第49話「黒いリボン」(1)
バーバラのもとに報告に向かうレイリー。そこにいたリリは、レイリーと初めて顔を合わせる。
改稿(2020/09/10)
ルナトの夜は長い。レイリーが出て行った家の中でエミリア、ランバートと他愛もない会話をしていたベル。そこには、何とも言えない空気が漂っていた。まるで、初めて出来た彼女の家を訪れ、彼女の親に見守られながら、彼女と会話をする時の気まずさ。
もっとも、ベルには彼女が出来た事はないし、その状況がどんなものなのかは知る由もないのだが…
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一方、レイリーはバーバラの食堂に到着していた。
「レイリー。遅かったじゃないか」
バーバラは、台所に入って来たレイリーの姿を確認する。
リリとアレンは、独特な雰囲気を持ったレイリーに目を奪われた。真っ白に透き通った髪に、ルビーのように赤く輝く瞳。とても魅力的だ。髪と同様に、肌も雪のように透き通っている。
「……ごめんなさい。エミリアちゃんの家に寄って来ました。今日は特に変わった様子はなかったです」
バーバラと話す時、レイリーの口はスムーズに動いていた。バーバラやエミリアの話からすると、レイリーは頻繁にパトロールの報告を行っている。バーバラへの報告は、日常的で事務的な作業。そこに気恥ずかしさはなかった。
「そうかい……最近は何も起こらなさすぎて、気味が悪いね。何だか胸騒ぎがするよ」
「そうですね……」
レイリーもバーバラに同感だった。この町に潜む吸血鬼、それは新聞にも掲載されるほど、この町では大きな問題になっている。
「何にせよ、アタシらには新しい黒魔術士もいるし、お前もいる。心配することはないさ」
バーバラたちと同じ意思を持ったレイリーと、突然現れたベル。2人とも、吸血鬼や月衛隊に対抗するための切り札だ。
「あ………」
突然、レイリーは何かを思い出したかのように口を開いた。
「何だい?」
「そう言えば、今日気になるものを見ました。町の至るところに貼紙が貼ってありました」
レイリーは、危うく大事な報告を忘れるところだった。
「貼紙?」
「はい。月衛隊の隊員募集の貼紙です。
“黒魔術士急募!2日後に入隊試験緊急開催”
と書かれてました」
「他に何か書いてなかったかい?」
「あぁ……ええと…近々予定されている大きな任務に向けて、黒魔術士を増員する事になったから、教皇の役に立ちたい黒魔術士を求むと」
レイリーは、貼紙の内容をきっちり記憶していた。
あまり民間人と関わることのない月衛隊。そんな彼らが、自ら民間人と関わろうとしている。それは、彼らを知るための大きなチャンス。
「ほう……その大きな任務ってのは、きっと結婚式の事だろうね。未だにエミリアとコンタクトが取れないもんで、焦ってるんだろう。アタシらの他に、この町に黒魔術士がいるかは知らないが、月衛隊が新しい戦力を得るのは好ましくないね」
月衛隊がやろうとしていること。バーバラには、その予想がついていた。
エミリアと教皇の結婚式まで、残り1週間。もたもたしていると、エミリアを結婚式に出席させることも出来ず、月衛隊が教皇に恥をかかせてしまう事になる。そのような事態を避けるため、月衛隊は戦力を補強し、確実に結婚式を決行しようとしているのだ。月衛隊はバーバラたちが思っていたより、切羽詰まっているらしい。
「この事は、じっくり考えるとしよう……」
バーバラの頭の中には、様々な考えが駆け巡っていた。この入隊試験は月衛隊が勢力を拡大させてしまう要因に成り得るし、逆に彼らを弱体化させる好機にも繋がる。この件に関しては、慎重に考える必要があった。
「あのぉ……もしかしてレイリーさんって、黒魔術士ですか?」
それまで黙って話を聞いていたリリは、居ても立っても居られずに口を開いた。
「………………そ、そうだけど」
突然知らない人に話しかけられたレイリーは、人見知りして俯いてしまう。
「レイリー。萎縮することないよ。この子たちはベルの仲間だ。エミリアの家に行ったんなら、ベルのことは知ってるだろ?」
