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第52話「ビースト・ロード」(2)【挿絵あり】

 号令と共に召喚士(サモナー)たちは一斉に身を屈め、地面に両手をつく。一斉に展開された20の魔法陣から、20の魔獣が飛び出した。ビースト・ロードが始まったのだ。


 黒いビーバーのような見た目をしたアーヴァンク。牛のような外見のカトブレパス。緑色の肌をした小鬼ゴブリン。鳥のような顔に悪魔の羽根が生えた、動く石像ガーゴイル。数々の魔獣が受験者に向けて解き放たれた。最初に召喚されたのは4種の魔獣。


 受験者たちは、スタートの合図を確認していた。普段はあまり目にすることのない魔獣たちが、一斉に彼らに向かって走って来る。


「よっしゃ!」


 ベルは勢い良く走り出した。それに続いてレイリーも走り出す。金髪の男も、2人の後を追うように走り出した。他の受験者はそれに遅れて走り出す。


「ギーッ!」


 まずベルの行く手を塞いだのは3匹のゴブリン。思わずベルは立ち止まった。

 彼らの身長は、ベルの腰ほどまでしかなかった。小さなゴブリンたちに行く手を塞がれたベルは、余裕たっぷりの笑顔を見せている。


「どけーっ!」


 ベルは右手を正面に突き出し、魔法陣を展開させた。そして、ベルは再び走り出す。


 その直後、魔法陣から真っ赤な炎が溢れ出した。炎を盾にしたベルは、迫り来る魔獣を物ともせず突き進む。


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 ベルの後を追うレイリーの前に現れたのは、動く石像ガーゴイル。ガーゴイルは全部で5体いて、その全てがレイリーの行く手を塞いでいた。


「邪魔しないで!」


 レイリーの身体は赤紫の魔法陣に包まれた。怪力モード突入だ。ベルと同様に臆することなく走り始めるレイリー。彼女の実力も知らず、5体のガーゴイルはレイリーに飛び掛かった。


 バン!バン!バン!バン!バン!


 流れるように、そして的確にレイリーの拳はガーゴイルを襲う。超化(バイス)黒魔術(グリモア)によって著しく強化されたレイリーの拳打は、凶器と化していた。


 ピシピシ……


挿絵(By みてみん)


 レイリーの拳打を受けたガーゴイルの身体には、瞬く間にヒビが入った。それから間も無く、5体のガーゴイルは儚く崩れさった。


 目の前に出来た瓦礫の山を、レイリーは飛び越えて行った。たった一撃でガーゴイルの身体を粉砕したレイリーの拳打。この時レイリーは、ベルが味わったものとは比べものにならないほどパワーを上昇させていたのだろう。


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 一方金髪の男は、凶暴なビーバーのような魔獣アーヴァンクに行く手を阻まれていた。今にも襲いかかって来そうなアーヴァンクは8匹もいる。

 鋭い前歯に、鋭い爪。そして鈍器のような尻尾を持ったアーヴァンク。攻撃をまともに受ければ、命の保証はない。


「殺されるっ!わぁぁぁぁあああああっ‼︎」


 金髪の男は命の危険を感じていた。思わず目を瞑ってしまった彼は、あろうことか黒魔術(グリモア)を使わずにアーヴァンクの群れに飛び込んで行った。

 しかし、彼は天才的な直感を持っていた。彼は、全てのアーヴァンクの攻撃をすんでのところで避けていた。


 これが彼の黒魔術(グリモア)だと言うのか、それともただ運が良いだけなのか。何はともあれ、彼もまた第1の危機を乗り越えた。


  一方で、すでに脱落した黒魔術士(グリゴリ)もいた。大きな牛のような魔獣カトブレパスに行く手を塞がれた数人は、黒魔術(グリモア)を発動する前に、カトブレパスに突き飛ばされていた。


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「なかなかやるようだな…。どんどん召喚しろ!」


 遠くから受験者の様子を観察していたベンジャミンは、第2の号令を出す。入隊試験はまだまだ始まったばかり。これからどんな魔獣が待ち構えているのか。


 続いて召喚された魔獣は、第1陣よりも強そうな魔獣ばかりだった。今回の魔獣は、半獣半人が多く見受けられる。

 雄牛の顔をしたヒューマノイドのミノタウロス。上半身が人間で下半身が馬のケンタウロス。そして、ひとつ目の巨人サイクロプス。


 明らかに第1陣とはランクが違うようだ。強力な黒魔術(グリモア)を操るベルとレイリーであっても、今回はさっきのように簡単には行かないだろう。


 ベルとレイリーはすでに中間地点まで来ていた。合格を目指すベルは、この試験を楽しんでいる。強力な黒魔術(グリモア)を持った人間にとって、この試験は楽しいゲームなのかもしれない。


