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第28話「西の悪魔」【挿絵あり】

ついに西の悪魔と対峙するベル。勝機はあるのか!?


改稿中(2020/06/14)

「と言うのは冗談だ。実はアローシャに用があってな。お前がここに来るように仕向けたと言うわけだ」


「どういうことだ⁉︎」


「白い少年。数週間前、俺はそう呼ばれる人物に会った。お前と同じ顔をしている男だ。詳しい事は知らんが、奴はお前のオーブを狙っていた。それだけではない。奴はお前がこの町を訪れることを予期していた。加えて、オーブを操ると言う特殊な力を持っていたのだ」


「そして1週間ほど前、白い少年の予想通り、お前はアドフォードに来た。アローシャに用がある俺は、白い少年を利用することにした。お前を誘き出したいと言ったら、奴は喜んで協力した。お前を誘き出すために、町の人間のオーブを、無差別に抜き取らせた。もちろん抜き取らせた分は俺が頂いたがな」


「何でそんなことしたんだ?」


「この町は黒魔術(グリモア)とは縁遠い。黒魔術(グリモア)に関わる事件が起きれば、お前は興味を抱くはずだと思っていた。それがオーブに関する事件ならば、お前はオーブが集まるこの屋敷に、必ずたどり着く。


 屋敷の前にお前がやって来た時、自分と同じ顔をした白い少年が現れることで、この屋敷はお前の印象に強く残る。そしてお前は、まんまとこの屋敷について調べ始めた。当然呪いの椅子の存在にも、たどり着くだろうと思っていた。後はお前が椅子に座るのを待つだけで良かった。ちょっとしたキッカケを与えるだけで、お前はいとも簡単にやって来たんだ」


 ベルゼバブの不気味な笑みは消えない。全てはベルゼバブの思惑通りだったのだ。


「そんなことのために、どれだけ不必要な犠牲を出したと思ってるんだ‼︎俺に用があるなら、お前が会いに来ればいいだろ!」


 ベルは憤りを隠せなかった。そんな遠回りな手段は取らずに、手っ取り早くベルの前に現れれば良かったのだ。


「不必要な犠牲などない。俺が腹を満たすための必要な犠牲だった。それに、お前が俺の思惑通りに動くのを見るのは楽しかった。全てに意味があるんだよ」


「そうまでして何でアローシャに会いたい?悪いが、アイツは俺の身体を自由に動かすことは出来ないぜ」


「それは重々承知だ。だが知っているぞ。お前の身体が弱れば、アローシャは出て来やすくなる」


「……………とにかく、もうお前の思い通りにはさせない!」


「面白いじゃないか。だが、お前には何も止めることは出来ない。すでに悪魔は……いや、世界は大いなる目的のために動き始めている。それを止めることは、何人たりとも出来ない」


「何わけ分かんねーこと抜かしてやがる。とにかく、絶対アローシャには会わせない‼︎」


「人間とは本当に愚かな生き物よ!到底敵わない相手にも果敢に挑むとは!お前を殺そうとすれば、アローシャはおのずと出てくる。大切な器を失うわけにはいかないからな」


 どうすればアローシャが出てくるか、答えは簡単だった。殺すつもりでベルに攻撃すればいいのだ。大した黒魔術(グリモア)を使えないベルと、黒魔術(グリモア)を自在に操る悪魔。どう考えても、ベルにとっては圧倒的に不利な状況だ。


「俺を舐めるな。お前になんか殺されてたまるか‼︎」


「お前が自由にアローシャの力を使えないことは分かっている。黙って死ね」


 ベルゼバブには、ベルのハッタリはお見通しだった。


「黙って死ぬ馬鹿が……どこにいる‼︎」


 ベルは、一瞬にしてベルゼバブとの距離を詰めた。

 それから右手から魔法陣を展開すると、至近距離でベルゼバブに炎を浴びせた。


「この炎、アローシャのものではないな」


 しかし、ベルゼバブはピンピンしていた。それどころか、ベルが放った炎を呑み込んでしまったのだ。


「とんでもない奴だな、お前は」


 ベルは苦笑いするしかなかった。今のでロック・ハワードから奪った炎を使い果たしてしまった。それでも、あの火事から得た炎がまだ十分に残っている。


「そんな子ども騙しの炎が、俺に通用するとでも思ったのか?」


「 俺を、見くびるな‼︎」


 それでもベルは諦めなかった。炎が簡単に呑み込まれたことに怯むことなく、果敢に挑む。


 今度はベルゼバブの背後に回り込み、ベルは炎を放った。背後から攻撃を仕掛ければ、炎を食べられてしまうことはないはずだ。ベルの思惑通り、ベルゼバブは炎に包まれる。その様子を見て、ベルは微笑んだ。


