたようだ。


「ワシが結婚するのはこの娘であって、今隣にいる他所者ではない」


 この時、初めて教皇が口を開いた。その“ありがたき”声を聞いた町民たちはさらに騒ぎ出す。

 一方で、バーバラたちは言葉を失った。


「えっ、嘘⁉︎」


 教皇がウエディングドレスを着たエミリアに手をかざすと、みるみるうちにその姿が変化する。

 花嫁の姿をしたその人物は、まばゆい光に包み込まれた。そのあまりの眩しさに、そこにいる全員が彼女から目を背けた。

 輝きが消えた次の瞬間、そこに現れたのはウエディングドレスを着たリリだった。


「ワシを欺いて、別の娘と結婚させようとするとは許し難い」


 教皇は静かに憤慨した。数百年前から生き永らえるコーネリア・マグダス・ジョカルト。彼に嘘をつくことは出来ないのだろうか。

 バーバラたちが入念に練った計画も、教皇の驚異的な観察眼によって、大きく狂わされることとなった。


「一体どうなっている…………⁉︎」


 ベンジャミンは動揺を隠せなかった。連れて来られたエミリアが偽物だったからという理由だけではない。教皇の鋭い視線が彼に向けられていたのだ。その視線に対し、ベンジャミンは首を横に強く振った。


 これは断じてベンジャミンの計画したことではない。ベンジャミンはようやく気づき始めていた。

 彼が全てを任せたのはベル・クイール・ファウスト。彼が花嫁をこの塔まで連れて来る手筈になっていた。

 だが、実際に連れて来られたのは他所者の娘。ベンジャミンの中に残った疑問が、霧が晴れるように明らかになって行く。全てベルと結びつければ、辻褄が合う。


 ベルに連れられて月の塔にたどり着いたのはエミリア・ランバートではなかった。リリ・ウォレスだったのだ。

 その真相は単純なものだった。ジェイクから貰った“本物の偽物”を使って、リリはエミリアの姿に変身した。この本による変身の効果は30分。どのみち結婚式が終わるまで効果は持続しないのだが、当初の計画ではもう少し教皇を欺くことが出来たはずだった。エミリアが月の塔を訪れることなく、結婚式は失敗に終わる予定だった。


 これでベルが引きつった笑顔を見せていたことにも説明がつく。ベルは笑いを堪えていたのだ。あの時エミリアに成りきっていたリリは、彼女の真似をして“(わたくし)”や“ですわ”と言う特徴的な物言いをしていた。

 リリがそんな言葉遣いをしている様子を想像したベルは、思わず腹を抱えて笑ってしまいそうになった。それを必死に我慢して、少し変な笑みを浮かべていたのだ。


 ウエディングドレスを着たリリは少し恥ずかしそうな顔をして、なぜか胸を押さえている。リリが着ているのはエミリアのために用意されたドレス。サイズがリリには合っていないのだ。

 エミリアの胸の方が、リリより大きい。彼女はドレスの胸部にパッドを数枚入れてサイズを合わせているが、ドレスがずり落ちないか心配している様子だった。


 では、なぜエミリアが月の塔にいるのか?エミリアは、バーバラからレイリーの家で待機しているように言われていた。彼女は安全地帯とも呼べるレイリーの家で待機し、何事もなかったかのように、この重要な日を過ごすはずだった。


 しかし、エミリアはバーバラの言いつけを守ることが出来なかった。作戦を遂行することが出来なかったのだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


花嫁エミリアの正体は、変身したリリだった!練りに練った作戦も、教皇によって阻止されてしまう……


月の塔に来てしまったエミリアの運命は!?

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