表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/388

第158話「師の背中」【挿絵あり】

久しぶりのあの方が、満を持して登場⁉︎

ベルの窮地を救ったのは…


改稿(2020/03/02)

Episode 7:The Avatar Of Hellfire/業火の化身


「助っ人登場!…なんてな。俺の大事な弟子は殺させねぇよ!」


挿絵(By みてみん)


 ベルの窮地を救ったヒーロー。その正体は、ベルの師匠アイザック・レストーレだった。都合よくたまたまこの遺跡地区を訪れていて、ベルの窮地に遭遇したのだろうか。


 突然現れたアイザックはいつものように、背中に大剣デル・モアを背負っていた。さっき白い少年の腹部に傷をつけたのも、この大剣なのだろう。


「仲間がいたとはね…仲間は黒魔術(グリモア)も使えないボンクラだけかと思っていたよ」


「殺そうとしてる相手の事は、もっとリサーチしとくんだな。コイツには黒魔術士(グリゴリ)の仲間が何人もいるぜ」


 アイザックの登場を、白い少年は全く予期していなかった。ベルと共に行動しているのはリリとアレンだけだと思っていたらしい。


「邪魔者が1人増えたところで、僕が本物に成り代わるのは止められない。貴様をさっさと殺して、僕は本物になる!」


「その物言いに、その顔。お前、ベルのドッペルゲンガーだな。お前を本物になんかさせねぇよ」


 アイザックは、すぐに白い少年がドッペルゲンガーである事を見破った。いつも以上に虫の居所が悪い白い少年は、今にもアイザックに襲いかかろうとしていた。


「ちょっと待った」


「ん?」


 緊迫した空気など御構い無しに、アイザックは突然戦闘を中断した。

 そして懐から何かを取り出すと、白い少年には目もくれず、彼は倒れたベルの方へと歩み寄って行く。アイザックの手には小瓶が握られている。


「おい、目を覚ませ。こんな所で寝てたら、マジでオーブ奪われちまうぞ」


 しゃがみ込んだアイザックは、小瓶の蓋を開けて、中の液体をベルの口に流し込んだ。青い液体がベルの体内に流れ込むと、しばらくしてベルの身体が青い光に包まれた。


「……ん?」


「よっしゃ!とっとと起きろ」


「何でお前がここに…」


 青い光が消えてから1分も経たずに、ベルはゆっくりと目を開けた。

 それからすぐに、目の前にアイザックの顔がある事に気づく。アイザックがベルに使ったのは、星空の雫のようなものなのだろうか。


「グラサン野郎…何でここにいるんだよ⁉︎」


「まあいいじゃないの。たまたま通りかかってよぉ」


「んなワケねぇだろ‼︎こんな場所たまたま通りかかるか‼︎」


 やがて意識がはっきりしたベルは、都合よく現れたアイザックに疑いの目を向けた。セルトリア王軍が管理するこの歴史的重要な場所を、たまたま訪れていたとは、まず考えられない。一体なぜ、アイザックはタイミング良くベルを救う事が出来たのだろうか。


「しょうがない…俺の負けだ。ワケを話してやろうじゃないの。今日俺はたまたまバレンティスに来ててよ。街でお前を見かけて、気になって後をつけて来たってワケ」


「…ストーカーかよ」


「可愛い弟子の心配して何が悪いんだ!それに、俺が来なきゃお前死んでたぞ」


 若干引き気味なリアクションを見せるベルに、アイザックは慌てて自分がベルを救った事をアピールする。

 彼の言う通り、1人で戦っていれば、ベルは今頃白い少年にオーブを抜き取られてしまっていただろう。


「……ありがとよ」


「え?何だって?聞こえなかったから、もう1回はっきり言ってくれよ」


「絶対聞こえてただろ…もう2度と言ってやんねぇ」


「チッ…可愛くねぇな」


 そしてベルとアイザックは、まるで恋人のようなやり取りを始めるのだった。


「おい貴様ら…勝手に盛り上がるな‼︎」


 ベルとアイザックが2人だけで会話を続けていると、白い少年は忘れ去られた自分の存在をアピールし始めた。そもそもこの場で繰り広げられているのは、ベルと白い少年の戦いなのだから。