極度の人見知りであるレイリー。そんな彼女のことを、バーバラも理解していた。レイリーは、特に初対面の人間とのコミュニケーションを苦手としている。接する回数を重ねて行けば、彼女の心の扉は徐々に開かれるのだ。
「………………」
「あの、もしレイリーさんが黒魔術について詳しかったら、聞きたいことがあるんですけど」
目線を落としているレイリーと、リリは目を合わせようとする。リリは、姿勢を低くしてレイリーの顔を覗き込んだ。
その瞬間だった。
「何が知りたい?」
突如としてレイリーが顔を上げたのだ。心なしか、口許が弛んでいるかのようにも見える。そう、レイリーは黒魔術オタクなのだ。
「え?あぁ、ええと…………呪いについて…かな」
あまりにも一瞬でレイリーの様子が変化したため、リリは呆気に取られた。彼女は人見知りではあるが、黒魔術の話になれば、饒舌になる。聞いてもいない事まで教えてくれそうなほど、余計に喋るのだ。
「呪い……私の家に来てくれる?何でも教えてあげる!」
レイリーは笑顔になった。誰が見ても分かる笑顔。それは心から笑っている証拠。一気にテンションが上がったレイリーは、リリの手を掴むと、半ば強引に食堂の外へと連れ出した。
もちろん彼女は今 超化の黒魔術を使っているわけではないが、手を引っ張る力を相当強かった。
「え、ちょ、ちょっとーっ!」
リリは為す術もなく、外に連れ出され、レイリーの家に連れて行かれた。
「まったく……困った子だよ」
その様子を見ていたバーバラは、嬉しそうに溜め息をついた。普段あまり笑顔を見せないレイリー。楽しそうにしているところも、普段見ることはほとんどない。そんな彼女の笑顔を見られて、バーバラは単純に嬉しいのだった。
アレンもリリと同じようにレイリーの変貌ぶりに驚き、開いた口が塞がらずにいた。普段の彼ならベルとリリと一緒にいないと気が済まないはずだが、アレンがリリの後を追いかけることはなかった。
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一瞬のうちに、リリはレイリーの家に引き込まれていた。実際には少々時間がかかっているが、リリにはそれが一瞬のことのように感じられた。まるで嵐に吹き飛ばされたかのような感覚だっただろう。
「ここが私の家。黒魔術の研究室!」
レイリーは、自慢げに声を張った。人は短時間でここまで変わるものなのか。人見知りである事を忘れさせるほど、今のレイリーは活き活きとしている。
リリの瞳に映ったのは、所狭しと並べられた大量の本。部屋には幾つもの本棚があり、本はそこに収まり切れずに、机や床にも積み上げられている。彼女の言動からするに、恐らくこの部屋にあるのは全て黒魔術に関する書物なのだろう。
「え……これって全部 黒魔術の本?」
リリは目を輝かせる。さっきまで彼女の頭は混乱していたが、今や喜びを感じている。これほど大量の黒魔術に関する書物を目にするのは、リリも初めてのことだった。
「そう。黒魔術書はないけど、全部 黒魔術の本」
黒魔術書。それは、とても貴重な書物。手に入れるのは簡単な事ではない。
「これなら、眠りの呪いを解く手がかりがあるかも……」
リリは、自分が確実に前進していることを実感していた。アドフォードでは、ほとんど何も眠りの呪いについての手がかりを得る事が出来なかったが、ここなら何か分かる気がする。
「眠りの呪い?」
レイリーは、リリの呟きを聞き漏らさなかった。
「え?うん。1年前に私のママが呪いにかかって、今もずっと眠ってるの。家に黒魔術書の切れ端が落ちてたから、お母さんが眠りの呪いを掛けられたって分かったんだけど……」
自分の母親に掛けられた眠りの呪いについて説明している時、リリはずっと頭の黒いリボンを触っていた。
それは、リリがベルと出会うずっと前からつけている真っ黒な髪帯。このリボンに、彼女は特別な思い入れがあるようだ。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
意外なレイリーの本性。黒魔術オタクのレイリーは、リリが心の底から求めている答えを知っているのか……




