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第179話「嘘つきウサギ」(2)

「一体何のつもり……だ⁉︎」


 ベルはビアトリクスの思惑を全く理解出来なかったが、間もなく身を以てそれを知ることになった。


 ベルの横たわるベッドが、突如としてぐるぐると回転を始めたのだ。横に回転したり、斜めに回転したり。ベッドは徐々にその回転速度を上げて行き、ベルは振り落とされそうになるのを必死に堪えていた。


 ベッドの周囲を見やると、部屋中を駆け巡る光が、そこに集中している。これがビアトリクスの仕業であることは、間違いない。まだベッドから容易に起き上がることの出来ないベルを、あざ笑っているのだろう。


「ふざけんな‼︎」


「けっ!」


 ベルはぐるぐると回転するベッドの上で、“アローシャの牙”を振り回した。身体の自由を奪われたのとほぼ同じのこの状況で、ベルは何とか光の筋を何本か斬り落とした。

 この時ビアトリクスは、悔しそうな顔をしていた。


「うわっ!」


 光の筋が斬られた途端、ベッドは回転を止め、そのまま真下に落下した。大した高さではなかったものの、ベルは突然の変化に驚きを隠せなかった。“アローシャの牙”は、ビアトリクスの黒魔術(グリモア)に対しても有効らしい。


「やっぱり死に損ないだね。まともに起き上がれないくせに」


「死に損ないじゃない。俺はお前より強い‼︎」


「ハハハ…ハハハハハハハ‼︎これまたとんだ大嘘だね!アンタがアタイより強い?M-12より強いって⁉︎冗談もほどほどにしな!」


「何が面白い?事実を言っただけだろ?M-12が何だって言うんだよ。ただ赤い服着てるだけじゃんか」


「M-12と1度も戦ったことがないくせに、適当なこと抜かしてんじゃないよ。アンタはM-12の誰よりも弱い」


 ベルとビアトリクスは、負けじと言い合いを続ける。あまり動けない状態だが、ベルはM-12からの攻撃を、何とか防ぐことに成功した。そのことは、ビアトリクスにとって想定外の出来事だったらしい。


「それより!お前、今俺を殺そうとしたんだよな?勝手な言いがかりつけて!」


「勝手な言いがかり?そんなもんじゃないさ。“勝手な言いがかり”と言うより、“確固たる証拠”があったからこその行動なんだよ」


「嘘を嗅ぎ分けるなんて嘘くさい才能、聞いたことねえよ。黒魔術(グリモア)じゃなくて、ただの才能なんだろ?そんなもんは何の証拠にもならねえ!黒魔術(グリモア)だった方がまだ説得力あるぜ」  


「失敬な!この才能でアタイは、グレゴリオ様の力になって来たんだ。これまで何度も嘘を見抜いて来てるんだよ。その中でも、アンタみたいに分かりやすい奴は、そうそういない」


「それって当てにならないよな。お前のひとことで、何の罪もない人間を断罪してたら、どうするんだ?大体嘘のにおいなんてもんで、そいつの言ってることのどこが嘘かなんて分かるはずねえだろ」


「なっ‼︎そこは上手く話術を使ってだな‼︎こう…こう上手い具合に嘘の部分を特定するんだよ‼︎」


「つーことは、やっぱり話してるどの部分が嘘か分からないんだな。そんなもんは“確固たる証拠”にならないぜ」


「チッ…」


 しばらく言い合いを続けていた2人だったが、段々とビアトリクスが劣勢になって来た。

 この時彼女の脳裏をよぎったのは、間違いなく先の会議のナイトの言葉だろう。彼女には、相手が嘘をついていることが分かっても、どの部分が嘘なのかは分からないのだから。


「卑怯なやつだな。お前は俺が嫌いなだけなんだろ」


「アタイはグレゴリオ様のため、反逆者どもを根絶やしにしたいだけだよ。いつもグレゴリオ様に反抗的なアンタは、絶対騎士団の脅威になる」


「そんなの知らねえよ。早く寝て、身体早く回復させたいから、とっとと帰ってくんねえか?」


 ビアトリクスの威勢は、最初に比べるとだいぶ無くなった。彼女はベルがエルバに関する知識を持っていると信じて疑わなかったが、そこには確固たる証拠が無かった。


 万が一ベルが何も知らなかった場合、これ以上ブラック・サーティーンとのトラブルは避けるべき。それはビアトリクスにも分かっていた。


「……分かったよ。じゃあアタイは帰ることにする…か‼︎」


「ぐっ⁉︎」


 しかし、ビアトリクス・エイプリルは簡単に引き下がる女ではなかった。このあと彼女は宣言通り、病室を去ることになるのだが、置き土産を忘れなかった。


 ベルは突然ベッドから放り出された。あまりに一瞬の出来事だったが故に、ベルはその瞬間何が起きたのか理解出来ずにいた。


脱兎(ラビット・)(ハビット)さ。じゃあね〜!アンタが元気になったら、ちゃ〜んと嘘を暴いてやるよ!」


 ビアトリクスは自慢げに自分の右脚を突き出すと、すぐに病室の窓から飛び出して、姿を消した。

 ベルがベッドから落ちた要因は、ビアトリクスの脚にあった。別れの挨拶代りに、ベルは蹴り飛ばされたのだ。


「何なんだよ、アイツ…」


 床に這いつくばる状態になっているベルは、なぜだか怒りを抱いてはいなかった。怒ると言うより、ベルは呆気にとられていた。芯を持たず、言っていることが二転三転する掴みどころのない女性。それが、ビアトリクス・エイプリル。


 ベルもリリも、思わぬ形でM-12と接点を持つことになった。今のところ“大逃亡作戦”に、大きな支障はないようにも思えるが、まだ作戦は本格的には始動していない。


 ナイトとエルバは見事、M-12をセルトリア王国中に分散させることに成功した。

 ところが、新たな反乱者たちが動き出す前に、エイプリルとノーベンバーは、いち早く異変を感じ取った。


 王都残留組には、彼女らのように調査や捜索に優れた黒魔術士(グリゴリ)が選ばれている可能性が高い。残るメイ、セプテンバーにも、ベルたちは十分に気を配らなくてはならないだろう。


 さっきまで広がっていた星空が、徐々に厚い雲に覆い隠されていく。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


今までもビアトリクス・エイプリルは何度か登場していましたが、ベルとの1対1の絡みは今回が初めてでした。


早くもベルたちの動きに気づきつつあるM-12。彼らとの衝突は免れないのか⁉︎

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