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第196話「朱い希望」(2)【挿絵あり】

「あの人だ‼︎」


 リリはすぐに声の主を見つける事が出来た。そこには、確かに指名手配書に描いてあるのと同じ姿をした海賊が立っている。


 朱い着物に身を包んだ海賊が、港の果物屋と揉めている。

 彼の髪の色はベルに似た金色で、小太刀を腰に差している。この海賊は、セルトリア人には見られない独特の雰囲気を持っていた。


“海賊がお店でお買い物?なんか変なの”


 海賊は、力づくで他者から金品を奪うもの。ずっとそう教わって来たリリは、目の前の光景に違和感を覚えていた。


「あの!これください‼︎」


「え?あ、あぁ…はいよ!毎度あり!」


 意を決したリリは露店に近づいた。

 そして、ダミアンから貰ったお金を使って、海賊が買おうとしている赤ブドウ1房を買おうとした。最初は呆然としていた店主だったが、すぐに代金を受け取り、赤ブドウをリリに差し出した。


 それは、赤々とした実を幾つもつけた美しいブドウ。曇り空の下でも、宝石のように輝く瑞々(みずみず)しい果実。実際に口に入れなくても、見ただけで美味だと分かる。


「おい‼︎この女も海賊かもしれねえだろ⁉︎何で俺には売ってくれねぇんだ‼︎」


「こんな可愛いお嬢さんが海賊なわけないだろ!それに引き換え、お前はどう見ても海賊だ‼︎」


「テメェ‼︎」


「はい!これ!」


「⁉︎」


 一触即発の状態だった店主と海賊の間に、リリが割って入った。海賊が求めているものは、1房の赤ブドウ。リリがそれを海賊に渡せば、問題は全て解決だ。


「…………」


 リリから赤ブドウを差し出された海賊は、何も言わずにそれを受け取った。それから何も言葉を発さないまま、彼は赤ブドウを口に運ぼうとする。


「ちょっと‼︎ありがとうもなし?って言うか、お金返しなさいよ‼︎」


「あ?」


挿絵(By みてみん)


「あ?じゃないから‼︎何か私が奢るの当たり前みたいな空気感出さないでもらえます⁉︎」


「何だ?お前」


「それが助けてくれた人への態度ですか⁉︎まずは“ありがとう”でしょ⁉︎」


「……あ、ありがとう」


「素直でよろしい!」 


 まるでそこにリリが居なかったかのように振る舞う海賊に、リリは思わず憤慨した。これが海賊と言うものなのだろうか。そもそも、海賊にものを奢ると言う事自体がおかしな話なのだ。


「気が済んだなら、もう良いだろ?俺の至福の時を邪魔するな」


「おっと」


「まずはお金を返しましょうね〜海賊さん?」


 海賊が赤ブドウを再び口に近づけると、今度は赤ブドウが忽然と消えてしまった。慌てて海賊が周囲を見回すと、さっき海賊の口に入ろうとしていた赤ブドウは、なぜかリリの手にあった。彼女は領域(テリトリー)の力を使ったのだ。


「分かったよ。返せば良いんだろ?これで気が済んだだろ。もうどっかに消えろ」


「帰りません‼︎」


「何なんだお前は?俺は海賊だぞ?」


「お前じゃありません!リリ・ウォレスです!」


 お金を取り戻しても、当然リリは海賊の前から立ち去らない。今リリは大事なミッションの真っ最中。簡単に引き下がるわけにはいかないのだ。


「リリ。お前は一体何なんだ?好きこのんで海賊に自ら関わるなんて、馬鹿のやることだぞ?」


「海賊がそれを言う?シン・ホムラさん」


「何だよ、俺の名前まで知ってるのかよ」


 指名手配書を所持していたリリは、海賊の名前を知っていた。海賊の名前はシン・ホムラ。それは、リリがこれまで聞いた事のないような名前だった。


「あなたにお願いがあって会いに来たんだから、当然でしょ?」


「何だ?襲って欲しいのか?」


「ちがっ……馬鹿‼︎誰がそんな事頼むもんですか‼︎」


 ホムラは、リリの話の腰をいちいち折る。調子を狂わされてばかりだが、リリはミッション遂行に専念しなければならない。


「見た所、お嬢さんも豊富な魔力を持ってるようだ。用心棒なんて必要なさそうだが?」


「そう言うのとはちょっと違うんです」


「じゃあ何なんだ?何だって海賊なんかに頼るんだ?」


 強大な魔力を持つホムラは、当然魔力感知にも優れていた。


「これあげるから、私に協力して欲しいの!詳しい事は今から話すから!」


「話を聞こうじゃないか。お嬢さんの黒魔術(グリモア)にも興味があるしな」


「最初に、これだけは絶対守って。私が1度でも口に出した言葉は、絶対に使わないで」


 リリが剥き出しの札束をチラつかせると、ホムラの関心は一気に高まった。リリがダミアンから貰ったこの札束は、200万ポンゴはあるように見える。

 リリの予想外に、彼女の黒魔術(グリモア)も非常に有効な交渉材料となった。


 この後、リリはホムラに“お願い”の内容を事細かに説明した。リリの最初のお願いを守り、ホムラは赤ブドウを頬張りながら、黙ってリリの話を聞いていた。

 説明を聞いているうちに、ホムラはその理由も理解するようになっていた。


「ムニャムニャ…そりゃまた大変だな。俺たちにも協力してくれるんなら、そのお願いを聞いてやってもいいぜ」


 赤ブドウを全て呑み込むと、ホムラはリリの依頼を受け入れる代わりに条件を提示した。


「ホント?やった‼︎」


「お嬢さん聞いてたか?そんな金じゃ、俺たちを雇うには全然足りない。俺たちのお願いも聞いてもらうんだぜ?」


「…どんなお願い?」


「お願いっつーか、ここを出た後の行く先は指定させてもらう。そんでもって、そこまではついて来てもらう」


「……分かった。ここを出られるのなら、仕方ないわ」


「よし!交渉成立だな!」


 ホムラがリリから札束を受け取り、交渉は成立した。

 だが、そこには内容がハッキリしない条件が付いている。それがまたどんな波乱を巻き起こすかは分からないが、逃走の足を確保するためには呑み込むしかない。


 新たに反乱者に加わったシン・ホムラ。彼は、リリたちにとっての光の(しるべ)に成り得るのだろうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


新キャラのホムラが登場しました!第5章のキービジュアルでベルの隣にいた謎の人物がようやく登場です!


強大な魔力を秘めた海賊は、これからどんな活躍を見せてくれるのでしょうか⁉︎

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