 魔獣第2陣が受験者に到達するまで、そう時間は掛からなかった。最初に魔獣と遭遇したのはレイリー。

 彼女の前に立ちはだかるのは、彼女の何倍もの大きさのサイクロプス。その巨体が、レイリーの行く手を完全に阻んでしまう。サイクロプスは1つの大きな瞳でレイリーを見下ろしている。


「……………」


 初めて見る怪物に、レイリーは冷たい視線を送っていた。

 普段の力を何倍にも増幅出来る彼女にとって、身体の大きさは関係ない。どれだけ大きい相手が立ちはだかろうと、レイリーは恐れない。サイクロプスは身体が大きい分、力も強いかもしれないが、レイリーはそれを全く気にしていなかった。


「ウガァァーッ‼︎」


 見下されている事を感じ取ったのか、サイクロプスは激昂してレイリーに襲い掛かる。筋肉の鎧をまとったサイクロプスの腕が、レイリーに振り下ろされた。


「ウガ⁉︎」


 襲い掛かるサイクロプスの拳は、レイリーの右手に受け止められた。自分の腕力に絶対的な自信を持っていたのだろう。サイクロプスは驚きを隠せない様子で口をポカンと開けている。


「ちょっとレベルアップする」


 第2陣として放たれた魔獣たちは、第1陣の魔獣とは格が違う。サイクロプスに触れて、レイリーは気づいた。

 サイクロプスの拳を受け止めた直後、レイリーは少し後ろに押されていた。怪物の拳を完全に止めることが出来ていなかったのだ。


 レイリーの身体が、赤紫の魔法陣に再び包み込まれる。一瞬だけ赤紫色に染まったレイリーは、新たな力を手に入れた。


「あなたとは、遊んであげない」


 ジャンプしたレイリーは、サイクロプスの大きな目玉に、鋭い拳打をお見舞いする。さっきまでとは段違いにパワーアップした彼女の拳に貫かれたサイクロプスの目玉からは、血が吹き出した。パワーアップする前ですら、石を砕いてしまうほどの拳。目玉に食らえばひとたまりもない。


「ギャァァァーッ‼︎」


 想像を絶する痛みに、サイクロプスはもがき苦しんだ。苦しむ怪物はそれでも尚、レイリーの行く手を塞いでいる。途方もなく巨大な身体が邪魔をしているのだ。


「……………」


 レイリーは無言で、目の前の泣きじゃくる“壁”を蹴り飛ばした。ようやく開けた視界の先に、彼女は走り出す。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 その頃ベルの前には、牛人間のミノタウロスの群れが迫っていた。


「失せろ!」


 ミノタウロスの前で立ち止まったベルは、屈んで両手を地面についた。


 間も無く展開された魔法陣から、赤々と燃え盛る炎が出現し、ベルとミノタウロスたちとの間に壁を作る。

 先に進む前に、邪魔者を排除しようと言う考えのようだ。ベルはミノタウロスの身体が焼かれるのを待っていた。


「ブフォォーッ‼︎」


 しかし、ベルの作戦は呆気なく崩れ去った。炎の壁作戦が破られたのだ。

 ミノタウロスたちは、身体を焼く炎など気にすることもなく、ベルのいる方へ突進して来る。火の粉を撒き散らしながら、彼らはベルのすぐ目の前に迫っていた。


「ってぇー‼︎」


 直後、先陣を切るミノタウロスの頭突きがベルに命中する。その勢いで、ベルは後方に弾き飛ばされた。


「マジかよ………」


 驚きを隠せないベルだったが、ここで狼狽えている暇はない。

 何かを思いついたベルはすぐに立ち上がり、両手を前に突き出した。


 そして何をするわけでもなく、ミノタウロスの動きを観察している。


「ブフォォーオッ!」


 ベルが何もせずに立ち止まっている間も、ミノタウロスは近づいて来る。


「よっし、今だ‼︎」


 もちろん、ベルはただ黙って突っ立っていたわけではなかった。ミノタウロスの群れが2列に重なった瞬間、ベルは多重魔法陣を展開する。


 たった一瞬、ミノタウロスがベルの伸ばす2本の腕の延長線上に並んだ。ベルはこの好機を見逃さなかった。

 一瞬にして、多重魔法陣から勢い良く腐炎が発射される。ベルゼバブと戦った時に放ったバーニング・ショットの応用だ。


 2本の細長い炎の筋が、ミノタウロスたちの身体を貫いた。炎の線が通り抜けた後、ミノタウロスたちの身体には穴が空いていた。多重魔法陣により高密度のエネルギーを得た腐炎が、怪物の身体に穴を空けたのだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


順調にビースト・ロードを進むベルとレイリー。果たして2人は無事に試験に合格出来るのか⁉︎


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