第180話「貿易の港街」(2)【挿絵あり】
「別に好き勝手動いてもいいだろが。リハビリなんだし」
「それが!それが…困るんですっ‼︎」
「?」
ベルは早くブレスリバーを駆け巡りたくてウズウズしている。童心にかえったベルには、メイ・メイの制止が鬱陶しく感じられた。無意識のうちに、ベルはメイに敬語を使うのをやめていた。
「なんで困るんだよ?」
「私は…私は、あなたとお話がしたいんです」
「話?そんなの今じゃなくても良いだろ?」
ベルは困惑していた。M-12がベルと話したいことと言えば、帝王エルバに関係すること以外にはないはず。そんな話より、ベルは早く港に繰り出したい。
この時メイが深刻そうな表情をしていることに、ベルは気づいていなかった。
「今この瞬間、ブレスリバーにM-12は私しかいない。オーガストの気配も今なら感じられない。今しかないんです。グレゴリオ様の超視覚は喧騒の中では弱まる。それに、今あなたと私が一緒にいるこの状況は、何ら不自然ではない。この喧騒の中でしか、あなたに話せないことがある」
「…そんなに大事な話なのかよ」
メイの真剣な眼差しと声色にようやく気づいたベルは、諦めて彼女の話を聞くことにした。
「あなたに聞きたいことと、話しておきたいことがあるんです」
「はあ…」
「あなたは、騎士団から抜け出そうとしているのですか?騎士団の本当の顔を知ってしまったがために…」
「え⁉︎」
全てを見透かしたかのようなメイの物言いに、ベルは驚きを隠せない。M-12は、皆すでにベルたちの動きに気づいているとでも言うのだろうか。
「安心してください。私はあなたと同じ立場にあります。騎士団の在り方や、非道なやり方に疑問を抱いている。目的のために権力を振りかざすだけの組織に、居座り続けるつもりはありません」
「ちょっと待ってくれ。そうやって俺を騙して、情報を引き出そうとしてるんじゃないだろうな?」
ビアトリクス・エイプリルの奇襲を経験したベルは、懐疑的になっていた。この状況では、ナイト以外のM-12全員を敵だと思うべきだ。誰ひとりとして、他のM-12に心を許してはならない。
「私は、エイプリルのように愚かな嘘はつきません。さっきのは本心です。疑うのは仕方のないことですが、私もあなたと同じ考えを持っている…と言うことを忘れないでください」
「何でエイプリルが出て来るんだ?アイツが俺を脅してきたことも知ってるんじゃないだろうな?」
「エイプリルは、騎士団長からこっぴどく叱られていましたから…根拠もなく、大切なブラック・サーティーンに危害を加えたと。だから、私たちは当然知っています。でも、私は決してあなたたちに危害を加えたりはしない」
メイ・メイは、自分がベルにとって無害な存在であることをアピールし続けている。その姿は、数日前のエイプリルとは大違いだった。
「本当に信用していいのか?アンタが言うことが本当だってんなら、俺たちと一緒に騎士団抜ければいいじゃないか」
「それは………出来ません」
「何で?」
「抜けようとすれば、きっと私は殺される。それに、抜け出してしまえば、私はあなたをサポート出来なくなる。あなたが無事に騎士団を抜けられるように、私は内部からサポートします。M-12に残留していた方が、かえって都合が良いんです」
メイ・メイ自身は、騎士団から抜け出すことを諦めていた。元々騎士団に疑問を抱いていた彼女にとって、ベルは良い刺激になったのだろう。彼女にとってベルは、希望の光だった。
「何でそんなに協力してくれるんだ?」
「騎士団にブラック・サーティーンを保有させたくない。それが1番の理由です。噂はかねがね聞いていましたが、評議会で見たくらいで、私はあなたをよく知っているわけではない。でもあなたにも、辛い境遇があることは知っている」
「そして、これだけは確かに言える。あなたは、こんな暗闇に囚われているべきではない」
「………それ、その言葉。信じて良いのか?」
「信じてくれとは言いません。どう判断するかは、あなたの自由です。ですが、私はあなたを支持している」
「……分かった。俺が無事に騎士団を抜け出すことが出来たら、絶対にアンタも連れ出してみせる」
メイ・メイのひたむきな言葉は、ベルを信用させる力を持っていた。懐疑的になり、全てを警戒している今のベルでも、彼女は敵ではないと判断したのだ。メイもベルと同じく、徐々に騎士団への疑心を膨らませていったのだろう。
「そうなれば良いのですが…」
「何か問題あるのか?」
「きっとあなたは、仲間と力を合わせて騎士団から離れようとしているのでしょう。ですが、気をつけて。遅かれ早かれ、騎士団はあなたたちの動きに気づく。現に騎士団は、あなたとエルバの間に何らかの接点があると、疑っています。ブラック・サーティーンを手放したくない騎士団は、あらゆる手段で、あらゆる力を用いて、あなたたちを引き止めようとするはずです」
「そんなのは分かってる。だから、俺もただ病院のベッドで寝てるわけにはいかないんだ」
「もしも、あなたたちがM-12と真っ向からぶつかり合うようなことになれば、きっとあなたたちは負けてしまう。そんな結末だけは、どうか避けてください。あなたたちが無事に騎士団の手から逃れられることを、私は祈っています」
「心配してくれて、ありがとうな。こう見えて俺だって、結構強いんだぜ?もしもの時は全部焼き尽くしてやる」
「あはは!本当に、あなたは太陽のような人ですね。近くにいるだけで、温かな気持ちになる」
「え?えへぇ?そうか?」
メイ・メイは、本当にベルのことを心配してくれている。彼女と話していて、ベルはそれをひしひしと感じた。
アシュリーも言っていた通り、M-12は皆が皆グレゴリオの忠実な僕と言うわけではない、ということなのだろう。その実力が故のベルの楽観主義に、メイは思わず笑みをこぼした。
「でも…本当にM-12は強い。普段近くにいる私でさえ、彼らの真の力を目の当たりにしたことがありません。あなたがブラック・サーティーンでも、味方がいたとしても、はっきり言って勝てる可能性は限りなく低いです。どうか、ご無事で」
「ありがとな、俺は大丈夫だ。まんまと騎士団を抜け出してやるさ!」
これで、M-12に在籍するベルの味方は2人となった。アシュリー・ノーベンバーも今のところ反乱者に協力してはいるが、彼女の真の目的は伺い知れない。
M-12の黒魔術士は、仲間内にも、その真の実力を見せていない。M-12それぞれがナイトと同等の黒魔術を扱うと想定すれば、全面戦争は絶対に避けなければならない。
“新たなる反乱”の足掛かりは、黒魔術士騎士団からの脱出。
そして、それを無事に成功させるためには、M-12とグレゴリオを巧みに欺く必要がある。ベルが新たに手にした繋がりは、脱出の手助けとなるのだろうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます‼︎
新たに本格登場したM-12メイ・メイは、何とベルたちの味方でした‼︎
反乱者たちは、内通者というカードを手にしました。これからも、色々波乱が待っていそうですね笑




