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第3話「監獄町」【挿絵あり】

2人の悪魔の逃走劇が、今始まる。


改稿(2020/06/01)※元々3話だったものを3話・4話に分割しました

 ベリト監獄の出入り口には、複数人の看守が待ち構えていた。


  ベルゼバブは、横にスライドさせるように片手を振った。すると、数人の看守は皆同じように胸から血を吹き出しながら倒れていった。


 ベルゼバブは嬉しそうに笑みを浮かべると、誰もいなくなった玄関を突破し、外へ出た。この時彼らの耳には、かすかにサイレンの音が届き始めていた。監獄町の司令部は、ここからは離れた場所に位置している。だが、ラビトニーの対応は迅速で、すぐに各所に連絡が行き渡る。そのため、すでに警備兵が出動を始めていた。


  監獄町と呼ばれる所以は、何も多くの監獄を有する刑務所のような場所であるからではない。町全体が監獄の役割を果たしているのだ。

 たとえ収容された監獄を脱出しようとも、世界一との呼び声も高い連絡の迅速さと、訓練された看守や警備兵によって、すぐに脱獄犯は取り押さえられる。


 上手く逃げられたとしても、町全体が迷宮のように複雑な形状をしているため、やがては追い詰められて再び捕まってしまう。ラビトニーは、世界で最も脱獄が難しいとされる場所だった。


「この調子だと、無事に脱獄できそうだ…」


 ラビトニーの連絡網は迅速さが売りだったが、悪魔には、それも遅く感じられたようだ。


 監獄町ラビトニーは港町リオルグと隣り合っている。今彼等のいる第4地区は、リオルグから1番離れた位置にあり、ラビトニー司令部はリオルグに1番近い第1地区にある。


「リオルグの方へ向かうぞ」


「そちらに向かっていいのか?人間たちはリオルグの方から向かってくるはずだろう?」


「ラビトニーは、別名“迷宮の監獄”。逃げる側を惑わすように作られているが、その分アイツらの動きにも隙が出来る。あえて司令部に向かって馬鹿どもを出し抜いてやるのさ」


「司令部には大勢の警備兵がいるはずだ。それを考えていたか?」


「おそらく、奴らは最短ルートで第4地区を目指している。リオルグと反対方向へ逃げれば、すぐに奴らが待ち構えている。どちらにせよ同じことだ。それに俺は司令部に用があるんでね」


「余計なことはするなよ?ここから抜け出せば、それでいいだろう?」


「安心しろ。お前はともかく、俺は自由に力が使える。間違っても人間に負けることはない」


 ベルゼバブは自分の力に絶対的な自信を持っていた。人間ごときが悪魔の強大な力に敵うとは夢にも思っていないようだ。


 アローシャは、渋々ベルゼバブに従う事にした。この迷宮の町の形状をよく知っているのはベルゼバブだ。何らかの方法で地図を手に入れ、牢屋の中で読んでいたのだろう。あるいは飛び交う看守たちの話し声に耳を澄まして情報をかき集めていたのだろうか。


  彼らは人目に付きにくい通路を選び続け、なるべく他の人間に気づかれないように慎重に進んでいった。


 しばらく進むと、2人の前には巨大な壁が現れた。


「どうするんだ?」


「4つの地区があるラビトニーは、それぞれの地区が巨大な壁で隔離されている。それぞれの地区を行き来したいなら、地区に1か所ずつある門を通るしかない」


「だったら、門番を殺して通るのか?」


「いいや、こうするのさ!」


 ベルゼバブはアローシャの考えを否定すると、壁の方を向いた。

 そして右手を前方に突き出し、右方向にスライドさせた。


 すると壁には小さなヒビが入り、すぐに広がった。2人の目の前には、大きな音と共に穴が空いた。それは、2人が通るには十分すぎるサイズの穴だった。


 その直後、近くからサイレンが鳴り始めた。壁にセンサーが取り付けられていたのだ。


「賢い方法とは思えんな」


「まあ気にしなさんな。これは俺の力を試すためでもあるんだ」


 ほぼ10年間ベルの身体を奪えずにいたアローシャは、ベルゼバブについて行く事しか出来なかった。ベルゼバブと違い、アローシャは10年間外の情報を一切得られていない。


 2人の悪魔はどんどん先に進んで行く。ベルゼバブが構造を隈なく理解しているだけのことはあり、進んで行く道の先にほとんど人はいなかった。これにはアローシャも感心した。


 2人は第4地区の壁を破壊し、第3地区を走っていた。


 第2地区に面する壁に到達した時、そこにはすでに警備兵が待機していた。ざっと数えて10人と言ったところか。


「腕がなるぜ!」


「私にやらせろ」


 アローシャはやる気満々のベルゼバブを静止して、1歩前に出た。


「う、動くな!大人しくしろ!」


 警備兵たちには、目の前にいる2人が悪魔そのものである事など知る由もなかった。彼らは、完全に自分たちが優位に立っていると思い込んでいる。


「………」


 やる気になったアローシャを見て、ベルゼバブは黙って引き下がった。


「愚か者めが」


 アローシャは、一旦両手を胸の前に動かした後、両手を左右に大きく広げた。


 すると、目の前に立ちはだかる警備兵全員の顔に一瞬のうちに炎が灯り、彼らは苦しみに満ちた声を上げた。まるで、人間がロウソクになったかのように見える。


 顔を焼き焦がされた警備兵たちは、次々と倒れていく。


「久しぶりにしては、なかなかだな」


 それから、先ほどと同じようにベルゼバブが壁を破壊する。これで、彼らは第3地区から第2地区へと侵入した。壁を壊せば壊すほど新たなサイレンが鳴り響き、人間から見つかりやすくなっていく。


