第167話「夜明けの影法師」(1)【挿絵あり】
夜が明ける時、深い闇の中で影が動き出す。
(扉絵はバージョン1です。これから扉絵の中にもキャラが増えていきます)
改稿(2020/11/13)
第5章「光の標」編(Chapter 5 : The Sign To The Light)
Episode 1 : The Looming Evil /迫り来る悪魔の手
飛空艇が飛び交う夜空は、漆黒の闇に包まれていた。本来ならば輝く星々が夜空を覆い尽くしているはずだが、夜空には暗雲が立ち込めている。煌びやかな王都の街並みとは対照的に、上空は真っ黒だ。
そんな夜空に溶け込むかのように、巨大な黒魔術士騎士団本部が鎮座している。闇夜に溶け込むその姿は、まさに影。この新しい世界を創り上げた146年前の反乱軍の一員が、騎士団に身を潜めている可能性もあるのかもしれない。
そんな不安を煽るかの如く、立ち込める暗雲の遥か上空には、真っ黒な月が浮かんでいた。不吉の象徴を人々が目にする事が無いのは、せめてもの救いだろう。これからベルたちには、困難が待ち受けているのだろうか。
南の空から飛来した1艇の飛空艇が、王都南西に位置する空港へと降り立つ。
その中に、きっとリリたちの居るのだろう。定刻通り発着するセルトリア航空の飛空艇と違い、騎士団の飛空艇はすぐに飛び立つ事が出来る。恐らくナイトたちはとっくにこの王都にいて、今後の作戦を話し合っているに違いない。
「あ〜疲れた!」
飛空艇から降りて来たリリは、疲れて切った様子で大あくびをしている。普段ならこの時間、彼女はとっくにベッドですやすやと寝ている。
「遅くまでご苦労だったな。母親があのリリスとは…嬢ちゃんも大変なもんだな」
「え?何で知ってるんですか?」
同情するアイザックに、リリは冷たい視線を送る。リリはアイザックに、バレンティスで起きた事は一切話していない。アイザックのその言葉が、リリの眠気を覚ました。
「その目やめろ…寝てる間に、“あの先輩”から夢ん中で聞いたんだよ。ついでに今後の指示も貰った」
「あ〜‼︎エ…」
「嬢ちゃん‼︎その名を気安く口にするんじゃねえ。どこで誰が聞いてるか分からないだろ?」
アイザックがバレンティスでリリに起きた事を知った原因は、エルバにあった。ドリーマーに酷似した力によって、アイザックは夢の中でエルバとコンタクトを取っていたのだ。
そして、エルバが未だに存在していると言う事実は、反乱者のみが知る極秘事項だ。
「あ…そっか。それで、ベルたちとはどこで合流するんですか?」
「元々場所は決まってたんだが、状況が変わっちまった。ベルが飛空艇に乗る前に倒れて、目を覚まさないんだと」
「それどういう事ですか⁉︎」
バレンティスで飛空艇に乗る前に倒れたベルは、エリクセスに着いた今でも目を覚まさないまま。ボロボロでも元気だったベルの姿を鮮明に覚えているリリは、その事実が信じられなかった。
「無意識に奥の手使っちまって、その反動が相当ヤバかったらしい。今はエリクセス・セントラル病院に入院してるみたいだ」
限界を超えたベルの覚醒。その覚醒に支払われた対価が、新たな反乱を早くも狂わせていた。騎士団の手から逃れる必要があるのは、ナイトとベルなのだから。
「そんな……私すぐベルの所に行きます‼︎」
「嬢ちゃん、冷静になれ。今日はもう遅い。疲れてるだろ?それに、その子をこんな遅くまで連れ回すワケにもいかねぇだろ」
「でも…………分かりました。今日は一旦帰ります」
さっそくセントラル病院に向かおうとするリリを、アイザックは制止する。6人の反乱者がバレンティスに集まった日。ベル、ナイトだけでなく、リリにも実に様々な事が起きた。今は休息が最優先だ。
一刻も早くベルの様子を自分の目で確かめたかったようだが、リリはアイザックの提案を受け入れる事にした。
「よし!それが“先輩”が嬢ちゃんに望んだセリフだ!俺は先にナイトと合流する。嬢ちゃんは明日になったら、ベルのところに見舞いに行ってやれ。そっから合流だ。夢の中で詳しい説明があるはずだぜ」
「分かりました!また明日」
「おう」
ベルは身体的にボロボロだが、リリとナイトは、精神的に大きな疲労を抱えている。新たな反乱者には、休息して気を新たに持つ事が求められている。ベルだけは、他の反乱者よりゆっくりと休む事になりそうだ。
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それからリリとアレンは、まっすぐロコが待つ家に戻った。眠たい目を擦りながらウトウト歩くアレンを引っ張りながら、少々時間を掛けて彼女は帰宅した。家に入るや否や、アレンはベッドに倒れ込んで爆睡した。
「リリさん遅かったじゃないですか。何があったんですか?心配したんですよ⁉︎あれ?ベルさんは?」
ロコは寝ずに、リリたちの帰宅を待っていた。どうやら、ジュディはまだこの家には戻って来ていないようだ。砂漠で倒れた彼女の行方を知る者は誰もいない。
「……ベルはセントラル病院に入院してます」
「え⁉︎それって一大事じゃないですか‼︎騎士団がしたのは、記憶を消すだけじゃなかったと言う事ですね?」
当然ロコは、リリの隣にベルの姿が無いとすぐに気づいた。ベルが騎士団の秘密を探ろうとしていた事を知っている彼女は、ベルがそのせいで入院していると信じて疑わない。
「いや、あの…」
「セントラル病院の院長はM-12のメンバーです。ベルさん本当に大丈夫なんでしょうか…」
「それって本当ですか⁉︎」
「は、はい。セントラル病院を仕切っているのは、アシュリー・ノーベンバー院長です」
そして、明らかになる新たな事実。ベルが入院する病院の院長はM-12。もしかすると、騎士団は気を失ったままのベルを、そのまま目覚めさせないつもりなのかもしれない。
「そんな‼︎こうしちゃいられない‼︎」
「今から行くんですか⁉︎」
「………明日にします」
「そうですよ。丸1日外にいたんですから、疲れてるはずですもん」
忙しなく動き続けようとするリリは、アイザックに言われた通りひとまず冷静になった。一晩寝ても、ベルが病院から居なくなるわけではない。時に冷静さは、物事を上手く進める鍵となる。精神的に疲れ切っているリリが休まず動いても、空回りしてしまうだけだ。
「あの時はあんな事言ったけど、ロコさんの事は信じられそう…」
「え?何の話ですか?」
「あ…いえ‼︎気にしないで下さい〜あははは」
リリが今から病院に行くと言っても、ロコは彼女に付き合っていただろう。そんな事を考えながら、リリは思わず本音を口にしてしまった。彼女は今までもリリのために力を貸して来た。騎士団の中で数少ない、信頼に足る人物だ。
「ゆっくり休んで、朝になったらセントラル病院に行きましょう!」
「はい‼︎」
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最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!
これまでに無いくらい更新が遅くなってしまいました。誠に申し訳ありません。中々扉絵を完成させる事が出来ず、約1ヶ月更新が滞ってしまいました。これからは、いつも通り更新していくので、よろしくお願い致しますm(__)m




