第148話「エルバの意志を継ぐ者」【挿絵あり】
ベルとナイトの前に姿を現した“単眼の紳士”。彼の目的、そしてその正体とは…⁉︎
改稿(2020/02/28)
「お前は“エルバの意志を継ぐ者”なのか⁉︎」
「ハハハハハ…ハハハハハハ‼︎」
「…何がおかしい?」
「失礼。全てを忘れてしまったお前が…いや、真実に目を向けず、偽りの中で生きているお前が滑稽でな」
単眼の紳士は、ベルやナイトが知らない事を知っている。この時、ベルは“真実に目を向けろ…偽りに惑わされるな”と言う古代のオーブの言葉を思い出していた。
「さっきから一体何の話をしているんだ?言葉で惑わそうとしても無駄だ。僕の質問に答えてもらおうか」
「まあ無理もない。こんな姿では、思い出せるものも思い出せまい」
「どんな姿だろうと、僕はお前を知らない。お前はなぜここにいて、何を企んでいるんだ?」
どうやら単眼の紳士はナイトの事を知っているようだが、ナイトは当然彼の事を知らない。今回のミッションの目的は不審人物の調査。ナイトは何を言われようと、相手の素性を探ろうとする。
「なぜここにいるかだと?よもやそんな質問をされるとは思ってもみなかった。当然だろう?この玉座は私のものなのだから」
「それはつまり、お前がエルバの後継者だと言う事か?」
「これじゃあ、話が堂々巡りだな。どうやらお前には、教えてやらなければならない事が山ほどあるようだ」
「“エルバの意志を継ぐ者”なのか、そうじゃないのか。早く答えてもらおうか。これでも、僕は黒魔術士騎士団・騎士団長直轄部隊M-12の隊長なんだ!」
単眼の紳士は玉座は自分のものだと主張するが、エルバの後継者である事は否定する。ナイトは、彼の考えている事が理解出来なかった。
「はぁ…仕方無い。まず、その考えを根本から捨て去ってもらおうか。“エルバの意志を継ぐ者”など存在しない」
「何を言っているんだ?騙そうとしても無駄だ!」
「全く……“エルバの意志を継ぐ者”など、存在する必要がないと言っているのだ」
「いい加減わけの分からない事を言うのは、やめてくれないか?」
単眼の紳士は、ナイトの理解を超えた発言を続ける。“エルバの意志を継ぐ者”が存在しないとは、一体どう言う事なのだろうか。これまでの一般的な見解の通り、“エルバの意志を継ぐ者”の存在は、ただの都市伝説だったと言う事なのであろうか。
「良いだろう。お前にも分かるように言ってやろう。エルバが存在しているのに、“エルバの意志を継ぐ者”など、必要ないと言っているのだ」
「……は?」
単眼の紳士が何度言い方を変えても、ナイトの理解は遠く及ばない。単眼の紳士は今、帝王エルバの存在に軽く言及したのだが、ナイトはそれが意味するところを理解出来てはいない。
「まだ分からんのか。私はエルバ。かつて繁栄していた帝国を治め、この玉座に座っていた者だ」
「……⁉︎」
そしてついに、単眼の紳士が自ら正体を明かす。バレンティスで目撃されていた不審人物の正体は、“エルバの意志を継ぐ者”などではなく、帝王エルバ本人だったのだ。
「帝王って死んだんじゃなかったのかよ」
「帝王エルバは、かのエルバ大戦で命を落としたはず…」
「エルバ大戦か…馬鹿馬鹿しいな」
帝王エルバは“エルバ大戦”と呼ばれる内乱で命を落とした。それは、世間一般に知られる史実。
しかし、今こうして帝王エルバを名乗る者が、エルバ大戦という言葉を笑い飛ばしている。
「ちょっと待ってくれ。分からない。そもそもなぜ、“久しぶり”なんだ?」
「それもそうだろう。“今のお前”は何も知らない。お前がなぜ殺人鬼なのか、なぜ私がお前を知っているような素振りを見せるのか。その疑問には、後々答えてやるとしよう」
帝王エルバは、なぜかナイトを知っている。
そして彼は、ナイトの知らないナイトを知っている。歴史上の人物が、なぜ今を生きるナイトの事を知っているのだろうか。
「仮にお前が本当に帝王エルバだとすれば、確実にお前はセルトリア王国を破滅させる方法を考えているはずだ。そんな危険人物と、話をする必要はない」
「全く……見事に洗脳されてしまったな。私はセルトリア王国も、リミア連邦も滅ぼすつもりなどない。そんなちっぽけな事に興味は無いのだ」
「そんな言葉には騙されないぞ‼︎」
対するナイトは、エルバの言葉に聞く耳を持たなかった。帝王エルバは、セルトリア王国やリミア連邦を創り上げた人々から滅ぼされたはずの存在。結果命を落とさなかったとしても、少なからず恨みは抱いているはずだ。
