第54話「見えない牙」(2)【挿絵あり】
バーバラの顔を見た直後、ベルは嬉しそうに試験の結果を報告した。
「アンタらならやってくれると思ってたよ‼︎」
ベルの口から結果を聞く前に、バーバラは試験の結果を知っていた。閉店後の食堂に入ってきたベルの表情が、全てを物語っていたのだ。ベルは感情が顔に出やすい男だった。レイリーが傍についていなければ、敵に嘘がバレてしまうだろう。
「それで……月衛隊の情報は何か掴めたかい?」
バーバラのその言葉をきっかけに、ベルとレイリーの報告が始まった。2人は、これまでに得た情報を事細かく伝えた。
しかし、ベンジャミンの能力や召喚士以外に黒魔術士がいるのかどうかなど、月衛隊について分かっていないことは、まだ多かった。
「上出来だよ。奴らの行動を先読み出来るだけでも大きな進歩だ!」
バーバラは口許を弛ませた。今まで月衛隊についての情報は一切知り得なかった。
だが、今は彼らの行動を把握出来る。考えていることが分かれば、対策を立てるのは簡単なことだ。
「さて、さっそくだが……エミリアはレイリーの家に匿う」
「え?」
レイリーは目を丸くした。
「アンタはもう月衛隊の一員。まず仲間の家を探りに来ることはないだろうよ」
ベルとレイリーが月衛隊に敵対する勢力だと悟られていないのだとすれば、この作戦は上手く行くはずだ。
「月衛隊には、ここが本拠地で、ここにエミリアを匿ってるって伝えな」
「この場所を伝えちゃって良いんですか?」
バーバラの作戦に、ベルは単純に驚いた。ここは同志たちの拠点。そんな大切な場所を敵に明かしていいのか。
「構わないさ。圧倒的に有利なのはアタシらの方だよ?それに、全くのデタラメを報告してたらアンタらは信頼されなくなるだろ」
バーバラは自信満々の笑みを浮かべた。彼女は綿密に作戦を練っているようだ。確かに彼女の言うことは論理的で、しっかりと計算されている。
「そう言うことか……」
「2日後にやってもらうことはまだあるよ……」
リーダー・バーバラの話はまだ終わらなかった。2日後は月衛隊を陥れる大きなチャンス。バーバラは作戦を事細かく説明した。
まだまだ、月衛隊について得られていない情報は多い。だが、この作戦が上手く行けば彼らの実力を把握することも出来、結婚式に大きな支障をきたすことも出来るだろう。
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その数時間後、眠りから覚めたバートはふと起き上がる。
「誰だ⁉︎」
彼の視線の先には人影があった。長いローブを身にまとい、顔はフードに隠されているため、その正体を知ることは出来ない。
暗闇に目が慣れて分かったが、そのローブはこの町の人間がよく使うもので、そこから正体を推測することは不可能だった。おそらく町のほとんどの人間が持っているものだ。
「………………」
「お前まさか、吸血鬼か?」
吸血鬼。その言葉が、バートの頭に真っ先に浮かんだ。暗闇から現れて、人の生き血を吸う。正体を隠しているところがまた怪しい。
「…………力が欲しくないか?」
バートの質問に答えることなく、謎の人物はバートに問いかける。
「は?」
バートは戸惑った。こちらの問いかけを無視して、逆に問いかけをする。その行為は彼の神経を逆なでした。
しかし、“力が欲しくないか?”。この言葉がバートは引っ掛かった。それは、彼が心の奥底に常に抱いている気持ちだった。
「力が欲しくないのか?私はお前に力を与える事ができる」
戸惑うバートだったが、この人物の言葉に不思議と魅了されていた。それは聞いたことも無い声のはずだが、なぜだか聞き覚えのある声だった。
「お前何言ってるんだ?俺は悪魔となんか契約しない」
この世界で力を手に入れると言えば黒魔術。多方、今目の前にいるのは人の姿をした悪魔か何かなのだろう。バートはそう思っていた。
「お前が悪魔と契約する必要などどこにもない。私に血をくれ。ただそれだけでいい」
それは、この人物が吸血鬼であることを示すものでもあった。
「……やっぱりお前が吸血鬼か。一体誰なんだ!正体を見せろ!」
バートは吸血鬼の正体が知りたくて仕方がなかった。彼は、吸血鬼が無神論者の同志の中にいると思っている。
「私に血を分けること。そして、決して私の正体を暴こうとしないこと」
謎の人物は最初から一切調子を変えずに言葉を発する。まるで感情のないロボットのようだ。
「何言って……」
「それがお前に力を与える条件だ」
「お前から貰う力なんざ欲しくもない!」
バートは力強く、吸血鬼の提案を拒絶した。彼にとって、得体の知れない殺人鬼から力を得ることは考えられない。それに今まで散々追い求めて来た吸血鬼の正体を、暴かずにいられるものか。
「黒魔術士 」
「⁉︎」
「お前の仲間には黒魔術士がいる。そしてお前には愛する者がいる」
「何でそんなこと、知ってるんだ⁉︎」
バートは動揺していた。吸血鬼はバートの悩みを知っている。そして、同志たちの素性も知っている。
「お前は愛する者を守りたい。だが、彼女を守る力はお前にはない。その力を持っているのは2人の黒魔術士。お前ではない」
吸血鬼はバートの問いには一切答えない。ただ自分が言いたいことだけを突きつけるのみ。
「お前に……何が分かるんだ……」
バートは苛立っていた。吸血鬼は、まるで彼のことを心の奥底まで見透かしたような物言いをする。吸血鬼の言うことは正しかったが、バートはそれを声に出して認めたくはなかった。
「彼女を守る力を、私が与えてやる」
その言葉に、バートは心を奪われた。もし今吸血鬼の提案を受け入れれば、もう無力な自分に頭を抱える必要はない。仮面の男に一方的に殴られることだってないだろう。
「………誰が吸血鬼なんかに!」
だがバートは一瞬の迷いを振り払った。どんなに甘い言葉で誘惑して来ようと、今目の前にいるのは、仲間たちを殺した殺人鬼。この人物を許すことは出来ない。
そして、そんな人物から恩恵を受けることなど、到底受け入れがたいことだった。
「拒んだことを後悔しないのなら、それで良い」
吸血鬼はバートに襲いかかることもなく、身を翻してこの場を去ろうとする。
「………」
「ちょっと待ってくれ」
あろうことか、バートは吸血鬼を呼び止めた。一体彼は何を考えているのだろうか。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
吸血鬼と遭遇するバート。吸血鬼の話に耳を貸してしまったバートの運命は…
ルナトでの物語も後半に突入します!