 司令部に近づけば近づくほど、警備兵の人数は増えて行く。今2人の目の前には、25人ほどの人間が立ちはだかっていた。


  25人の警備兵たちは、なぜかガスマスクを着用していた。ガスマスクを付けた人間が25人もいるその光景には、何とも言えない不気味さがあった。


「さすがに増えて来たな」


「それでもゴミはゴミだ。いくら束になろうが、同じこと」


 ベルゼバブは余裕綽綽だ。確かに今までの彼らの力を見ていれば、それも頷ける。


「覚悟しろ魔術士ども!」


 警備兵の1人がそう叫ぶ。彼はそのまま何か球状の物体を、2人に向かって投げつけた。


 その物体が2人の目前の地面に触れると、そこから煙が発生した。灰色の怪しい煙だ。

 彼らがガスマスクを着用している点から考えて、それは催眠ガスや神経ガスの類なのだろう。


「そんなもので足止め出来るとでも思ったか、馬鹿めが」


 ベルゼバブは人間たちをそう笑い飛ばす。そして少し息を吐き出すと、今度は勢いよく息を吸い始めた。


「??」


 警備兵たちはベルゼバブの不可解な行動に疑問を抱いていたが、すぐにその真意を知る事になる。


 周囲に蔓延していた煙が、独りでに動き始めていた。ゆっくりと動き出した灰色の煙は、ベルゼバブの口に向かって動いている。

 煙はみるみるうちに、ベルゼバブの口の中へと消えていった。煙が吸い込まれるほどに、視界は開けて行った。


「ハッ!馬鹿はどっちだ?その煙がどんなものかも知らないだろう?」


 警備兵たちは、ベルゼバブを嘲笑った。もしもベルゼバブが普通の人間だったなら、それはとても愚かな行為だろう。


「何⁉︎」


 ところが、警備兵はすぐに異変に気づき始める。大量の煙を吸い込んだはずのベルゼバブの様子が、今までと一切変わらないのだ。その有り得ない様子を見て初めて、警備兵たちは狼狽え始める。


「言ったではないか。こんなもので俺たちの足止めは出来ない。無意味なんだよ」


 ベルゼバブは大きな溜め息をついた。

 ひと呼吸おくと、今までと同じように躊躇なく目の前の人間たちに手をかけた。

 目の前の25人の人間は一瞬にして首筋に大きな切り傷を負い、血を流しながら次々と倒れた。首を切られた彼らは即死だろう。


 ひとつ面倒なことを片付けると、アローシャとベルゼバブは何も言わずに目で言葉を交わす。目配せが終わると、ベルゼバブはすぐに今までと同じように壁に穴を開けた。


「あっという間に第1地区だ」


 ベルゼバブの鋭い瞳は、少し離れた場所にあるラビトニー司令部を捉えていた。


 司令室は、ラビトニー全域を見渡せる建物の最上階にある。司令部の外には赤いランプが等間隔に設置してあり、2人が脱獄してからずっと点灯している。


「お前は司令部に何の用がある?」


「司令部にはキュリアスが保管されている。俺はそれを頂戴する」


「キュリアス?聞いたことがないな」


「お前が知らないのも無理はない。キュリアスは、俺たちが牢屋に入ってる間に連邦軍が秘密裏に開発した魔法兵器だ」


 ようやくベルゼバブの目的が明らかになった。


「そんなもの、なぜ必要なのだ?人間ごときが作った兵器なんぞ、何の役にも立たんように思えるが?」


「お前はずっと眠ってたから知らないだろうが、キュリアスは特別な兵器だ。“月の涙”と関わりがあるとも言われている。お前の知らない間に、世界は大きく変わった。持っておいて損はない」


「勝手にしろ。どちらにせよ私には関係のないことだ。月の涙が関わっているのなら、なおさら関わりたくない」


「おやおや、忘れたとは言わせないぜ。俺が牢屋の鍵開けてやったんだから、しっかり付き合ってもらうぜ」


「全く…だからお前の手など借りたくはなかったんだ」


 ベルゼバブはここであの時ことを、恩着せがましく利用した。彼は思い通りに事が運ぶように、綿密に計画を練っていたのだ。あの時わざわざ鍵を使って牢屋を開けたのは、このためだった。


 ここは第1地区。今までの地区とは違い、そこら中に警備兵がいて、手あたり次第脱獄犯の方へ向かって来る。それは2人の悪魔にとって脅威にならなくとも、進行の妨げになることは明らかだった。


 2人は片方の手を進行方向に向けながら、ゆっくりと歩いていく。アローシャは右側を歩き、ベルゼバブは左側を歩く。


 アローシャは右手を左から右に振り、ベルゼバブは左手を右から左に振る。


挿絵(By みてみん)


 その直後、右側から攻めてくる人間たちは次々と燃え上がり、黒焦げになって崩れさっていく。


  左側から攻めてくる人間たちは、次々と切り傷を負い、ある者は首、ある者は腹、ある者は胸から血を吹き出しながら倒れていった。2人に向かっていく人間たちは、まるでドミノのように、いとも簡単に倒れていった。


 人間が何人立ちはだかろうと、悪魔の前では無力だ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


2人の悪魔は数々の命を奪いながら、脱獄を図る。迷路のような監獄町で、2人の悪魔が目指すのは……


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