「……………」


「………………」


「ベル、侵蝕(イロージョン)解除直後のお前は、とてもまともに戦える状態じゃない。怪我もまだ完治してないみたいだからな」


「貴様‼︎」


「うるせぇな!偽物は黙って待ってろ!」


 口を挟まれたアイザックはしばらく白い少年を凝視するが、何事もなかったかのようにベルとの会話を再開する。

 その様子を見て堪らず怒鳴った白い少年に、アイザックも怒鳴り返した。


「あぁ…侵蝕(イロージョン)を解除した直後は動けなくなる。あれ?でも、何で俺今動けるんだ?」


「そりゃコイツのおかげさ」


「それって…星空の雫か?」


 アイザックはさっきベルに飲ませた液体の入った小瓶をチラつかせながら、笑顔を見せた。


「半分正解で半分不正解」


「は?」


「コイツは星空の雫を半分に薄めたもの。それでも、絶大な回復効果が得られるんだがな」


「何で薄める必要なんかあるんだ?」


「バカヤロウ!星空の雫は超超貴重な代物なんだぜ?全快は無理だが、これでも十分回復薬として機能する。かさ増しも出来るワケだし」


「なるほど」


 アイザックが所持しているのは、星空の雫を薄めた回復薬だった。本来星空の雫を摂取すれば、ボロボロの身体を全快の状態にする事が出来るのだが、薄めてもかなり高い回復効果は得られる。


「ちょっと待てよ…その回復薬があるんなら、俺は白い少年とまともに戦えるんじゃないか?」


「やっぱりお前は馬鹿だな〜。侵蝕(イロージョン)を第3段階まで進めて、ようやくお前はあの化け物と互角に戦えた。また同じ戦法を取るつもりか?そんな事したら、また気絶しておしまいだ」


「お前が一緒に戦ってくれれば問題解決だろ?ってか、何で俺が侵蝕(イロージョン)進めて戦った事知ってるんだよ」


 ベルは違和感を抱いていた。アイザックが話している事は、彼が共闘すれば解決する話のはず。共闘しないのだとすれば、なぜアイザックはこの場に現れたのだろうか。


「あはは〜…悪い悪い。実はちょっと前からお前の戦い見てたのよね〜」


「何でさっさと助けねぇんだよコノヤロー…」


「なんか因縁の戦いっぽかったから?邪魔するのも無粋だろ」


「余計な気使わなくて良いんだよ。つーか、まだもう1つの質問に答えてねぇぞ。お前が一緒に戦えば、解決する話だろ?」


「あぁ、その話ね。まず結論を言ってやろう。俺とお前が共闘するのは不可能だ」


「………は?」


 ベルはアイザックの言っている事が理解出来なかった。共闘出来ないとは一体どういう事なのだろうか。こうなってくれば、アイザックがこの場に現れた理由がますます分からなくなって来る。


「それは、俺の魔剣に秘められた力に理由がある。俺がこの魔剣の力を解放すれば、お前の黒魔術(グリモア)を妨げる事になっちまう。だから、一緒に戦う事は出来ないんだよ」