「それに、用があるのはお前と言うより、お前の隣にいるファウストの方だ」
「え、俺?」
思わぬエルバの言葉に、ベルは間の抜けた表情を浮かべる。帝王エルバは、ナイトのみならずベルの事さえも知っているらしい。
「余計なことは喋らなくていいよ帝王様。僕はアイツと直接会うために、アンタに協力してやった。それを忘れるんじゃないよ」
「誰だ?お前」
その直後、玉座の間に別の人物の声が響き渡る。それはナイトのものでも、ベルのものでもない。もちろん、エルバのものでもなかった。
突如として現れたのは、白い髪の少年だった。彼は上半身裸で、その顔や胸には赤いペイントが施されている。その瞳はベルと同じく緑色だった。どうやらこの少年も、ベルの事を知っているようだ。
「おやおや、覚えてないか」
「……………」
「…………………………」
「………………………………あ‼︎分かった‼︎」
「フン」
しばらく思い出せなかったが、ベルは目の前に現れた謎の少年の事を思い出す。確かにベルは、目の前にいる少年に会った事がある。
「フザけんなよ、結局お前誰なんだよ!」
「前にも言っただろう。僕は貴様で、貴様は僕。つまり、僕はベル・クイール・ファウストだ」
「はぁ?どう見てもお前は俺じゃないだろ」
突如として玉座の間に現れた人物の正体。それは“白い少年”だった。白い少年と言えば、アドフォードで突然ベルに襲い掛かって来た謎の人物だ。
「それが気に食わないなら、何か別の名前で好きなように呼ぶが良い」
「いや、意味分かんないから。お前の名前なんかどうでも良いし。俺は俺で、お前はお前。取り敢えず分かりやすく“B”とかで良いんじゃね?」
「なっ……もっと真剣に考えられないのか、貴様は!」
「頭おかしい奴に付き合ってる暇なんかねぇんだよ」
これまできちんとした呼び名の無かった白い少年に、ベルが名前を付ける。白い少年に対して興味の無いベルは、極端にシンプルな名前を付けた。そのあまりのやる気の無さに、白い少年は呆れてしまう。
「どうやら、“貴様は僕だ”。この言葉の意味がまだ分かっていないようだな…馬鹿め」
「馬鹿だと?馬鹿はお前の方だろが‼︎お前の言ってる事はな、そこにいる一つ目野郎と一緒で、意味分かんねぇの‼︎」
白い少年の言っている事は、帝王エルバのようにベルの理解を超えたものだった。自分と同じ顔をした人物に貶されたベルは、普段通り反発して大きな声を出す。
「良いだろう、教えてやる。どうせ今日は貴様の最後の日だ。僕は貴様のドッペルゲンガー。ある男に創り出された、お前のコピーだ」
「そこは自分でコピーって言っちゃうのかよ。てか“どっぺるげんがー”って何だよ」
自らコピーを名乗った白い少年に、ベルは思わずツッコミを入れる。白い少年は、何者かによって生み出された、ベルのドッペルゲンガーだった。
「馬鹿にも分かるように教えてやる。現状僕はまだコピー。だが、貴様のオーブを取り込む事によって、本物のベル・クイール・ファウストに成り代わる事が出来る。これからは、貴様の人生を僕が歩んで行くんだ」
ドッペルゲンガーは、コピー元のオーブを取り込む事によって、その人物に成り変わる。それは実に恐ろしい化け物だった。
加えてベルのドッペルゲンガーは、オーブを操る力を有している。油断すれば、彼の思惑通りオーブを盗まれてしまう危険性もある。
白い少年は自身の正体について明かすと、すでにボロボロになったステンドグラスの窓から、外に飛び出して逃げてしまった。
「あ、ちょっと待てコラ‼︎そんな説明で納得するとでも思ってんのか!」
「ベル君、何やってるんだい‼︎」
唐突に現れ、唐突に消えた白い少年を、ベルは咄嗟に追い掛ける。ナイトの制止も、時すでに遅し。ベルは白い少年を追い掛けて、玉座の間を出て行ってしまった。
「さて、お話を始めようか。ファウストの前に、お前の件も片付けなければな」
「………本当にお前が帝王エルバだとして、なぜ僕やベル君の事を知っているんだ?」
玉座の間には、ナイトとエルバ2人だけが残された。2人の間には、奇妙な空気が流れていた。
突如現れ、ナイトたちの理解を超えた言葉を投げかける、過去の帝王エルバ。彼の真の狙いは、一体何なのだろうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!
単眼の紳士の正体は、遠い昔に死んだはずの帝王エルバでした!
そして暫しの時を経て再び現れた“白い少年”。バレンティスでは、まだまだこれから波乱が起きそうです…




