第157話「深紅の拳」(1)【挿絵あり】
深紅の炎に包まれたベルが見せる、新たな境地とは…
改稿(2020/11/09)
「……さすがは僕。この程度で終わるとは思っていなかったさ」
「次炎の中に消えるのは、お前だ」
白い少年を睨みつけるベルの姿は、明らかにこれまでと違っていた。マインド・ストームを打ち破るため、ベルは侵蝕を第3段階まで進めていたのだ。
ベルの肌は隈なく赤く染まり、彼を包む業火に吹き上げられて髪は逆立っていた。当然耳と爪も悪魔のように尖っている。その姿はまるで、ベルが幾度となく対峙して来たアローシャの姿のようでもあった。
ベルが侵蝕を第3段階まで進めるのは、これが2回目だった。1度目は、強化されたベリト監獄を脱獄する時。あの時は、たった一瞬だけ侵蝕を第3段階へ進め、見事に壁を打ち破った。
“小僧、タイムリミットは3分だ。それまでに決着をつけろ”
「分かってるよ。あん時はすぐ気絶しちまったからな…」
“3分以内に終わらせなければ、お前は完全に無防備な状態になる。そうなれば、たちまちオーブを抜き取られてゲームオーバーだ”
「だから分かってるっつってんだろ!3分ありゃ十分だ」
戦闘の前に、アローシャはタイムリミットについてベルに釘を刺した。
絶大な力を振るう事の出来る侵蝕だが、その代償は大きい。事実、以前たった一瞬だけ侵蝕を第3段階へ進めたベルは、第3段階を解除した瞬間、気絶してしまったのだ。
加えて3分以上この状態でいると、ベルは2度と元の姿へは戻れなくなってしまう。多くの危険性を孕んだ最強の形態で、ベルは白い少年と戦おうとしていた。
「何をごちゃごちゃ言ってるんだ?まあ良い…でもまあ、よくマインド・ストームに耐えられたな。褒めてやろう」
「大体趣味悪いんだよ!ホントにお前、俺かよ‼︎」
ベルはマインド・ストームの中での出来事を思い出し、身震いしていた。ベルにとってあの渦の中は、まさに地獄のような世界だった。耐えずヨハン・ファウストが語りかけ、目を開けばそこには燃えるヴァルダーザ。全てが、ベルを精神的に追い詰める空間だった。
「だからこそ、渦の中で大人しく死ねば良かったんだ。魂を抜き取られるのは、死ぬより辛いと聞く」
「無駄なお喋りはこの辺にしとこうぜ。俺には時間がないんだ」
「僕だって、早く本物になりたいさ」
すでに戦いは始まっていたが、ようやく同じ顔をした彼らが直接ぶつかり合う事となる。
白い少年が魂の刃を振るうと、それに導かれるように、周囲のオーブが集まり出す。
そして魂の刃の先端には、緑に輝く雷鳴が出現していた。魂の雷鳴と言ったところか。
魂の雷鳴を目の当たりにしたベルは、すぐさま業火の壁を出現させる。
「魂の刃で作れるのは、マインド・ストームだけじゃないんだ」
そう言って白い少年は魂の刃を再び振るった。
すると、緑の雷はたちまちベルに向かって走り始めた。
魂の雷鳴は容易に業火の壁を飛び越えて、ベルに襲いかかる。
ところが、狙われているベルは全く焦った様子を見せていなかった。
「へっ!大した事ねぇな‼︎」
雷はベルの身体に到達したのだが、ほとんどダメージを与える事が出来なかった。侵蝕を第3段階まで進めたベルは、常に渦巻く業火を身にまとっている。その炎が障壁の役割を果たし、襲い掛かる雷を掻き消したのだった。
侵蝕を第3段階まで進めたベルは、常に魔法に対するバリアを張っているのと同じ状態だった。
「くっ……⁉︎」
しかし、その直後にベルの身体は、後方に吹き飛ばされてしまった。何が起きたかも分からないまま、ベルは吹き飛ばされて尻餅をついた。リリスに付けられた傷が痛むようで、ベルは苦悶の表情を浮かべる。
ベルが白い少年に視線を移すと、彼の右脚には真っ赤な炎が燃え移っていた。と言う事は、彼が炎を顧みずベルを蹴り飛ばしたと言う事なのだろう。
「油断するから」
白い少年はそう言いながら、倒れたベルの元に近づいて行く。そうしている間に、彼の右脚には周囲のオーブが集まり始め、あっという間に炎と酷い火傷を消し去ってしまった。
「さ、そろそろ終わらせようか」
「くそっ」
ベルの前で立ち止まった白い少年は、不気味な笑みを浮かべる。
そして自身の背後に大量のオーブを集め始めた。ある程度オーブが集まると、それは拳の形に変化して、ベルに襲い掛かる。魂の雷鳴の次は魂の拳だ。
1つの巨大な拳を作り上げた白い少年は、それを勢いよくベルに振り下ろす。
だが、ベルも黙ってやられているばかりではなかった。ベルも魂の拳に対抗するように、深紅の拳を作り上げ、迎え撃ったのだ。
緑の拳と赤い拳はぶつかり合い、お互いに譲らない。その威力は互角だったようで、しばらく2つの拳は同じ位置から動かなかった。
「僕は貴様よりも強い‼︎」
完全に力が拮抗している事を知った白い少年は、さっそく次の攻撃に移る。今度は魂の拳を無数に生成し、白い少年はベルに連続攻撃を浴びせようとしていた。
「面白いじゃねぇか‼︎」
それを見たベルも負けじと、深紅の拳を無数に生成し始める。赤と緑の拳はお互いに譲る事なく、激しくぶつかり合う。
赤い閃光と緑の閃光が周囲に飛び交い、美しいコントラストを生み出していた。
“小僧、残り時間が1分を切ったぞ。そろそろ終わらせろ”
「分かってる……やりゃいいんだろ‼︎」
この時すでに、ベルは限界を迎えようとしていた。ベルが侵蝕を第3段階まで進めるのはこれが初めてではないが、この状態で長時間戦うのは初めての事だった。
一瞬使っただけで気絶してしまうような力を数分使えば、どれほど身体に負担をかけるのだろうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
イロージョン第3段階のビジュアル初解禁!!白い少年との戦いは、さらに激化する!




