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第195話「弾けた泡」(1)【挿絵あり】

メイ・メイを崖から突き落としたアシュリー。ベルたちの協力者となるはずだったメイは、このまま消されてしまうのか…⁉︎


改稿(2020/11/29)

 聞こえて来るのは、岸壁にぶつかる荒波の音。どこまでも広がる曇天に、激しい波の音が吸い込まれて行く。


 アシュリーは崖の上からメイの様子を確認する事もなく、すぐにその場を去ろうとしていた。突然の裏切り。それまで親身になってメイの相談に乗っていたアシュリーは、もうどこにも居ない。


 もしかしたら、これまでアシュリーがリリに見せて来た顔も、全てが偽りなのかもしれない。そうだとしたら、リリはアシュリーにまんまと騙されていた事になる。


「まだ何も終わってませんよ!」


 今にもアシュリーがその場を去ろうとしていた時、何者かの声が彼女の耳に届いた。


「あら、やっぱりM-12は崖の上から落としたくらいじゃ死なないわよね」


「一体どういう事なんです?さっきまでのあなたは、全て嘘だったと言うのですか?」


 アシュリーが後ろを振り返ると、そこには確かにメイの姿があった。確かに彼女は崖から突き落とされたはずだったが、何事も無かったかのようにそこにいる。

 だが、その姿を見てアシュリーが驚く事はなかった。


「全部嘘ってわけじゃないわ。でも、やっぱり背信行為を目の当たりにして、見逃すわけにはいかないもの。まだ私はM-12のノーベンバーなんだから」


「くっ……たった今、私に出来る事が分かりました。ベルさんのためにも、ウォレスさんのためにも、今ここでM-12を1人減らす‼︎」


「あらあら、随分と大きく出たものね。あなたに、私を消す事なんて出来るかしら?」


 この瞬間、アシュリーの裏切りにより、メイは決意を新たにした。もはや取り繕う必要はない。アシュリーはメイの考えている事を全て把握している。ここで取り逃がしてしまえば、どのみち騎士団にメイの居場所はない。


「あまり私を見くびらない方がいいですよ!」


 メイは右掌を天に向けて、口元に近づけた。それから、掌を撫でるように息を吹きかける。


 すると、メイが吹きかけた息に乗って、どこからともなく無数の泡が発生した。メイが生み出した泡沫(ほうまつ)は、ふわふわと浮かびながら、ゆっくりとアシュリーに近づいて行く。


「そう言えば、あなたの黒魔術(グリモア)を間近で見るのはこれが初めてね。“泡沫(うたかた)の踊り子”……一体どんな舞を踊ってくれるのかしら?」


 マーチに“暴風の武神(アレス)”、ナイトに“幻夢の支配者”という呼名があったように、メイにも呼び名があった。アシュリーは未知の敵に臆するどころか、むしろ高揚しているようにも見える。


 アシュリーは瞬時にマジック・メスを生成した。この時彼女が作ったマジック・メスは、リリと戦った時よりも長い刃を持っていた。アシュリーの右手に握られているマジック・メスは、メスと言うよりダガーだ。


「⁉︎」


 目前に迫った泡沫をアシュリーが斬り裂くと、ある変化が起きた。斬られて弾けた途端、泡は大きな爆発を巻き起こした。それは、元の泡の大きさを遥かに超える広範囲の爆発だった。泡が破裂した後には、キラキラとした輝きがしばらくその場に残った。


 予期せぬ攻撃を前にして、アシュリーは咄嗟に後ろに飛び退いた。


「可愛い見かけとは正反対の攻撃ね。びっくりしちゃった」 


「笑っていられるのも今のうちですよ。自分の顔を見てください、もうボロボロじゃないですか」


「女性にボロボロだなんて失礼ね。ほら、これで元どおりでしょ?」


 泡沫の爆発により、戦いが始まって早々アシュリーはダメージを負っていた。爆発から逃げ切れなかったアシュリーの顔には火傷のような跡が残っていた。


 ところが、アシュリーが自分の顔に手をかざすと、火傷はたちまち消えて無くなった。アシュリーが治癒(アマリア)に優れている事を忘れてはいけない。


「次は、こっちから行かせてもらうわ!」


 アシュリーが地面に両手をつくと、周囲の地面から無数の手が突き出して来た。地中から現れた手はどれも土色をしていて、ボロボロだった。アシュリーは黒魔術(グリモア)でゾンビを操る事が出来る。

