第48話「白の黒魔術士」(1)【挿絵あり】
何者かがエミリアの家の扉を開く。その人物の正体とは⁉︎
改稿(2020/09/09)
そこに現れたのは、真っ白な髪の人物だった。赤い大きな瞳のあるその顔は白く、中性的で謎めいている。エミリアと同じような町娘の服に身を包んでいるため、彼女が女性だと分かった。
何よりも特徴的なのは、頭頂部で大きく跳ねた1本の毛。跳ねた毛は、三日月のようにカールしている。
「……………………」
突如として現れたその少女は、無言のまま。何か表情を作るわけでもなく、ただ俯いている。
「お前、何者だ?」
ベルは、いきなり現れた不審者を睨んだ。突然現れた少女は、今度こそ吸血鬼か月衛隊かもしれない。
「………………」
それでも少女は黙っている。表情も、先ほどと一切変わっていない。まるでお面を被っているかのように無表情だった。
「貴様‼︎娘に手を出したらタダじゃおかんからな!」
一向に正体を明かさない謎の少女を前にして、ランバートも警戒を強める。彼女が何も喋らない以上、怪しい人物ではないという証拠はどこにもない。
「………………」
それでもなお、少女は何も言わない。肝が座っているのか、それとも言葉が話せないのか。はたまた、何か違う理由があるのか。
「あのぉ、お2人とも……また勘違いされてますわ」
またもや一触即発の緊張感が漂う中、エミリアが声を上げた。
「………………エ、エミリアちゃん。私………ちょっと様子を見に来たの…………………………心配だったから」
ようやく謎の少女が声を発した。
だが、それはとても小さく、掻き消されてしまいそうな声だった。その声を、ベルは辛うじて聞き取った。
「彼女はレイリー。とても人見知りで、恥ずかしがり屋さんですの。彼女は味方ですわ」
エミリアの口から、レイリーがずっと黙り込んでいた理由が明かされた。彼女は極度の人見知りで、初対面の人の前では中々喋り出すことが出来ないようだ。
その理由を聞いて、ベルとランバートは一気に緊張を緩めた。
「……………」
気づけば、レイリーは恥ずかしそうに手混ぜをしながらモジモジしている。心なしか、頰が赤らんでいるようにも見えた。これほどの人見知りを見るのは、ベルもランバートも初めてだった。
「で?何でこんな夜遅くに出歩いてたんだ?」
レイリーが敵ではないと言うことは分かった。
しかし、ルナトは吸血鬼の出没する町。決して軽い気持ちで出かけるべきではない。ましてや、目の前にいるのは掻き消されそうなほどか細い声で喋る少女。そんな少女が吸血鬼に襲われでもしたら、ひとたまりもない。
「…………えっと、その……あ……」
レイリーは先ほどと変わらない様子で口を開く。こんなやり取りが続くなら、知りたい情報を得るまでどれほど時間が掛かるか分からない。ベルは呆れて天を仰いだ。
「騎士様。レイリーちゃんは黒魔術士なんですの。夜の町をパトロールしてくれていますわ」
そんなレイリーの代わりに、エミリアが口を開いた。幸い、エミリアがレイリーのことを良く知っているおかげで会話が成り立っているが、エミリアの知らないレイリーについての質問があった時はどうなってしまうのだろうか。この調子だと、先が思いやられる。
「バーバラさんが言ってた同志の黒魔術士って、そいつのことだったのか。お前、ホントに強いのか?」
「レイリーちゃんはとっても強いですわ!レイリーちゃんは魔法を使って、人間を遥かに凌駕する身体能力を手に入れることが出来ますの」
ベルは開いた口が塞がらないでいた。エミリアはレイリーのことを一から十まで知り尽くしているのではないだろうか。レイリーに対する質問は、エミリアが全て答えられてしまいそうだ。
「あ、そうなんだ……それってどんな黒魔術なんだ?見せてくれよ」
ベルは気を取り直して、レイリーの黒魔術に興味を示した。彼は今まで幾つかの黒魔術を見てきたが、エミリアの言う黒魔術は見たことがなかった。
レイリーとベルは目を合わせる。しかし、案の定レイリーは何も言わない。
「レイリーちゃ……」
「あの!」
またしてもエミリアがレイリーの代わりに口を開いたその時、レイリーが先ほどよりも大きな声でエミリアの言葉を遮った。それを見てベルが驚いたのは言うまでもないが、1番驚いたのはエミリアだった。
「まぁ……どうしたんですの?レイリーちゃん」
「…………エミリアちゃん。この人誰?」
再び開かれたレイリーの口から出た声は、最初こそ大きかったが、尻すぼみになって、最後にはほとんど聞き取れない音量になっていた。
「あぁ、そうでしたわ。騎士様のことはまだ紹介していませんでしたわね」
エミリアは上品に笑った。レイリーは、ランバートのことはすでに一方的に知っていたが、ベルのことは全く知らなかった。見知らぬ人物がエミリアと親しげにしていたため、レイリーは必要以上に警戒心を強めていたのかもしれない。
エミリアがレイリーにベルを紹介するのに、時間は掛からなかった。旅の黒魔術士。ルナトの町では、ベルはそういう存在だ。
「私も………あなたの黒魔術を見たい」
ベルの素性を知らされたレイリーは、その黒魔術に興味を抱く。心なしか、さっきよりはまともに会話が出来ているような気がする。それも、ひとえにエミリアがベルのことを彼女に紹介してくれたおかげだろう。
「喜んで見せようじゃないか」
ベルは、魔法陣の刻まれた右掌を天に向ける。
「おいお前ら、この家を壊さない程度にやれよ」
ランバートが、ベルとレイリーに釘を刺した。黒魔術士同士が技を見せ合うと聞いて、彼が1番心配だったのはその点だった。敵に襲われたわけでもないのに、家を壊されてはたまったものではない。
「分かってます。ただ黒魔術を披露するだけです」
ベルがそう言うと、レイリーも頷いた。
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2人のグリゴリが魔法を見せ合う!!人見知りレイリーの隠された力とは!?




