第146話「古代のオーブ」(2)【挿絵あり】
「よしっ‼︎」
やがて、途切れ途切れになっていた炎の蛇は、綺麗に繋がり始めていた。地面を這って進んでいく炎の蛇は、程なくして鎧に到達する。膝や肘、肩と言った関節にある隙間から、炎の蛇は鎧内部へと侵入して行った。
「これでどうだ‼︎」
ベルのその声と共に、鎧内部へ侵入した炎の蛇は、急激に膨張を始める。肥大化した炎は鎧内部に収まる事が出来ず、ありとあらゆる隙間から、溢れ出して行った。
ところが、それでも鎧が炎によって溶ける事はなかった。
カタカタ…
鎧は音を立て始めると、さっきとは打って変わってピタリと動きを止めてしまった。相変らず鎧は炎によって溶ける事はないが、これまでの動きが嘘のように微動だにしない。鎧はそのまま魂が抜けてしまったかのように、倒れてしまった。
「まさか、内部のオーブを燃やしてしまったんじゃないだろうね…」
その様子を見たナイトは、ある可能性を考えた。古代のオーブを宿した遺物が動きを止めたと言う事は、そこからオーブが無くなってしまったと考えるのが自然だった。
カタカタ…
ところが、ナイトの心配をよそに、鎧は再び立ち上がる。鎧に宿るオーブは、消えてなどいなかったのだ。
「そうこなくっちゃ‼︎」
鎧との戦闘が終わっていない事に、ベルは素直に喜びを感じていた。ベルは鎧と向かい合い、さっそく両手に炎を灯す。
ベルは最初と同じように、赤い炎で鎧の全身を包み込んだ。最初と違うのは、鎧を包む炎が次第に小さくなり、鎧表面に膜を張るように広がっている点だ。
「炎の鎧の出来上がりだ!」
「ベル君。そろそろ遊びは終わりにしてくれないかい?」
戦闘にのめり込んでいるベルを見て、ナイトは時間の心配をしていた。高い耐火性を持つ鎧を前に、ベルはこれまで試せなかった事を試しているようだ。
「分かってますよ!そろそろ終わりにするぜ…」
一旦俯いたベルが再び顔を上げると、彼の2つの瞳は赤く染まっていた。顔の“印”が少し広がっているところを見ると、侵蝕を第2段階へと進めたのだろう。
「古代のオーブ、いただき‼︎」
その言葉と共に、ベルは一瞬にして鎧を包む炎の火力を上昇させる。その間も炎は鎧と同じ形状を保ったまま。ベルの黒魔術制御スキルも、確実に成長していた。
ジュー……
すると、さっきまでの耐火性が嘘だったかのように、鎧はドロドロに溶けてしまった。真っ赤に熱せられた鎧は、すでに形を留める事が出来なくなっていた。
鎧が溶けた事を確認したベルは、すぐさま侵蝕を第1段階へと引き戻す。大きな負荷が掛かる侵蝕だが、一瞬使うだけならば、そこまで負荷は大きくならない。
「ベル君、あれが古代のオーブだよ」
「へぇ〜」
ドロドロに溶けた鉄の塊の中から、1つのオーブが飛び出した。通常オーブはぼんやりとした青い輝きを放つものなのだが、古代のオーブが放つ輝きは緑色だった。
「おっと…忘れずに回収しなきゃな」
一瞬古代のオーブに見惚れていたベルは、思い出したようにオーブ・アブソーバーを取り出して前に進む。遺物からオーブを引き剥がしても、回収出来なければ意味がない。
ベルが近づくと、古代のオーブは人型に姿を変える。グレゴリオの言うように、古代のオーブはゴースト化しやすいのだ。鎧から放たれた古代のオーブは、長い眉と長い髭で顔を覆われた、老人のゴーストと化した。
“真実に目を向けろ…偽りに惑わされるな”
「何だ?」
オーブ・アブソーバーを握ったベルの手が古代のオーブに近づくと、古代のオーブは何やら意味深な言葉を投げかけた。ベルはその言葉の意味するところを、しばらく考え込んだ。
“古代のオーブは生前の意思を保ち、お前たちを惑わして来るだろう。奴らの声には耳を貸すな”
グレゴリオは、ベルとナイトにそんな事を言っていたが、ベルはそれを忘れてしまっていた。
「ま、いっか…」
その言葉を深く考える事を諦めたベルは、何の躊躇もなく古代のオーブを、オーブ・アブソーバーに収めた。ゴーストの言葉に惑わされる事なく無事オーブを回収したベルを見て、ナイトは安堵の息をついた。
「今回のミッションの最大の目的は、不審人物の調査。オーブ回収に関しては楽をしよう」
「?」
ナイトはそう言うと、突然目を瞑った。ベルには、ナイトの言葉も、考えている事も理解出来ていなかった。
それからしばらく時間が経つと、遺跡地区中の遺物がカタカタと音を立てて振動を始めた。その様子はまるでポルターガイスト。ベルは、その光景を少し気味悪く思っていた。
「すげぇ…」
直後、カタカタと振動していた遺物が動きを止めた。
そして、その全てから一斉に古代のオーブが解き放たれる。古代のオーブが遺跡地区上空を埋め尽くし、一帯を緑色に染め上げた。
目を開けたナイトが右手を天高く突き上げると、その手に吸い寄せられるかのように、緑色の輝きが集まって行く。
それから、もう片方の手に握られたオーブ・アブソーバーに、集められたオーブは次々と吸収されて行った。
「僕は、騎士団の中で最もオーブの回収に長けている。僕のドリーマーは、様々な意識と繋がる事が出来る。オーブも例外じゃないんだ。周囲のオーブと僕の意識をリンクさせれば、回収は簡単なんだよ」
「だったら、最初っからそうしてくれればいいじゃないですか…」
ベルが時間を掛けて行った古代のオーブ回収は、ナイトにとっては朝飯前。自慢げに自身の黒魔術を語るナイトに、ベルは少し機嫌を損ねていた。
ドーン‼︎
その時、突然遺跡地区に大きな衝撃音が轟いた。一体この音の発生源はどこなのか、ナイトとベルはすぐさま周囲を見回した。その音の正体は一切不明だが、この遺跡地区で何かが起こっている事は確かだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
謎の衝撃音の発生源で、ベルたちを待っているものは一体何なのか⁉︎
次回以降、謎のヴェールに包まれた不審人物の正体が徐々に明らかになっていきます!!




