第24話「ゴーファー邸」【挿絵あり】
ゴーファー邸探索開始!
数十分後、ゴーファー邸の豪華絢爛な門前にはベル、リリ、アレン、ジェイク、セドナ、ハメル、炭鉱長の姿があった。結局ハメルは見張り役として、ゴーファー邸の入り口で待つことになった。
アレンは皆がハウゼント医院を出て行こうとしていた時に都合悪く起きてしまい、駄々をこねてついて来たのだった。
「お兄ちゃん肩車して!」
「はぁ?何で俺がそんなことやらなきゃいけないんだよ」
ベルは呆れ顔でアレンを見ている。彼には、アレンの世話をする気など毛頭ない。そんなベルを、リリは冷ややかな目で見つめている。
それだけではない。セドナ、そしてジェイクまでも同じような目でベルを見ている。
「じーっ……」
「………何だよ」
黙ってじっと見つめられる事ほど、居心地の悪いものはない。彼らが、ベルから視線を逸らすことはなかった。
「………………分かったよ。やりゃいいんだろ!やりゃ!」
ベルは大きく溜め息をつくと、アレンを抱えて肩車した。何とも言えない雰囲気に耐えきれなかったのだ。
「わーい!高―い!」
アレンは無邪気に喜んでいる。彼の笑顔で、周囲の人間は癒されていた。本当に天使のような男の子だ。
その時、ハメルは何やら門の方を向いて俯いていた。
「俺は怖がりなんかじゃない…怖がりじゃない…怖がりじゃない……」
ハメルは門に頭をぶつけながら、絶え間なく呟いていた。セドナから受けた心の傷がまだ癒えないのだ。
「はいはい。さっさと屋敷に入るわよ」
ゴーファー邸前は、何とも言えない混沌とした雰囲気に包まれていた。セドナが気持ちを切り替えて、一行を先導する。
黒い鉄格子の門は錆びついている。セドナの手によって開かれると、門は重々しい音を立てて開いた。屋敷の庭には雑草が無造作に生い茂っていて、まるで草原のようだ。
「こ、ここ虫いないよね……」
リリは虫が苦手だった。だが、そんなことはどうでも良かったのだろう。彼女の言葉に耳を貸す者はいなかった。
一行は無言のまま屋敷の入口に立つ。ゴーファー邸は、2階建の立派な洋館だ。
目の前の大きな扉を開いたのは、セドナだった。見た目はか弱い女の子に見える彼女だが、ここにいる誰より度胸があり、怖いもの知らずだ。
扉を開いたその先には、埃っぽい空気が充満していた。屋敷の中には、古い骨董品が大量に放置されている。規則性もなくバラバラになっている様子から、誰かがここに侵入して荒らした可能性が考えられる。
エントランスの両端には階段があり、天井には豪勢で優雅なシャンデリアが吊るされている。だが残念なことに、それも埃にまみれ。汚れきっている。
「ゴホッゴホッ…」
屋敷に入った瞬間、アレンとリリがほぼ同時に咳き込んだ。 どんな危険が潜んでいるかも分からない屋敷。やはりこの2人は連れてくるべきではなかったのかもしれない。
「俺たちを殺してこんなデカい家に住みやがって……それにあの装飾、どこまでも舐めてやがる」
炭鉱長は腹を立てていた。この豪邸を建てた金は、炭鉱夫を陥れ、殺した事で手に入れた金かもしれないからだ。それに彼はエントランスにある、つるはしの装飾品を見て、より苛立ちを募らせていた。
「懐かしいな……」
屋敷の中を見回しているジェイクはつぶやく。
「今何か言ったかしら?」
セドナはその言葉を聞き逃さなかった。
「え、あぁ。いえ、何でもないです」
「………この屋敷は広いから、3手に分かれて探しましょう」
セドナはしばらくジェイクの顔を見ていたが、すぐにこの屋敷に来た目的を思い出す。
エントランスの両端には2階へ通じる階段。そして、正面に1階の中央通路がある。2人ずつ、3手に分かれて探すのが得策だろう。かなり奥行がありそうだ。
「俺は1人で行く。俺はお前たちと違ってゴーストだ。壁もすり抜けられる。1人の方が効率的だ」
壁を自由自在にすり抜けることが出来る炭鉱長にとって、人間と共に行動するのは非効率的だ。
「確かにそうね。じゃあどうしようかしら……」
セドナがチーム分けを考えている時。
「ちょっと!勝手に行かないでよ!」
ベルが勝手にエントランス左の階段を上り、2階へ向かってしまった。ベルは、セドナを無視して進み続けている。
「では、僕は右側に行きますね」
続いて、ジェイクも勝手に動き出してしまった。
「ちょっと、ここは計画的に!」
「……………」
