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第140話「蒼い炎」(2)

 勝利を確信したユニは、横たわるジュディの元へ、ゆっくりと近づいて行く。砂の大地に倒れ込んでしまったジュディに、彼女はトドメを刺そうとしている。ベルを窮地に追いやったジュディは、いとも簡単にM-12に敗れようとしている。


「……………」


「ほう」


 ユニが数歩近づくと、ジュディはまるで何事も無かったかのように、すっくと立ち上がった。蒼い炎を受けても立ち上がったジュディを見て、ユニは純粋に感心する。


「そんなもんでウチを殺せると思ったの?相手が誰だろうと、油断してたらアンタの方が死んじゃうよ」


 ジュディが不敵な笑みを浮かべると、渇ききった砂漠の真ん中に、荒ぶる本流が発生した。どこからともなく湧き出て来る無尽蔵の水は、砂の大地を瞬く間に湖に変えて行く。


 優雅に手を振って水流を操るジュディは、もう片方の手に小瓶を握っていた。それは彼女がヴォルテールで、ベルから奪った星空の雫の瓶だった。さっきジュディが立ち上がったのは、星空の雫のおかげだった。彼女はユニの攻撃に耐えたわけではなかったのだ。


 小瓶をよく見てみれば、もう中身は空っぽ。つまり、もうジュディには後が無い。少しでも油断してユニの炎を受けてしまえば、さっきと同じように倒れてしまう。


「流石は、騎士団随一の水の黒魔術士(グリゴリ)だな」


 ようやく、ジュディの反撃が始まろうとしていた。ところが、ユニは一切これまでと態度を変えていない。口ぶりや態度からするに、彼女にはまだ奥の手と、奥の奥の手が残されている。おそらく、それでジュディを確実に仕留める自信があるのだろう。


「そろそろ、そんな悠長な事言ってられなくなるよ?」


 余裕を見せているのは、ユニだけではなかった。すでに自身の半径20メートルほどを水流で覆い尽くした彼女は、周囲に流れる水流の勢いをどんどん強めていた。


 やがて荒ぶる奔流は、龍を象る。この時アムニス砂漠には、マカッセ湖でベルを襲ったのと同じ水龍が、姿を現していた。


「ギャオオオオオ‼︎」


 水龍は雄叫びを上げ、間髪入れずユニに襲い掛かる。ユニは抵抗する事も出来ず、水龍の大口に呑み込まれてしまった。水龍が暴れれば暴れるほど、砂漠に出現した湖はどんどん拡大して行った。規模が大きくなるだけでなく、即席の湖は、水深もみるみる深くなって行く。


 水龍に呑み込まれたユニは、深い湖の底に沈んで行く。いくらM-12と言えど、水の中に沈んでしまえば無事ではいられない。


「下っ端を甘く見るからそうなるんだよ。これでも、ウチは女王様(クイーン)だから」


 あっと言う間に形勢を逆転させたジュディは、笑みを浮かべて砂漠の湖を眺めている。彼女は勝利を予感していた。だが、彼女の命を狙うのが1人だけではない事を忘れてはならない。


「さっさと掛かって来な!もうジュンは死んだ‼︎」


「…………」


 ジュディから少し離れた位置に、もう1人のM-12アレス・マーチが立っている。彼は最初からひと言も発することなく、ただジュディとユニの戦いを眺めていた。ユニが窮地に立たされた今でも、彼は動く様子を見せず、ただ黙って立っている。


「⁉︎」


 その直後、アレスが一切動かなかった理由が明らかになった。荒ぶる水龍に呑み込まれてしまったはずのユニは、なぜか水龍の体外、砂漠の大地に両足をつけていた。


 確実にユニは拘束されていたはずなのに、いとも簡単に自由を取り戻していた。そこにあるのは、まるで何もなかったかのように、涼しい顔をしているユニの姿だった。


「誰が死んだって…?」


「チッ……M-12はそう簡単に殺せないか」


「貴様は騎士団最強クラスの水の黒魔術士(グリゴリ)と聞いていたが、そんなんじゃオーガストの足元にも及ばない。いや、メイの足元にすら及ばない。その程度の龍で、私を押さえ込んでおけるとで思っていたのか?」


 ユニは、最初に対面した時と何ら変わらぬ涼しい顔で、ジュディを見つめていた。水を自在に操るジュディの名は、騎士団内でもそこそこ知れ渡っていた。だがそんなジュディでも、M-12であるユニの敵ではない。彼女はそれを実力で示していた。


「舐めんじゃないよ……まさか、これがウチの全力だと思ってるわけ?」


「悪足掻きはやめておけ。もう貴様も分かっただろう?貴様ごときの水では、私の炎は消せない。そろそろ潮時だ」


 威勢良く吠えるジュディの顔には、隠しきれない焦りが見て取れた。対してユニは終始涼しい顔で薄ら笑いを浮かべている。


 ジュディの一吠えに応えたユニは、その場から動く事なく両手を広げた。

 すると、先ほどと同じような蒼い炎がどこからともなく現れる。ユニが出現させた無数の蒼炎は、一斉にジュディに襲い掛かった。それは、最初にユニが攻撃した時と全く同じ光景だった。


「フザケてんのかテメェ‼︎」


 最初と全く同じ攻撃を仕掛けて来たユニに、ジュディは怒りを覚えていた。それはつまり、ユニは奥の手を出す必要がないと思っていると言う事だ。


 蒼炎は最初と全く同じようにジュディに襲い掛かって行く。ジュディは最初と同じように水流の盾を作る事はしなかった。

 彼女はその代わりに右手を突き上げ、自身を激しい水流の渦で覆い始めた。やがてジュディは完全に奔流の渦に包まれ、その姿が見えなくなってしまった。


 その刹那、無数の蒼炎は、奔流の渦に一斉に襲い掛かる。最初と同じように蒼炎は奔流に消される事なくジュディの身体に到達すると思われたが、結果は違っていた。


 蒼炎は奔流の渦を突き抜ける事なく、流れに沿って周囲の砂地にひとつ残らず飛ばされてしまったのだ。


「同じ手は通用しないよ。ウチを過小評価するにも、程があるんじゃない?ウチはそんなに簡単に殺されるような女じゃないよ」


 ジュディは蒼炎を水流で受け止めようとは考えていなかった。盗賊王イシャールがしたように、彼女は受け流す事で、蒼炎の攻撃を防いでいたのだ。炎が消せないのなら、退ければ良い。それが、ジュディがたどり着いた結論だった。


「いいや、むしろ評価しているさ」


 ユニがそう言った時には、すでにジュディは蒼炎に囲まれていた。しかも蒼炎はさっきの倍以上にも数が増えている。

 加えて、ジュディはあろうことか奔流の渦を解除してしまっていた。


 ジュディを囲む蒼炎は先ほどと違って、彼女のすぐ近くに待ち構えている。奔流の渦を発生させたところで、蒼炎を全て弾き飛ばす事は出来ない。距離が近すぎるのだ。


 ついにジュディ・アージンは絶体絶命の状況に陥った。不可思議なユニの蒼炎は、確実にジュディを死の淵に追い詰めている。

 今の彼女は無防備も同然。逃げ道などない。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


M-12の1人ユニ・ジュンの手によって、窮地に立たされたジュディ。ジュディに勝機はあるのか!?

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