第210話「波乱を呼ぶ反乱」【挿絵あり】
ついに作戦が大きく動き出す……⁉︎
改稿(2020/05/09)
夢の中の会合から数時間後。エルバの指示通り、ベルは騎士団本部団長室を訪れていた。
「ふむ……十分身体は休められたようだな。こうしてお前が戻って来てくれて嬉しいよ。ブラック・サーティーンは貴重な戦力だからな」
「もう十分ミッションで活躍出来ます!」
その中では騎士団長グレゴリオが待っていて、訪れたベルを見下ろしている。毎度毎度巨大なその体躯を見る度に、ベルは威圧感を感じるのだった。
「退院早々で悪いが、さっそくミッションを言い渡すとしよう。お前には、ディッセンバーと共にブレスリバーに向かってもらう」
「ブレスリバーでエルバを探すんですね!」
さっそく言い渡されたミッションの舞台は、ブレスリバー。これは又とないチャンスだ。
「いや、ブレスリバーで海賊退治をしてもらいたい」
「え?」
ところが、グレゴリオから言い渡されたミッションの内容は、ベルが想定していたものとは掛け離れていた。ベルは、てっきりエルバ関係のミッションが言い渡されると思い込んでいた。
「ブレスリバーはセルトリア国民だけでなく、世界中の人間が行き来する街。当然その中には悪人も少なからず紛れている。以前からブレスリバーでは、海賊による窃盗、傷害、誘拐などの案件が少なからず報告されている。そこで、お前たちには悪事を働く海賊どもを捕らえてもらいたいのだ。強力な黒魔術を有する海賊も少なくない。心してかかれ」
「海賊退治って……そんな事よりも、エルバを見つけ出す方が先なんじゃないですか?」
今騎士団が何よりも優先しているのは、この国のどこかに潜んでいるエルバの捜索であるはず。かつてない脅威が迫っているはずなのに、言い渡されたミッションはエルバ捜索とは全く関係がない。海賊退治をこのタイミングでやる必要性も感じられない。
「お前の黒魔術は、捜索には向いていないだろう?」
「でも、俺はエルバと接触した数少ない人間ですよ⁉︎」
「それは確かにそうだが、だからこそ、お前はエルバ捜索のミッションには向かない。奴は騎士団を警戒している。1度接触した事のあるお前やディッセンバー、レストーレは特に警戒されているだろう」
「そう言われれば、そうですね……」
最もな理由を聞いて、ベルはしぶしぶ納得する事にした。ベルはたった1度だけエルバと相見えた人間という体を貫いている。騎士団側もベルやナイトのことを怪しんでいるはずだが、グレゴリオの言動は普段と何ら変わらない。
何にせよ、これで怪しまれずにブレスリバーに行く事が出来る。
「最後に聞こう。ファウスト。お前は本当に、あれ以来エルバと関わっていないんだな?」
「⁉︎」
すっかり安心しきっていたベルの背筋が凍った。これまでグレゴリオが一切疑ったり、鎌をかけたりしなかった事自体が不自然だったのだ。当然、グレゴリオはベルを訝っている。
「当たり前じゃないですか!俺はずっとベッドで寝てたんですよ?」
「うむ……確かにそうだな。疑って悪かった。それでは明朝、飛空艇でブレスリバーに向かってくれ」
逸る鼓動を抑え、ベルは平静を装った。ここでぼろを出すわけにはいかない。ベルは必死で、言葉を詰まらせないようにしていた。幸い、グレゴリオがそれ以上詮索して来る事はなかった。
ベルはホッと胸を撫で下ろしながら、騎士団本部をあとにした。
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この日の夜、眠りについたベルは再び夢の中に足を踏み入れていた。夢に入ったら、目的地はたったひとつ。
ベルがホーディーズの扉を開けると、そこにはベル以外の反乱者たちが待っていた。ベルはすぐに、グレゴリオとの会話を全て、仲間と共有した。
「この状況で海賊退治っていうのは、不自然極まりないね……」
「2人を捜索部隊から外したいと言うのなら、ここで全く違うミッションを言い渡す必要はないだろう」
ミッションの内容を聞いたナイトとエルバは、当然違和感を抱いていた。
「しかもブレスリバーだろ?罠なんじゃないか?」
「もしかしたらブレスリバーにM-12が待ち受けていて、僕たちの動きを監視するつもりなのかもしれないね……」
「その可能性も十分に考えられるな」
魂が抜けているリリ、難しい話が分からないアレンを除いて、全員が新たなミッションを訝っている。
「でも、怪しまれずに堂々とブレスリバーに行く絶好のチャンスじゃないか?これ逃したら、ブレスリバーにさえ行けないかもしれないぜ?」
「それは確かにそうだが……」
「確かに考えようによってはチャンスかもしれないけど、リスクが大き過ぎるよ」
ベルの提案に、誰もが乗り気ではなかった。当初、この“大逃亡作戦”は大きなリスクを伴わず、静かに、秘密裏に決行されるはずだったのだから。
「なんかよく分かんねえけど、助っ人もいるんだろ?上手くやれば逃げられるんじゃないか?」
「う〜ん……俺たちを逃してくれるのは海賊だよな。騎士団がわざわざ“海賊退治”を頼んで来たのは、どうも引っかかるんだよな」
「僕たちがエルバと関わっているという前提で、行動を予測されている可能性は十分にあるね」
