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第170話「ハートの女王」(1)【挿絵あり】

反乱者が動き出したのと同じ頃、アムニス砂漠にも動きがあった…


改稿(2020/11/14)

Episode 2 : Awakenings/目覚め


 どこまでも広がる砂の大地を、夜の闇が包み込む。ここは、セルトリア王国とリミア連邦の中間に位置するアムニス砂漠。太陽が照りつける昼間、アムニス砂漠は焼けるような暑さが支配する。

 しかし灼熱の砂漠も、夜は違った顔を見せる。昼間と反対に、夜は凍えるような寒さが支配するのだ。アムニス砂漠は、リオーズ大陸において1日のうちの気温の変化が最も激しい場所だと言えるだろう。


 ベルが白い少年と戦いを終えたのと同じ夜。M-12 2名との戦いを終えたジュディは、気を失ったままアムニス砂漠の中心で倒れていた。

 燃えるような暑さの中で、しかも全身に火傷を負って満身創痍であるにも関わらず、彼女はまだしっかりと息をしていた。傷だらけだが、ジュディは生きている。


 目は覚まさないものの、ジュディは気を失っているだけだった。とは言え、この砂漠でずっと倒れていれば、いずれは死んでしまう。辛うじて生きている状態の彼女は、一刻も早くこの過酷な環境から抜け出さなければならない。


 そんな時、ジュディに近づく2つの影があった。彼らは無言のまま、倒れたジュディを見つめている。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 それから数日後、ジュディは目を覚ました。数日ぶりに開いた彼女の瞳に映るのは、殺風景な岩の壁。上半身を起こして周囲を見回すと、岩の壁がジュディを囲んでいる事が分かる。ここは洞窟だ。


「……ウチ死んじゃった?」


 ジュディには、生きている実感が無かった。燃え盛る鬼火に自ら突っ込んで行ったのだから、無理もない。戦いの結末も知らない彼女は、呆然として座り込んでいる。この世かあの世かも分からないこの洞窟には、ひんやりとした空気が流れていた。


 自分の生死さえも分からないふんわりとした感覚の中にいたジュディは、一瞬にして現実に引き戻される事となる。


「⁉︎」


 ジュディがふと自分の身体に目をやると、そこにあるべきものが存在していなかった。今の彼女は騎士団着を着用していなかったのだ。騎士団着の代わりに彼女が身にまとっているのは、見覚えのない藍緑色の布だった。


 長い布に包まれているだけのジュディは、当然裸だった。火傷のひどい箇所には、なぜだか包帯が巻いてある。幸い、騎士団着を着ていたおかげで、露出していなかった箇所の火傷はそこまで酷くないようだ。


 慌てて周囲を見回したジュディは、すぐに騎士団着を発見する。奇妙な事に、騎士団着は丁寧に畳んで、重ねてあった。誰かが彼女の服を脱がし、治療を施した事は間違いない。ジュディは、すぐに自分が生きている事を確信した。


「お目覚めか…」


 ちょうどその時、誰かがジュディの目の前に現れる。声をかけられた途端、ジュディの顔は一瞬にして真っ赤になった。彼女の服を脱がせたのも、その人物で間違いないだろう。


「あ、アンタらウチに何した⁉︎」


挿絵(By みてみん)


「何のことだ?」


「トボけんな‼︎女の子を脱がしといて、“何のことだ?”はないだろ‼︎」


「おやおや、何か勘違いをしているようだ。我らはそんな野蛮な人間じゃない」


 ジュディの目前に現れたのは、数日前にアムニス砂漠で彼女の前に現れたのと同じ2人組だった。アムニス砂漠を拠点に活動する盗賊団“他所者(アルグリバー)”の、イシャール・ババリとガラン・ドレイクだ。


「じゃあ何でウチは着てた服脱がされて、ほとんど裸になってるんだよ?」


「砂漠に倒れていたお前は、火傷が酷かった。ずぶ濡れの服を着ていたまま過ごせば、お前の命は危なかったかもしれない。傷口は清潔にせねばならんからな」


 理由は定かではないが、2人の盗賊がジュディの命を救った事は確かだ。ジュディが騎士団着を脱がされていたのにも、きちんとした理由があった。


「……で、でも‼︎アンタらウチの裸見たんだろ⁉︎」


「そのくらいは命を助けてやった褒美として、許してくれても良いだろう?」


「何キメ顔で言ってんのコイツ……まだ男に裸見られたことなかったのに…」


 さらに顔を真っ赤にして慌てふためくジュディに、イシャールはいたずらな笑みを向ける。イシャールが冗談を言っている可能性もあったが、今のジュディは冷静な判断が出来ない状態に陥っていた。


「もしかしてお前処女なのか?」


「う、うるさい‼︎そんなわけないでしょ‼︎ウチは女王!騎士でもあるんだからね!」


 図星…なのだろうか。ガランの言葉に、ジュディは過剰に反応した。それが本当だとすれば、ロビンとの付き合いも極めて純粋なものだったのだろう。

 もしかすると、彼女は自身の純粋さをひた隠すために、いつも気を張っているのかもしれない。


「女王兼騎士様が、こんな砂漠のど真ん中でなぜ倒れていた?騎士団員にあるはずの忠誠の鎖も無いようだが」


「一体どこの女王なんだよ」


「それは、色々あるのよ…」


「何があったんだ?言ってみなさい」


 イシャールとガランは、ジュディがM-12と激しい戦いを繰り広げた事を知らなかった。そしてイシャールは、ジュディの左手首に“忠誠の鎖”が存在しない事に気がついていた。


「大体素性も知れないアンタらみたいな人間に、易々と個人的なこと話すわけないでしょ?裸まで見られたって言うのに…」


「失敬な。我らはお前の命の恩人だぞ?まあ、素性も知れないと言うのは全くその通りだな。我らは他所者。そして私は盗賊王イシャール・ババリだ。隣にいるのが、ガラン・ドレイク。お前が女王だと言うのなら、私だって立派な王だ」


 警戒心を強めるばかりのジュディに、ようやくイシャールは自己紹介した。


「他所者…イシャール・ババリ⁉︎何で盗賊がウチを助けたの?盗賊って倒れてる人間からでも、平気で盗む奴らでしょ?」


 ジュディは盗賊団“他所者(アルグリバー)”の存在を知っていた。

 しかし、彼女は盗賊が自分を助けた理由に検討をつけられなかった。


「安っぽい盗賊像を私に当てはめるな」


「そこは“我ら”だろ‼︎」


「ハハ…すまん」


 他所者は、いわゆる盗賊とは違う。それが彼らの言い分だった。彼らには、彼らなりの誇りがある。それは、ガランの態度を見ても分かることだ。


「盗賊って時点で、十分安っぽいでしょ。で、何でウチを助けたの?先に喋らなきゃ、ウチも喋らない」


「それもそうだ。ここは喋るしかないぞ、ガラン」


「もともと言うつもりだったしな。オヤジに言われなくても言ってるよ」


 正体を知っただけでは満足せず、ジュディは彼らが自分を助けた理由を知りたがる。どうやら、ジュディが助けられたのには、ガラン・ドレイクが大きく関わっているようだ。


「で、何?」


「お前を助けた1番の理由は、ベル・クイール・ファウストだ」


「何でベルが出てくんの?」


 ガランの口から飛び出したのは、ジュディが予想だにしない答えだった。当然ジュディはベルとガランの関係性を知らない。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


盗賊に救われて困惑するジュディ。彼らの目的は…

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