第183話「光の標」(1)
エイプリルによる襲撃があった後、ベルは夢の中にいた…
改稿(2020/11/19)
時は遡り、ベルがエイプリルに襲撃された直後のこと。軽い戦闘の直後だったため、意識は覚醒状態だったはずだが、ベルは死んだように眠った。さっきまで騒がしかった病室の中が、再び静けさに包まれる。
聞こえて来るのは、夜風が木々を揺らす音。実に穏やかな時間が、病室には流れていた。
ベルは夢を見ていた。夢の中で、ベルは誰もいないエリクセスの街に立っている。昼夜問わず人で賑わっているはずの王都には、不気味さが漂っていた。戸惑いながらも、ベルは歩みを進める。
どれだけ歩いてみても、このエリクセスには誰もいないようだ。
「お……」
しばらく歩くと、ベルの視界に光が飛び込んで来た。それは、不気味で冷たいエリクセスの街並みとは違い、温かな光。無意識に近づきたくなるような、そんな不思議な光。
ベルが近づくと、まるでベルを導くかのように、その光はどこかに向かって、増殖し、連なって行った。それは、リリが夢の中へと招集された時と全く同じ光景だった。
光の標を使って、新たな反乱者を隠れ家へ導こうとしているのは、エルバだ。光の標をたどって行った先には、隠れ家ホーディーズがある。
それから10分ほどが経ち、ベルはようやくホーディーズにたどり着いた。見覚えのある場所にたどり着いたベルは、リリと同じようにドアノブに手を掛けた。この時のベルも、リリと同じく不思議な感覚に陥っていたことだろう。
「おかえりベル‼︎」
「⁉︎」
開いた扉の先で、真っ先にベルを迎え入れたのはアイザックだった。予想外の展開に、ベルは開いた口が塞がらない。おそらく、ベルはリリと同じように、扉の先には敵が待ち受けていると思っていたのだろう。
約2週間ぶりに、動く愛弟子の姿を目の当たりにしたアイザックは、思わずベルをきつく抱きしめた。
「ちょっ…やめろ‼︎暑苦しいだろが!」
「そんなこと言うなよ〜師匠と弟子の仲だろ〜」
「俺はお前を師匠だと思ったことはねえけどな!」
「何だと〜⁉︎アローシャの牙が使えるようになったのは、誰のおかげだと思ってるんだ⁉︎」
「え?俺のおかげだろ?俺が頑張ったから、アローシャの牙が使えるようになったんだ」
「お前、目覚めてから生意気さ増してないか?」
「俺は何も変わってない」
「いや、絶対前より生意気になった」
ベルとアイザックは再会早々、いつものやり取りを繰り広げる。
「ベル君が目覚めてくれて良かった!」
「ようやくこれで、作戦が進められると言うものだ」
続いて、ベルの視界に飛び込んで来たのは、ナイトとエルバだった。ナイトとエルバの背後には、リリとアレンもいる。アレンはベルの姿を見るや否や、ホーディーズの中を駆け回ったり、跳ねたりしていた。
「お前誰だよ?」
「私はエルバだ!ここにいるメンバーと声で、大体分かるだろう‼︎」
「お前エルバなのか⁉︎」
「まったく…何度このくだりを繰り返さなければならないのだ」
そして、エルバに待ち受けていたのは、リリが初めて隠れ家を訪れた時とほとんど同じやり取りだった。その様子を見たアイザックとリリは、笑いを堪えることが出来なかった。
「ベルが目覚めて本当に良かった」
「お兄ちゃ〜ん!」
リリはベルの目覚めを改めて喜び、アレンは無邪気にベルに飛びついた。彼らは騎士団を抜け出そうとしているが、ベルが眠っていたために、作戦を大きく進めることが出来ずにいた。
「それで、ここは一体何なんだ?」
「ここは夢の中。我ら以外誰にも侵すことの出来ない聖域だ。これからは、この隠れ家で落ち合うことになる」
「夢の中の隠れ家なら、俺が目覚めた日に皆で集まれたんじゃないか?」
