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第150話「検体番号1290」(1)【挿絵あり】

はじまる憑依の実験……


改稿(2020/11/05)

挿絵(By みてみん)


 翌る日の夕暮れ時、図書館通り脇には長蛇の列が出来ていた。長い列の先にあるのは、反帝国主義の集会所。その集会所には、ギギ、トラーバ、アスネッド、コーエンが、何も知らずにやって来る検体たちを待ち構えている。


 この日、集会所にはおどろおどろしい実験場が設けられていた。外部から見ても分からないように幾重にも重なったカーテンの奥に、憑依(ポゼッション)の実験場があった。カーテンの中には、直径3メートルほどの赤い魔法陣が描かれていた。この魔法陣を使って、“エルバの力に対抗する悪魔”を召喚するのだろう。


「何か皆を騙しているようで、良い気にはなれないな…」


「これも、ひとえにエルバの支配を終わらせるため。独裁を終わらせるためなら、皆喜んで協力してくれるはずだ」


 いよいよ目前に迫った憑依(ポゼッション)に、トラーバは畏怖の念を抱いていた。

 一方のコーエンは、民の思いが1つである事を信じていた。それがどんなに恐ろしい作戦であろうと、民は帝王による支配の終焉を望んでいると。


「準備は整った。最初の検体を呼んでくれ」


「分かった」


 実験開始まで、ギギは入念に黒魔術書(グリモワール)を読みふけっていた。一呼吸置いて黒魔術書(グリモワール)を閉じたギギは、アスネッドに検体を連れて来るように指示を出した。


「連れて来たわよ」


「……………」


 程なくして、アスネッドが1人目の検体を実験場に連れて来た。連れて来られたのは、若い女性だった。反帝国主義に賛同する彼女は、カーテンを潜るなり、途端に不安そうな表情を浮かべた。まるで血で描かれたかのような巨大な魔法陣が、彼女に恐怖を抱かせたのだろう。


「エルバの支配を終わらせたいか?」


「………はい」


「名は何と言う?」


「ユリアと言います」


 ユリアと言う女性は、反帝国主義をまとめ上げるギギを目の前にして、明らかに緊張していた。緊張と同時に、彼女は恐怖も抱いている。


「ユリア。さっそくだが、その魔法陣の中心に立ってくれるか?」


「…魔法陣ってこれですか?………ここに立って、一体何をするんですか?」


「今からお前の身体に、エルバを打ち砕くための力を呼び起こす。お前がエルバを崩すのに相応しい騎士の素質を持っていれば、その力を我が物とする事が出来るだろう」


「エルバを終わらせる力を……私が?」


 突然ギギから直接話を持ちかけられたユリアは、動揺を隠せなかった。悪魔の存在を知らない彼女は、これから自分の身体に悪魔が召喚されようとしている事を、夢にも思っていなかった。


「そうだ。エルバを終わらせる力が、欲しくはないか?」


「欲しい…です」


「それで良い。さあ、魔法陣の中心に立って」


 帝国を終わらせる力となれるのならば。その想いだけで、ユリアはギギの提案を呑む事にした。決して了承してはならない提案を、彼女は受け入れてしまったのだ。

 ギギに言われるがまま、ユリアは不気味な魔法陣の中心に移動した。


「出でよ、幻夢の支配者ジャッカス‼︎」


 ユリアが魔法陣の中心に立った事を確認したギギは、すぐさま悪魔の召喚に取り掛かる。


 ギギが口を閉じたのと同時に、実験場に眩いばかりの紫の光が走った。

 そして、青や紫色をした稲妻が実験場内を駆け巡る。それと同時に強烈な風も辺りをぐるぐると回っていた。まるで天変地異でも起きたかのようなその光景に、ギギ以外の全員が恐れをなしていた。


「俺を呼び寄せたのは誰だ?」


「私だ」


「悪魔である俺を呼ぶとは、大した度胸じゃないか」


 それまでの超常現象が嘘だったかのように収まると、ユリアの背後には巨大な悪魔が姿を現していた。頭に一対のツノを生やし、六対の翼を携えたジャッカスは、只ならぬ雰囲気をまとっていた。


 突如現れた恐ろしい悪魔にユリアは腰を抜かすが、ギギは悪魔を召喚する前と一切態度を変える事はなかった。


「私はお前に、憑依(ポゼッション)の契約を提案する。この者の身体を明け渡す代わりに、我らに力を貸してはくれないだろうか?」


「どれ、まずはその者が俺に相応しい器かどうか、見定めさせてもらおうか」


 さっそくギギは、ジャッカスに憑依(ポゼッション)の提案をした。目の前で堂々と、ギギがユリアの身体を悪魔に引き渡すと宣言したのにも関わらず、放心状態の彼女の耳に、その言葉は届かなかった。


「ぎゃあああああっ‼︎」


 憑依(ポゼッション)の提案を断る悪魔はいない。ギギの提案を受け入れたジャッカスは、さっそくユリアの身体に入り込む。ジャッカスが飛び込んだユリアの身体は、眩いばかりの光を放った。


 ジャッカスを宿したユリアの身体は、宙に浮かんでいた。この世のものとは思えないその現象に、ギギ以外の全員が釘付けになっている。宙を舞うユリアの髪は不気味にフワフワと動き、その目は蒼く光っていた。


 やがて、茶色だったユリアの長髪はみるみるうちに白へと変化した。頭部からは、ジャッカス同様に2本のツノが生え、背中からは2つの翼が広がった。ジャッカスが侵蝕(イロージョン)を試しているのだろう。


「…………」


「コイツではダメだ」


 ところが、すぐに彼女の姿は元通りになってしまった。普通の人間ユリアに戻った検体番号1番は、すぐにその場に倒れ込み、気絶した。ユリアの身体は、ジャッカスの望むものでは無かった。


「………次だ」


 そう言うギギの表情は、少し暗かった。まだ1回目とは言え、実験は失敗。これから、ジャッカスを受け入れられる身体を持った人間を見つけ出さなければならない。ギギは、少しも時間を無駄にしたくは無かった。


 続く検体番号2番も、ユリア同様ジャッカスを許容する事は出来なかった。それからギギを嘲笑うかのように、失敗は続いた。失敗が続けば続くほど、ギギの苛立ちは募って行く。気がつけば、その日 憑依(ポゼッション)の実験には、実に34もの検体が使われていた。


 それからと言うもの、何日経ってもジャッカスを許容する身体は現れなかった。何週間経っても、ジャッカスが納得する器は見つからなかった。

 ギギたちは来る日も来る日も実験を重ね、ギギだけでなく、他のメンバーもただ機械的に実験を行うようになっていた。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ギギは帝王エルバに対抗するための実験を始めるが、なかなか良い結果が得られない。

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