「何だと⁉︎」


 だが、すぐにベルの顔から笑みは消えた。全身を炎に包まれたベルゼバブだったが、炎が口に到達すると、瞬く間に炎は消えてしまった。全身に広がっていた炎は、再び呑み込まれてしまった。


「最初のよりは効いたぞ。褒めてやろう」


「クソ…………」


 ここで、ベルは改めてベルゼバブに圧倒的な力の差を見せつけられる。炎の拳しか使えない町の悪党とはわけが違う。今戦っているのは、悪魔だ。


 しかし、実力の差をまざまざと見せつけてられても、ベルは諦めなかった。

 何かを思いついたベルは、突然ベルゼバブを中心に円を描くように、走り回り始めた。


「?」


 ベルの動きをよく見ていると、彼は一定間隔で足元に手をついては、炎を放出している。ベルゼバブには、ベルが何をしようとしているのか理解出来なかったが、やがてその真意が見えて来た。


「ほう、次はどう来る?」


 気づけば、ベルゼバブは見渡す限りを炎に囲まれていた。ベルはベルゼバブを囲むように炎を放ち、炎の壁を築き上げたのだ。それは、ひねりにひねって、ベルが考えた出した戦術。ベルの持つ天性の戦闘センスに、ベルゼバブは素直に感心していた。


 ベルゼバブの周りを、轟々と音を立てて燃え盛る炎の壁が囲んでいる。ベルは炎の壁の裏にいて、攻撃のタイミングを見計らっている。

 ベルゼバブにとって、そんなことはどうでも良い事だった。いくら巧妙に仕掛けて来たところで、その黒魔術(グリモア)の威力はたかが知れている。


「食らえ!」


 ベルは、ベルゼバブの背後から意表を突いて現れると、魔法陣を広げた手でベルゼバブに触れた。

 すると、先ほどと同じようにベルゼバブの身体は炎に包まれた。


「小賢しい‼︎」


 ベルゼバブはすぐに自身を包む炎を呑み込むと、辺りに広がる炎までも、全て呑み込んでしまった。綺麗さっぱり消え去った炎の壁の先に広がるのは、一面の暗闇。そこにベルの姿はなかった。


「油断し過ぎだ‼︎」


 悪魔が油断している隙に、ベルは再び背後に回り込んでいた。


「ぐっ……」


「悪魔だろうが、所詮は人間の身体。ダメージはあるはずだ」


 ベルはニヤッと笑った。ベルゼバブの腹部に視線を移すと、そこにはベルの手に握られたダガーが刺さっていた。ベルがアドフォードに侵入する時、壁を登るのに使っていたものだ。ベルゼバブの腹部からは、紅い血が滴っている。


「クククク、フハハハハハ‼︎大した小僧よ!少々過小評価し過ぎていたようだ。アローシャに身体を奪われなかっただけのことはあるようだな」


「うっ‼︎」


 今度は反対に、一瞬のうちにベルが肩に傷を負ってしまった。それは、何か鋭利なもので斬りつけられたかのような傷だった。ベルは傷を負った勢いで、後ろに仰け反った。


「そろそろ反撃させてもらおうか。俺をみくびるな……確かそう言ったな。その言葉、そっくりそのままお前に返してやろう!」


 ここからベルゼバブの反撃が始まる。それはベルに死が待ち受けていることを意味していた。


 悪魔がゆっくりと近づいて来る。それだけでも、ベルにとっては大きな恐怖だった。全力の攻撃を物ともせず、自分を殺すつもりで襲いかかる悪魔が、目の前に迫っているのだ。


 ベルは正面に向かって右手を伸ばし、炎を放出する。

 ところが、ベルの黒魔術(グリモア)は至近距離でしか意味を成さない。炎を敵に向かって飛ばすことは出来ないのだ。それでも、防衛本能で咄嗟に炎を出現させた。ベルの咄嗟の行動も虚しく、なぜかその炎は一瞬にして消え去った。