 果たしてそれは召喚(サモン)なのか、それともゾンビ自体を生み出しているのか。


 際限なく出現し続けるゾンビの手は、無論メイの足元からも突き出した。


「⁉︎」


「あら!可愛い黒魔術(グリモア)ね!もしかして、そうやって崖の上に戻って来たの⁉︎」


 迫り来るゾンビの手を回避したメイの黒魔術(グリモア)に、アシュリーは思わず笑みをこぼした。


 アシュリーの攻撃から逃れるため、メイは全身を大きな泡で包み込んで、宙にぷかぷかと浮かんでいた。きっと同じような方法で、メイは崖の下から生還したのだろう。

 ジュディの黒魔術(グリモア)のように、メイの黒魔術(グリモア)も、様々な応用が効く便利なものだった。


「だったらどうしたと言うのです?ゾンビは地面に縛られた存在。宙に浮いてしまえば、何も怖くはありません。“不死者(マザー・オブ・)(アンデッド)”、どうします?」


 宙にぷかぷかと浮かびながら、メイは地上の屍たちを見下ろしていた。何度傷付けようと再生するゾンビは実に恐ろしいものだが、彼らに空中を飛ぶ事は出来ないようだ。


「あなたこそ、私を見くびらない方がいいわ」


「何⁉︎」


 アシュリーが操るゾンビたちは、メイの想像を超える動きを見せた。


 それまで地中から手や腕しか出していなかったゾンビたちは、一斉に地表に這い上がり始めた。数十体ものゾンビが地中から這い出て来て、互いの身体を足場にしながら、どんどん高い場所に登り詰めようとしているではないか。


 屍は互いの身体を重ねあい、繋ぎ合い、宙に浮かぶメイを目指す。


 あっと言う間にメイと地面の間には、屍の架け橋が出来上がっていた。屍の手は、今にもメイに触れようとしている。


 “不死者の母”は、おびただしい数の生ける屍を従える。ゾンビ1体1体は空を飛ぶ事が出来なくても、数が多ければ、空を飛ぶのと同じような芸当まで出来るのだ。


 そしてその直後、1番高い場所にいたゾンビの手が、メイを包み込む泡の表面に触れた。

 その途端、メイを包む泡は小規模の爆発を無数に巻き起こし、屍の架け橋を崩壊させた。


 爆発に巻き込まれたゾンビたちは為す術もなく、次々と地面に落とされて行く。メイの近くにいたゾンビたちは身体のほとんどを吹き飛ばされていて、再生しきるには少し時間が掛かりそうだ。下の方で架け橋を支えていたゾンビたちは、上から降って来るゾンビたちに押し潰されている。


「あなたは、さっき私の黒魔術(グリモア)を目の当たりにした。その目は、節穴なんですか?」


 一旦アシュリーの攻撃を搔い潜ったメイは、落ち着き払ってアシュリーを笑い飛ばした。瞬時に辺りを吹き飛ばす泡の黒魔術(グリモア)があれば、メイはこの場を切り抜ける事が出来るだろう。


「節穴なんかじゃないわ。あなたこそ、私の異名を忘れたの?」


「くっ⁉︎」


 次の瞬間、突如としてメイは身体の動きを封じられてしまった。視線を落としてみれば、メイの両足首は、地中から伸びたゾンビの手に掴まれていた。それは架け橋を作り上げていたゾンビのものではない。新たに出現したゾンビが、メイの足首を掴んでいるのだ。


「私が操れる屍の数は、こんなもんじゃない。あなたには想像も出来ない数の死者の軍団を、私は率いる事が出来るの」


 アシュリーが不敵な笑みを浮かべると、地中から次々とゾンビの手が生えて来て、メイの身体の自由を完全に奪おうとする。アシュリー・ノーベンバーが操る死者の軍団は際限なく出現し続け、今にもメイを呑み込まんとしている。


「終われない‼︎何も成し遂げていないのに……こんなところで終われるわけがない‼︎」


「やるわね…」


 メイの敗北が決まるかと思われたその時、突如として、メイではなくゾンビの軍団の方が、動かなくなった。


 メイに迫るゾンビは、それぞれが大きな泡に包まれていて、その場で動きを止めている。もちろん、その泡の檻を発生させたのはメイ・メイだ。メイが発生させた泡の檻に閉じ込められたゾンビたちは、そこから脱出する事が出来ずにいる。


「いいわ……そんな事をしても、あなたは私に近づく事すら出来ない。屍の壁を乗り越えて、私に触れる事が出来るかしら?それとも、魔力が尽きてそのまま終わり?」


 アシュリーが不気味に笑うと、腐敗した身体を持つゾンビが、再び地面から這い出して来た。(とど)まる事を知らず、屍は増え続ける。

 このままではアシュリーの言う通り、メイはいつまで経ってもアシュリーに近づく事が出来ない。ゾンビ1体1体は弱くても、数が多過ぎる。一気に不死者の軍団を消し去らない限り、アシュリーに近づく隙はない。


「良いでしょう。私も、出し惜しみをしている場合ではないと言う事ですね」


挿絵(By みてみん)


 そう言葉を発した時、メイの右手は世にも美しい扇子を掴んでいた。どこからともなく出現したその扇子も、メイが創り上げたものなのだろう。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


始まったM-12同士の命を懸けた戦い。高次元の戦いを制するのは!?


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