表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLACK MOON〜脱獄からはじまる黒魔術戦記〜【全話挿絵あり】  作者: T&Bear
第1章番外編「探究心の起源」
44/388

第43話「純粋な探究心」【挿絵あり】

炭鉱夫として生活していても、ジョーはあの日の出来事を思い出さない日は無かった……

 ある日、こんな会話がレイヴンの耳に飛び込んで来た。


「あ〜かったるい‼︎何でこうチマチマとつるはしなんかで掘らなきゃならんのかね!」


 炭鉱夫の1人がブツブツと文句を言いながら、レッド・ウォール内部を掘り進めている。


「そうだよな!やってらんねーぜ!もっとこう、何かドカンとやれないもんかね!」


「いっそのことよ、爆弾でも仕掛けてドッカーンとやっちまえばいいんだ!なあ、炭鉱長!」


「何を言う!爆弾なんぞ以ての外!俺は現場の責任者だ。お前たちの安全を守る義務がある。そんな危なっかしいことはさせられん!」


「つまんねーな!」


 炭鉱長の至って真面目な返事に、炭鉱夫たちは再び悪態をつくのだった。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 気がつけば、ジョーとレイヴンのアドフォードでの生活も、数年が経過していた。そんなある日のジョーとレイヴンの部屋。


 レイヴンは採鉱に必要なつるはしを手入れしていた。近くには棒状の爆弾も置いてある。まだレッド・ウォールが手付かずの頃は爆弾も多用されたが、ある程度洞窟と呼べるようになってからは、あまり使われていない。理由は単純に、危険だから。特に、安全を第1とする現在の炭鉱長は、絶対に爆弾の使用を許さないだろう。


 一方ジョーの机には、大量の本が積み重ねられていた。その全てに幾つも紙切れが挟んであり、彼の勉強熱心な姿勢が伺える。本の山の1冊には、“悪魔から身を護るには”というタイトルの本もあった。ミセリコルディアの中で出会った老人ルースが持っていた本だ。どこかで手に入れたのだろうか。


「ジョー、何やってんだ?」


「あぁ…悪魔について調べてるのさ」


「悪魔⁉︎何でまた、そんなもん調べてるんだ?」


 その返事はレイヴンにとって予想外のものだった。一体何でそんなものを調べているのか。


「君も見ただろう、幽霊船。あの日から、あれがずっと俺の頭を離れない。そしてミセリコルディアで出会ったルースという老人。全てが引っかかっていた。“終わらない嵐”、“呪い”、“悪魔”、“幽霊船”、“異形の船長”。全てが関係していると思うんだ。


 これらの関係を解き明かすことで、リオルグの嵐を終わらせることが出来るかもしれない。俺はそのためだったら、何でもする」


「ジョー。お前、本当はそんなこと考えてないはずだ。ずっと一緒にいた俺には分かる。お前が悪魔について調べてるのは、リオルグを救うためじゃない。お前自身の好奇心のためだ」


 レイヴンにはジョーの考えていることが分かっていた。アドフォードに着いてからと言うもの、レイヴンもその事を忘れ掛けていたが、今やはっきりと思い出せる。異形の船長を目撃した時のジョーの顔を。


「………そうだよね。俺自身それを否定しようとしていた。悪魔について研究することに、どこか後ろめたさを感じてたんだ。でも事実なんだ。未知の存在を解き明かしたいと言う好奇心が、俺の心を突き動かすんだ」


 ジョーの好奇心は誰にも止められない。この頃は、悪魔に力を借りて魔法を使う黒魔術士(グリゴリ)という言葉も存在も、ほとんど世間に浸透してはいなかった。


「まぁ、良いんじゃないか?結果としてそれがリオルグを救うことになるなら俺は一向に構わねぇし。それに、お前にやっと夢が出来たみたいだな。俺が望むものじゃないが…」


 レイヴンは複雑な感情を抱いていた。ジョーが夢を持ったことを素直に喜ぶべきなのだろうが、そうすることが出来ない。レイヴンが最も関わりたくなかった領域に、ジョーは足を踏み入れたのだ。


「そうさ、俺には夢が出来た。悪魔の謎を解き明かす!」


 ジョーの瞳の奥には、強い決意の炎が揺らめいていた。この決心は、決して正しいものではなかったのかもしれない。何にせよ、ジョーと異形の船長の邂逅、そしてこの時彼が自身の夢を確かめた瞬間、世界が大きく変わったのは事実である。


「一体どうなってるんだ‼︎」


 ジョーとレイヴンが話をしている時、部屋の外から大きな声が聞こえた。それは2人と一緒に働いている炭鉱夫たちの声だった。どうやら、何か騒ぎが起きているようだ。

 

 2人はドアを少しだけ開けて、覗くようにして外の様子を伺う。


「どうしたんだ?」


 騒ぎ立てる炭鉱夫たちに声を掛けたのは、炭鉱長だった。


「それが、さっき宝石商に行って来たら、宝石が全く金にならなかったんだ‼︎」


 炭鉱夫のひとりは、取り乱した様子で事情を説明している。彼のひと言で、辺りは一層騒がしくなって来た。


「何⁉︎何かの間違いではないのか?」


「俺も他の宝石商を当たったが、どこに行っても値がつかなかった!」


「………そんなことはあり得ん。一体全体どうしたと言うのだ……」


 炭鉱長は頭を抱えた。それはバートン採鉱会社設立以来、初めての事態だった。もし本当に宝石に値がつかないのならば、会社が倒産の危機に瀕していると言うことだ。


 それからと言うもの、バートン採鉱会社の炭鉱夫たちの収入は激減して行った。騒ぎが起きた当初は多少の金にはなっていたが、今となっては採掘出来る財宝は、ただの石コロ同然になってしまった。