エントランスに残されたのは、セドナを除いてリリとアレンだけ。彼らは、ベルやジェイクと違って一切 黒魔術のような力がない。残ったのは、絶対に組み合わせたくなかった2人だった。
か弱い少女と幼い子供だけを置いて行くことは出来ない。彼らに、先に行ってしまった2人を追わせることも可能ではあるが、それも危険だろう。
セドナに見つめられたリリとアレンは、ニコッと笑って見せる。
「仕方ないわね。ここは3人で行動よ。私たちは真っ直ぐあの通路の先に行くわ」
セドナは、今この状況での最善策を取った。ここは3人で行動するのが1番だった。ここに来てチームの規律が乱れる事になるとは、彼女は想定していなかった。想定外のことが起きてしまえば、それに対応するしかない。
「呪いの椅子って、どんな感じなんですか?」
「あのお医者さんの話だと、ロッキング・チェアらしいわ」
「ロッキング・チェア?」
リリは、セドナの言葉に首を傾げる。アレンも彼女の真似をして、首を傾げていた。
「………………あなた、ロッキング・チェア知らないの?」
「えへへ……」
リリは、申し訳無さそうに笑った。それを見て、アレンもつられて笑顔になる。
「ロッキング・チェアって言うのは………まあいいわ!とにかく椅子みたいなものを探して」
セドナはジェスチャーでロッキング・チェア表現しようとしたが、恥ずかしくなったのか、やめてしまった。
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一方ジェイクは、エントランス右側の階段を上りきっていた。
目の前には部屋が1つ。ドアノブに手をかけて扉を開くと、そこにはエントランスと同じように埃まみれの骨董品が無造作に放置されていた。まるでゴミ屋敷のように、物が溢れている。
「これは時間がかかりそうだ……」
ジェイクは目の前に広がる骨董品の山を見て気弱になっている。彼は整理整頓好きで、このように散らかり放題の部屋には慣れていない。皆がいる前なら紳士を装う彼だが、1人になると本性を露わにする。散らかっている部屋を見ると、片付けずにはいられないのだ。
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その頃ベルは、2階左側の部屋に入っていた。
この部屋はエントランスに比べ、埃っぽさがほとんどなく、ジェイクが入った部屋のように骨董品が散らばっていることもなかった。
「おかしいな。何で何もないんだ?」
ベルは首を傾げた。エントランスにはあれだけ骨董品があったのに、この部屋にはひとつも、そんな物は見当たらない。何も無さすぎて、逆に気色が悪い。
そんな部屋に違和感を抱きながら、ベルは次の部屋へと進む。
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セドナたちは、中央通路を歩いて1番最初に目に入った部屋にいた。そこに入ったのは、ただ単に最初の部屋だったからではなく、セドナがその部屋にオーブが集まっているのを見たから。
その部屋は、ジェイクがいる部屋ほどではないが、骨董品が溢れかえっていた。部屋に入った3人はさっそく椅子らしきものが無いか、骨董品の山を掻き分け始めた。
「本当にそんなものあるんですかね……」
「呪いの椅子どころか、椅子すらこの部屋には無い気がするわ。でも本当に探したいものは、レイヴン・ゴーファーと事件を関連づけるものよ」
探せども探せども椅子らしきものが見つからず、セドナでさえ弱音を吐いていた。
しかし、彼女の言う通り、探しているものは椅子だけではない。そもそも椅子は後回しでもいいのだ。
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ジェイクは少しずつ目の前にある骨董品を手に取って確認しては、部屋の端から丁寧に並べ始めていた。捜索の方法にもそれぞれの人格が表れる。
「一体どれだけ集めれば気が済むんだ……」
果てしない骨董品の山を見て、ジェイクは弱音を吐かずにはいられなかった。これを全て確認するとなると、一体どれほどの時間が掛かるのだろうか。想像しただけで恐ろしい。
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三手に分かれて、それぞれがアドフォードで巻き起こる事件の謎を解く鍵を探す。有力な手がかりを見つけるのは誰か!?




