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第186話「ぶつかり合う視線」(1)【挿絵あり】

王都エリクセスでは、M-12が反乱者たちに接触していた…


改稿(2020/11/21)

Episode 6 : Bonds/つながり


 リリがアビーたちと会っている頃、アイザック・レストーレは首都エリクセスの街中を歩いていた。


「よお!何ボケーッとしてるんだ?」


「親父⁉︎」


 いつものように歩いていたアイザックを引き留める声。それは、アイザックの父親のものだった。


 アイザックの父親はM-12の1人、ローランド・オクトーバー。本名ローランド・レストーレ。彼はアイザックと同じく、褐色の肌、白い髪、サングラスが特徴的な男だった。


 アイザックと大きく違うのは、その体格。父親の身体は筋骨隆々で、鍛え抜かれていた。


「ディオストラにいるんじゃなかったのか?セルトリアで何してんだ?」


「アンタには関係ないだろが。今さら父親ヅラすんじゃねえよ。反吐が出る」


「おいおいおい。久しぶりに会ったのに、ずいぶんと辛口だな。ま、元気そうで何よりだ」


「俺は、アンタが元気そうでムカつくけどな」


 久しぶりに再会した親子の間には、ピリピリとした空気が流れていた。普段はあっけらかんとしているアイザックだが、ローランドの前では怒りをあらわにしている。


 その様子はまるで、ヨハンを前にしたベルのよう。師弟は似るものなのだろう。


「何だよ…俺は忙しいんだ。アンタに構ってる暇なんてねえんだよ」


「お前よりは俺の方が忙しいと思うぜ?なんせM-12だからよぉ」


「さっさと俺の視界から消えてくれ。大体アンタはバレンティスにいたんじゃなかったか?」


「何だ、よく知ってるな!その通り。俺はエルバ捜索のために、今バレンティスに派遣されてる」


「だったら何でエリクセスにいるんだ?職務怠慢だろ?」


「忘れ物を取りに帰ってるだけさ。それより、エルバっつーワードを聞いても驚かないのな、お前」


「驚かなくて悪いか?そういう噂はすぐ回って来るんだよ」


「他のM-12によっちゃ、色んなやつに声掛けてるだろうから、それもそうか。お前も知っての通り、エルバの復活が現実のものとなった。これは非常事態だ。黒魔術士(グリゴリ)騎士団始まって以来の危機だ」


 エルバ捜索のため、ローランド・オクトーバーはバレンティスに派遣されているはずだが、現在彼の姿は首都エリクセスにあった。彼が首都にいるのは偶然か、それとも必然か。


「だから何なんだ?俺はアンタと無駄話するつもりは、さらさらないぜ」


「これのどこか無駄話だって言うんだボケが。極めて重要な話だ。お前は俺のことが嫌いかもしれないが、ちょいと話を聞いてくれ」


「……………」


「その無言は了承と取るぞ。騎士団とエルバが初めて接触した地はバレンティス。ベル・クイール・ファウストとディッセンバー隊長が、任命されたミッションでエルバと遭遇した。ところが不可解なことに、その間グレゴリオ様の超視覚(スーパー・ヴィジョン)が全く機能しなかった。


 つまり、エルバと接触した時の情報を握っているのは、隊長とファウストのみ。お前はファウストをよく知っているようだが、何か聞いてないか?」


「そんなもん、ナイトから聞けばいいだろ。ベルは入院中で、まだまともに話せる状態じゃない。何にも聞いてねえ」


 M-12が求めているのは、当然エルバについての情報。白を切るアイザックは、手短に答えてその場を去ろうとする。


「ちょい待て待て。隊長から十分な情報が得られないから、お前に聞いてるんだ。エイプリルに言わせりゃ、ミッションの報告中、隊長は何か嘘をついていた。最終的にグレゴリオ様は隊長を信用することにしたみたいだが、俺はいまいちアイツを信用出来ない」


「何でナイトのことを信用出来ないんだ?アイツは今まで騎士団のために頑張って来ただろ?」


 立ち去ろうとするアイザックの腕を、ローランドは強引に掴んだ。ひとまずローランドの前から逃げることを諦めたアイザックは、父親の腕を振りほどき、向き直る。


「確かに隊長は、誰よりグレゴリオ様に忠実で、間違いなくM-12の誰よりも強い。だからこそ、あの人がエルバから何の情報も引き出せなかったとは思えないんだ」


「本当に、何の情報も引き出せなかったのかもしれないじゃねえか。大体アンタらは力を過信し過ぎなんだよ。いつまで経っても自分たちが最強って考えてたら、痛い目見るぜ?」


「確かに、エルバはグレゴリオ様の超視覚(スーパー・ヴィジョン)を掻い潜る実力者。エルバは俺たちを遥かに超える力を持っているのかもしれない。それでもよ、あんな無敵の幻想(レグロ)を使う隊長が、ひとつも情報を掴めないなんてこと、あるか?」


「確かにナイトの幻想(レグロ)はヤバ過ぎる。でもアイツでさえ、何も情報は掴めなかった。それが現実だ」


「いいや、やっぱり隊長は何か隠してる………お前もな」


「⁉︎」


「何驚いた顔してやがる。隊長とファウストがエリクセスに戻って来る少し前、お前もバレンティスからエリクセスに戻って来てたらしいじゃないか。何でお前もバレンティスにいたんだ?お前もエルバについて、何か知ってるんじゃないのか?」


 アイザックの顔が一気に青ざめる。やはり、ローランドは忘れ物を取りに王都に戻って来たわけではない。新たな反乱者たちの繋がりを探りに、王都に戻って来ているのだ。


「俺が何か知ってるはずねえだろ。魔剣の材料探しで、バレンティスに行ってただけだ。たまたまバレンティスに行ってた時期が近いってだけで、アンタは俺を疑うのか?」


「じゃあ、さっきの驚いた顔は何だったんだ?え?俺には、お前が青ざめてるように見えたけどな。何か隠してるんじゃねえのか?」


「まともに俺の世話してねえアンタに、俺の何が分かる?大体、サングラス越しに表情なんて分からねぇだろ」


「いいや、分かる。俺はお前と同じ“眼”を持ってるんだぜ?サングラスで表情が隠せるとでも思ってたのかよボウズ」


挿絵(By みてみん)


「ふざけんな!さっきからアンタが言ってるのは、何の根拠もない憶測だけ。適当なこと言ってんじゃねえぞ。俺は何も知らない。真実はそれだけだ」


「分かったよ。尋問はこれくらいにしといてやる。ただ、これだけは言っておく。


 もしも万が一、お前が騎士団に刃向かおうとしているのなら。その時は、俺がお前の前に立ちはだかる。俺とお前の刃がぶつかり合うことになるだろう。それだけは覚えとけ」


 サングラス越しにぶつかり合う視線。エルバと繋がりのある人物が近くにいるという事実に、M-12は気づき始めている。ローランドの言葉が現実になるのは、そう遠くない未来なのかもしれない。


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最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


王都の街角で白眼の親子が相見える。こちらの親子も、何やら問題を抱えている様子。

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