 終いには、宝石商に門前払いされる始末。炭鉱夫たちのやる気も、次第に削がれて行った。どれだけ頑張ろうが、報酬はほぼゼロ。これでは働く意味がない。ジョーとレイヴンは再び職を失うことになるのだろうか。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 初めて騒ぎが起きてから1年ほど経ったある日。すでに会社を辞めた炭鉱夫もいた。

 それでも諦めずに、今日も炭鉱夫たちは、レッド・ウォールに向かう。ただ、その人数は1年前から激減していた。その中にジョーがいた。レイヴンは、ジョーより先に寮を出ていて、すでに炭鉱に着いているらしい。


「全くやってらんねーぜ!金が入るわけでもないのに俺たち何やってんだか!」


 炭鉱に着くと、炭鉱夫の1人が文句を言いつつ、つるはしで壁を掘り始める。


「よく言うぜ!まだ可能性はあるってどっかで思ってんだろ、金になりそうな宝石が見つかるかもしれねえって」


「きっと、この壁のずっと向こうに、そういう宝石は眠ってるんだ。ここいらで採れるもんは流通しすぎて価値がなくなっちまったんだよ。俺はこの先に待ってる宝石を手に入れるぜ!」


 ある炭鉱夫はそう言った。そういう彼のポケットは不自然に膨らんでいた。よく見てみれば、前のポケットも後ろのポケットも膨らんでいる。どうやら棒状のものが入っているようだ。


「なあジョー……一旦外に出ないか?何だか息苦しいからさ」


「あぁ。ずっとこの中じゃ息も詰まる」


 ジョーはレイヴンの提案に応じ、一旦炭鉱の外に出ることにした。今やこの炭鉱では、ほとんど誰も真面目に働くことはない。息抜きをしたり、サボったりすることも決して珍しくはなかった。


 2人は炭鉱の洞窟を抜けて、入り口付近の壁に寄りかかっている。


「なあレイヴン。俺、ずっと気になってたんだ」


 ジョーは一息ついて、そう切り出した。


「何だ?」


「宝石が金にならないっていう話なんだけど……」


 そう言い出したジョーを、レイヴンはいつも通り見守っている。ジョーはレイヴンの反応を伺っているようだ。


「おかしいんだ。皆は宝石商が宝石を買い取ってくれなかったって言ってるけど、俺は前と変わらないように換金出来てる。どう考えても変なんだ」


「たまたま、お前が高価な宝石を持ってたんじゃないか?」


「いいや。そんなわけない。レイヴン、君が何かしたんじゃないか?」


 ジョーはレイヴンを疑っていた。これは明らかに普通の状況ではないと、彼には分かっていた。そんな彼を見て、レイヴンの目は泳いでいる。


 そして、しばし時間が経過した。それはまるで、頭の中で何を言うべきか、言葉を選別しているかのようだった。


 レイヴンが口を開いたその瞬間。


 ドッカーン‼︎


 どこからか、とてつもなく大きな轟音と衝撃が広がった。 炭鉱入り口の壁に寄りかかっていた2人は、その衝撃を肌に、背中に感じていた。この轟音と衝撃の発生源は、どう考えても炭鉱内部だ。


 ジョーとレイヴンは呆気に取られていた。2人は何が起こったのか分からず、しばし呆然としていた。


「まさか……」


 すぐさま嫌な予感がしたジョーは、慌てて炭鉱の中へと入ろうとする。


「やめろ!」


 そんな彼を、レイヴンが止めた。


「何でだ‼︎皆に何か起きたんだ。行かなきゃ!」


「お前は馬鹿か!今起きたのは爆発だ。それもかなりデカい。今炭鉱の中に入るのは危険すぎる!」


 レイヴンは、先ほど起こったのが爆発だと気づいていた。気づくだけではなく、聞こえて来た音から爆発の規模を推測することも出来ていた。彼の言葉を理解したジョーは、何もすることが出来ず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 この時の真相は、ベルゼバブが語った通り。全てはレイヴン・ゴーファーが仕組んだものだった。


 レイヴン・ゴーファーの夢が叶ったように、ジョーことヨハン・ファウストの夢も、後に叶う事になる。“異形の船長”との出会いが、ヨハンの中に決して消える事のない、無限に湧き出し続ける純粋な探究心を芽生えさせた。


 アドフォードの炭鉱で財を築いたヨハン・ファウストは、レイヴン・ゴーファーの援助もあり、悪魔の研究にのめり込んでいった。当時は、まだほとんどの人間が黒魔術(グリモア)という言葉を知らないどころか、悪魔の存在さえも信じていなかった。そんな中、ヨハンは“未知の存在”に対する好奇心を抑える事が出来なかった。


 やがて、ヨハンは世界中に散らばった黒魔術書(グリモワール)の存在を知り、人間が悪魔から黒魔術(グリモア)を得る事が出来るという恐ろしい事実を知ってしまう。それまでただ調べるだけだったヨハンは、悪魔との接触を図るようになる。


 ヨハンが“悪魔博士”として知られるようになると、悪魔の強大な力に魅かれた人間の数も徐々に増えていった。

 そうして、あの“ブラック・ムーン”事件が起きてしまった。人知を超えた黒魔術(グリモア)を得るために、13人の人間が13の悪魔と憑依(ポゼッション)の契約を交わしたのだ。この忌まわしい事件がのちの世界に多大なる影響を与えたことは、言うまでもない。


挿絵(By みてみん)

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


番外編を通して、世界を変えたヨハン・ファウストの探究心の起源が明らかになりました!


番外編は読んでいただかなくても、本編を読むのにあまり支障はありません。ですが、読んでいただければ、よりBLACK MOONの世界への理解が深まると思います!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