 ベルには一体何が起こったのか理解出来なかった。ベルゼバブは、原則何でも食べ尽くす。直接触れていようがいまいが、それが遠く離れていようが、彼は狙ったものを捕食する。


 ベルが咄嗟に灯した炎は、一瞬にしてベルゼバブに食べられたのだ。


「さっさとアローシャを出せ」


「ぐはっ‼︎」


 ベルゼバブの顔から笑みが消えると、一瞬にしてベルの身体は後方に吹き飛ばされる。その軌道からは、血液が飛び散っていた。


 ベルは倒れ込んだ。ベルの腹部には傷が出来ていた。それもベルゼバブにつけたものとは比べものにならないほど大きく、深い傷。腹部からは血液が流れ出し、その勢いが止まることはなかった。


「コノ…………ヤロウ……」


 ベルは必死に痛みを堪えながら、ベルゼバブを睨みつけた。その瞳さえも、虚ろになり始めていた。このまま血液が流れ出せば、ベルは出血多量で死んでしまう。


 徐々に、その意識も遠のいて行く。圧倒的な力の差を見せつけられ、ベルはベルゼバブに敗れた。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「………………」


 しばらくして、ベルの身体は起き上がる。真っ黒な天を仰ぐその顔に、2つの瞳が紅く光っていた。


「ようやくお出ましか‼︎お前に話があるんだ」


「ベルゼバブ……ちょっと待ってくれないか、このままでは器がダメになってしまう」


 アローシャは、大きな傷を負った腹部を押さえている。意識を支配しているのが悪魔だろうと、その身体の持ち主が死んでしまっては元も子もない。


「あぁ、すまなかったな。お前を表に出すには、こうするしかなかった」


 アローシャは、ベルのベストの内ポケットに入っていた、小さな小瓶を取り出した。ポケットにすっぽり収まるような、(ほそ)い小瓶だ。中に入る液体は、せいぜい100ミリリットルと言ったところか。


 それから栓を抜くと、中に入っていた液体を腹部の傷に2滴、肩の傷に1滴垂らす。


 すると傷口が淡く青色に輝き、みるみるうちに傷を癒していった。青い輝きが傷口全体を包み、その光が消えると、傷は綺麗さっぱり消え去っていた。残っているのは、破れたシャツだけだ。


「何だその水は?」


「“星空の雫”だ」


「星空の雫だと⁉︎何でこんな小僧が、そんな大層なもの持ってるんだ?」


「知らん。つい最近私が目覚めた時、コイツがこれを隠し持っていることを知った。一目で星空の雫だと分かった」


 アローシャが最近目覚めた時。それは、白い少年と対峙した時のことだった。あの時ベルは、囚人服と不思議な紋様のローブに身を包んでいた。つまり、アドフォードを訪れる前に、ベルは星空の雫を手に入れたと言うことだ。


「まあ何でも良い。本題に入るぞ。アローシャ、俺たちの仲間にならないか?お前ならこんな小僧の意識を奪うのは簡単なはずだ」


「何でお前の仲間にならないといけないんだ?」


「とにかく、世界は大いなる目的に向けて動き出している。俺たちの仲間になった方が得だぞ?この世界は、もう誰にも止めることは出来ない。こちら側にいた方が安全だ」


「大いなる目的……なるほど。お前たちがやろうとしていることは分かった。だが、私がお前たちの仲間になることはない」


 アローシャはベルゼバブの申し出をきっぱりと断った。彼は、他の悪魔とは少し違うようだ。


「この分からず屋め。小僧と同じようなことを抜かしやがって。俺たちの仲間にならなければ、お前に明日はない。どうせお前は消されることになる。そうなる前に俺が消してやろうではないか」


「面白い。お前ごときに、私を消すことは出来ん!」


挿絵(By みてみん)


 アローシャはベルゼバブの宣戦布告を受けた。昨日の友は今日の敵。間もなく悪魔同士の壮絶な戦いが始まる。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ベルゼバブの圧倒的な力の前にベルが倒れた時、業火の悪魔が目を覚ます。


次回、暗闇の中で悪魔同士の戦いが繰り広げられる!!

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