「あの日は少々都合が悪かったんだ」
「都合が悪かった?」
「あぁ、薬が出来ていなかったからな」
「何だよ薬って」
「騎士団長グレゴリオには、超視覚があり、M-12には心を読む者もいる。それらは我らが作戦を進める上で大きな障害となる。奴らの厄介な力を無効化するための薬が、あの日はまだ完成していなかった。薬を飲んでいない状態で、我らの隠れ家を知ったお前を、敵の前に晒すのは危険すぎるからな」
「騎士団の奴らの黒魔術を無効化なんて出来るのかよ?」
ベルが目覚めたのに、エルバが隠れ家に招集をかけなかったのには、ちゃんと理由があった。敵勢力に作戦を盗み聞きされないため、エルバはとある薬の開発に着手していた。
「厄介な探知・探索能力を無効化することは出来る。最も、すでに手遅れかもしれないが」
「あは、あはは〜大丈夫ですよ〜。院長は余計な詮索して来ないですし、修行中は私余計なことは考えてないですから!」
エルバから睨みつけられると、リリは必死に弁明してみせた。黒魔術を開花させるためとは言え、リリはアシュリーに関わり過ぎている。彼女は心を読む力を持っているから、尚更警戒しなくてはならない。
「まったく…一体何を考えていると言うのか。お前は、M-12で最も厄介な人物と、深い関わりを持ち始めた。ただでさえ、ファウストがノーベンバーの傍にいると言うのに、なぜお前はノーベンバーに近づいたのか?」
「私は近づいてません‼︎黒魔術を覚醒させる手助けをするって言って来たのは、院長です!」
「何でそんなに自信に満ちた顔をしているのだ…お前のせいで、反乱者たち全員が危険に晒されていると言うことが分からないのか⁉︎」
「院長は私が騎士団を滅ぼしても良いって言ってました‼︎あの人は、黒魔術士騎士団にこだわりはないみたいですよ?」
「それはお前がノーベンバーに騙されているだけだ。そう言っておきながら、お前から得た情報を余すことなく、グレゴリオに伝えているのだろう。M-12を信用するな」
「そんなに怒らなくても…」
「これが怒らずにいられるか‼︎これでは、せっかくM-12をセルトリア中に散らした意味が無くなってしまう。すでに我らの繋がりが知られているのだとすれば、M-12は再び王都に集結するだろう。そうなれば、全面戦争は避けられない」
「そ、そんなぁ…」
「まあまあ、そう怒らなくても良いだろ?怒ったって、何も良いことは起きやしないぜ?まだまだ独裁者時代の感覚が抜け切ってないんじゃないか?元帝王さんよ」
「レストーレ。やはり、お前は殺されたいのか」
「おいおい、やめてくれよ〜冗談に聞こえないぜ」
「あぁ、冗談ではないからな」
「このままだと何も話は進みませんよ!事態が悪化しないための策を考えましょう!」
リリへの怒りがアイザックへの怒りとなり、次第に事態は収拾がつかなくなって行った。このままでは、いつまで経ってもこれからの作戦について話すことが出来ない。
ナイトは話を先に進めるために、エルバの怒りを鎮めようとしている。
「フン……ウォレスの黒魔術の覚醒も順調なようだから、まあ良しとしよう」
「リリ、黒魔術使えるようになったのか⁉︎」
「う、うん…まあね。まだちょっとだけど」
「すげーな‼︎」
リリが黒魔術を会得し始めていることを知ると、今度はベルが満面の笑みで飛び跳ねた。何か話題を変える度に、誰かが大きく反応する。このままでは、話が一向に進まない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
リリと同じように、ベルも夢の中へ。再会を喜ぶ仲間たち。そして差し出される謎の飲み物。