アイザックの腰も、ナイトの腰も重い。このミッションが罠だったとしたら、M-12との衝突は避けられない。M-12と戦うのと戦わないのとでは、逃亡の成功率は大きく変わって来るだろう。
「だが、ここで悩んでいても何も話が進まないのは事実。衝突止む無しで、そのミッションを利用してそのままこの国を去るというのも、手かもしれん。そうなった場合、少なからずブレスリバーは混乱に陥るはずだからな」
「そんな!彼らとぶつかれと言うんですか?リスクが高過ぎますよ」
「何も、まともに戦う必要はどこにもない。混乱に乗じて、上手く逃げ出せば良いんだ。ファウストの言う通り、これは怪しまれずにブレスリバーに向かう又とない好機。M-12が欠けて揺らいでいる今こそ、行動すべきだろう」
ナイトは全く乗り気ではないが、エルバはベルの提案を肯定的に捉えていた。これは危険な賭けだが、千載一遇の好機だと捉える事も出来る。何にせよ、尻込みし続けていても何も変わらないのは事実だ。
「そうそう。いつまで経っても躊躇してたら、M-12が補充されて大変な事になるかもしれないぜ?8人と12人じゃ大違いだろ?ベルも回復したし、もう足踏みしてる必要はどこにもないだろ」
「確かに、アイザックの言う事も一理あるね……今こそ作戦を決行するべきなのかも」
「もしこれが罠だったとすれば。我々がまんまと罠にかかったフリをしていれば、敵を油断させる事も可能だろう。それに出来れば使いたくはないが、いざとなれば奴らを止める手立てはあるにはある」
「だったらその手立てってやつを使えばいいじゃないか!」
「いや、下手をすればグレゴリオが直々に我々を止めに来るかもしれんからな。相手がM-12だけで終わるなら、それに越した事はない」
「ちょっと待てよ。帝王エルバのチート級の魔法があれば、奴らの行動を先読み出来るんじゃないのか?」
「いいや。騎士団内部はいわば聖域のようなもので、私の力が及ばないのだ。内部でナイトと対面している者にしかアクセス出来ない。最近はナイトがめっきり会議に呼ばれなくなったからな……怪しまれているのは確かだ」
「何だよ、制限ありまくりじゃねえか」
「殺されたいのか……?」
「だからおっかないって言ってんだろ!それやめろよ」
反乱者の意見は、次第に揃い始めた。今まで静かに準備が進められていた“大逃亡作戦”が、ついに大きく動き出そうとしている。行先には大きな壁が待ち受けているかもしれないが、歩みは止めるべきではない。
「……あ、そうだ。忘れてるかもしれないけど、この嬢ちゃんは出発前にどうにかしとかないとヤバいんじゃないか?」
「ほへ?」
「ほへ?じゃねえよ!お前ホントに大丈夫なのか?」
この作戦に支障をきたす可能性を大いに秘めているのは、他ならぬリリ。早急に彼女を元に戻さなければ、作戦が失敗する確率は格段に上がる。
「安心しろ。その問題は何とかなりそうだ」
「ホントかよ?」
「本当だよアイザック。彼女を元に戻す“魔法の薬”は、まだブレスリバーにあるみたいだからね」
どうやら、リリの抱える問題を解決する目処も立っている様子。不安は拭えなくても、前に進まなければならない。
「俺とナイトさんは飛空艇で行くけど、他の皆はどうするんだ?」
「大丈夫だ。こういう時のための当てはある」
次に問題になるのは、ブレスリバーまでの移動手段。ベルとナイト以外には都合の良い移動手段が用意されていないと思いきや、これもエルバが準備を整えていたらしい。
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翌朝。王都の石畳の道には、大きな影が落とされていた。目線を上げてみれば、大空を巨大な鳥が飛んでいる。ロビンだ。いつもより大きく獣化したロビンは、気怠そうに羽ばたいている。
その背中には、アイザック、リリ、そしてアレンが乗っていた。エルバが言う“当て”とは、ロビンのことだったらしい。
「全く……俺は乗り物じゃないからな。そこのところは勘違いするなよ」
「そう固い事言うなよぉ〜。事情が事情なんだ。頼らせてくれよ」
「隊長から聞くところによれば、確かに想像を絶する展開になっているようだな」
「そうなんだよ。“禿鷹”の異名を持つお前さんが味方についてくれて、頼もしいってもんよ!」
「万が一M-12とやり合う事になれば、確実に俺は騎士団には残れないだろうな」
ロビンはバレンティスで起きた事を知っていた。ナイトはロコを訪れた後に、ロビンのもとにも訪れていた。その時に印を残し、夢の中で協力を要請したのだろう。
「後ろ向きな事は考えないようにしようぜ相棒」
「そうだな。だが、俺はお前の相棒ではない」
「もっとノリ良く行こうぜ相棒!」
「……俺はお前が苦手だ」
ロビンとアイザックは反りが合わない。アイザックとの会話に嫌気がさしたロビンは、それからずっと黙っていた。その間もアイザックはずっと1人で喋り倒していた。相手がいなくても、不思議な事にアイザックの会話は成立してしまうのだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ついに反乱者はブレスリバーへ!セルトリア王国脱出の時はすぐそこに近づいている⁉︎
そして、グレゴリオから言い渡されたミッションは、罠なのか⁉︎