「それってどういう事だよ?その魔剣の力って何なんだよ⁉︎」


 アイザックはベルと共闘する事は出来ないと言う。彼がいつも背負っている魔剣デル・モアには、一体どんな力が秘められているのだろうか。


「まあ良いじゃないか。とにかく、俺とお前は共闘出来ない。だから、お前には道具を使って戦ってもらう」


「道具?」


「そう道具。アイツ変な剣持ってるだろ?だから、お前も剣を使うのさ」


「それって、そのデッカい魔剣を使うって事か?」


「お前話聞いてたのか?この魔剣の力を解放すれば、お前の力を妨げる事になるって言ったろ?」


「じゃあ何なんだよ…」


「今から説明するから、よおく聞いとけ。俺があの化け物の相手して時間を稼ぐ。その間に、“アローシャの牙”を使いこなすんだ」


「何だよ“アローシャの牙”って…」


 ベルの師アイザックは、白い少年に勝つ活路を見出していた。そのためには、ベルさえ知らない“アローシャの牙”と言う武器が必要となって来る。


「ついさっき思いついたのさ。侵蝕(イロージョン)を第3段階まで進めた炎の力を、通常状態に戻っても使える武器として残す」


「意味分からないんですけど…」


「だから‼︎最強の業火を剣に変えるって話さ。何よりも熱いその炎を、剣の形に凝縮させる。周囲のオーブや空気を焼き固めながら結晶化すれば、きっと業火の剣が作り出せるはずだ。それが作り出せれば、お前は元に戻っても、侵蝕(イロージョン)を第3段階まで進めた時に近い力を使える」


「そんなの本当に出来るのか?今までやった事ねぇし」


 “アローシャの牙”。それは、侵蝕(イロージョン)を第3段階まで進めたベルの黒魔術(グリモア)を、第1段階でも使えるようにする手段だった。地獄の業火を結晶化し、武器に変えようと言うのだ。


“心配するな。そいつが言うように、確かに業火の剣を作り出す事は可能だ”


「マジか⁉︎」


“ただし、それには高度な制御力が必要だ。集中力、センス、これまでの経験全てをフル活用しても、難しい事は間違いない”


「何だよ…それって時間掛かるんじゃねぇのか?」


「時間掛かってもやるんだよ。“アローシャの牙”は、必ずこれからお前の強力な武器になる。習得しない手はないぜ」


 アイザックの考えた“アローシャの牙”は、実現可能な武器だった。それが実現すれば、これからベルに伸し掛かる負担は大幅に軽減される。普段の状態のまま、侵蝕(イロージョン)を進めたのと同じ力を使えるのだから。


「でも、お前の魔剣の力が俺の黒魔術(グリモア)を妨げるって言ってなかったか?」


「だから、俺があの化け物をお前から引き離す。俺はお前から十分離れた所で奴と戦う。俺が離れている間に、さっさと“アローシャの牙”を作れるようになれ。お前次第で、俺が戦う時間も変わって来るんだからな」


「本当に大丈夫なのか?師匠っつっても、俺はお前が戦ってるところ、1回も見た事ねぇんだよな」


 ベルはアイザックの身を案じていた。白い少年は、ブラック・サーティーンであるベルが本気で挑んでも倒しきれないような相手。

 そんな強敵に、ブラック・サーティーンでもないアイザックが負けてしまうのではないかと思っているのだ。


「馬鹿にするんじゃねぇ!お師匠様を舐めたらバチが当たるぞ。俺だって、ナイトに引けを取らないくらい強いんだぜ?」


「ホントかよ…」


「あぁ本当だ‼︎少なくとも、お前を圧倒出来るくらいの力はある。師匠の心配はしてくれなくて良いから、自分の心配をするんだな」


 しかし、ベルの心配とは裏腹に、アイザックは絶対的な自信を持っていた。彼の魔剣には、それだけ強力な力が秘められていると言う事なのだろう。

 なぜだかこの日のアイザックは、ベルにはとても頼もしく見えていた。


「別に心配してねぇし」


「本当は心配で堪らないくせに〜」


「うるせぇな!てか気持ち悪いぞ‼︎」


「へへ〜良いじゃないの〜」


 アイザックはどうしてもフザけずには居られないようで、真面目な話をした後には必ずおちゃらけてしまう。普段から余裕を持つ事を忘れないのも、彼の自信と強さの秘訣なのだろう。


「そろそろ待ちくたびれた。本物にならせてもらおうか」


「さてさて…弟子の偽物を懲らしめますか」


 痺れを切らした白い少年に、アイザックはようやく向き合った。


 “アローシャの牙”を完成させるための時間稼ぎの戦いが、これから幕を開ける。頼もしい師の背中を見たベルは、すぐさまその場から立ち去るのだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


第82話以来の登場となるアイザック。

次回はようやく彼の戦闘が見られます!魔剣に込められた力とは⁉︎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