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第139話「覚めない夢」(2)

「は?」


「へ?」


 いつもドジばかりのロコだが、この時はなぜか勘が冴えていた。彼女の言う通りなのだ。

 ところが、的を射たロコの意見を聞いても、ベルとリリはポカンとするばかり。彼らにとってロコの推測は、突拍子もないものだったのだ。


「決して知るべきではない騎士団の秘密を、ベルさんは知ってしまった。だから、記憶を消されてしまったのです」


「そんな事あるわけないじゃないですか〜」


「そうだよ、そんな事あるわけないじゃん」


 ロコの推測は当たっているのだが、ベルとリリがそれを信じる事はなかった。ベルは自身の記憶力に自信を持っているし、リリはベルが処刑された事など知る由もない。


「……………ベル、騎士団が雪男(イエティ)を造った事は当然知ってるよね?」


「……は?何言ってんだよ、雪男(イエティ)は魔獣だろ?そもそも魔獣って造れるものなのか?」


「嘘でしょ…………」


「これではっきりしましたね!どうやら私の推測通りのようです!」


 自分に自信が無くなったリリは、試しに雪男(イエティ)の真実についてベルに質問してみた。だが、ベルは雪男(イエティ)魔装具(マジック・アーマー)であった事さえも忘れてしまっていた。騎士団にとって不都合な記憶は、ベルの中から綺麗さっぱり消去されていた。


「ヴィンター商会でレオンさんから聞いた事は覚えてる?」


「何でロッテルバニアまで行って、あのムカつく野郎の顔を見なきゃいけねぇんだよ」


 スノウ・クリフの上で再会するまで、ベルにとってレオンはただのムカつく存在でしかなかった。ロッテルバニアでレオンに会ったという記憶まで、ベルは失ってしまっていた。


 それから、リリとロコはいくつかベルに質問した。ベルが何を覚えていて、何を忘れてしまっているのか。どこからどこまでの記憶が消されてしまったのかを、2人は確認したのだ。


「なるほど…これは厄介な事になってしまいましたね」


「記憶を消されたんじゃ、またやり直しじゃない…」


 話を聞いた結果ロコとリリは、ベルがレオンから聞いた騎士団にまつわる話、そして本部2階に潜入した際に得た全ての記憶を失っている事を確認した。結果的に作戦が上手く行かなかった事を知ったリリは、落胆する。


「ロコさん、記憶を取り戻す方法ってないんですか?」


「それは……諦めた方がいいかもしれません」


「どうして?」


 真っ先にリリが思いついたのは、ベルに記憶を取り戻させる事だった。記憶を消されてしまったと言う事は、ベルは何か大事な情報を得ていたはず。

 もう1度2階に進入するよりも、記憶を取り戻す方が簡単かもしれない。リリはそう考えていたが、ロコの表情は明るくなかった。


「失われた記憶を取り戻す薬はあると思いますけど、ベルさんがどうやって記憶を消されたか分からない事にはどうにも…」


「そんな‼︎」


「もう1度2階に進入する方が、簡単なのかもしれませんね…」


 ロコの言葉にリリは絶望する。呪いを解くのと同じで、どうやって記憶を消されたかが分からない以上、ベルの記憶を取り戻す方法はない。ベル自身は当然記憶を消された方法を目撃しているが、それもすっかり忘れてしまっている。


「何大騒ぎしてんだよ…そういえば、あのクソ団子はいないのか?」


「お姐様ですか?お姐様なら、今朝出て行ったっきり見てませんね」


 ロコとリリが真剣に話し合う中、ベルはジュディの事を考えていた。ベルはジュディのせいで大変な目に遭った。直接会って、その“お礼”がしたいのだろう。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 その頃、ジュディ・アージンの姿はアムニス砂漠にあった。果てしなく広がる砂色の中に、ポツンと1つ存在する黒。だだっ広い砂の大地を、彼女は1人で歩いていた。


「ったく……バディはどこで待ってるのかしら」


 ジュディは騎士団長グレゴリオよりミッションを授かり、この砂漠に足を踏み入れていた。彼女のつぶやきからして、バディは彼女よりも先にアムニス砂漠に到着していて、現地で合流する事になっているのだろう。


 歩けば歩くほど風が強くなり、吹き荒ぶ砂塵が視界を悪くする。ジュディはまだ見ぬバディの姿を求めて、気怠そうに歩き続けていた。


「ん?」


 しばらく歩いていると、ジュディ砂塵の中に人影を捉えた。ようやくバディの元にたどり着いたのか、それとも盗賊か。警戒心を緩めずに、ジュディはその人影に近づいて行く。


「アレス・マーチ…今回のバディはM-12様ってわけか」


「フン…」


 砂塵の中から姿を現したのは、盗賊ではなく騎士団の人間だった。それもただの騎士団員ではない。ジュディの目の前に現れたのは、赤い騎士団着に身を包んだM-12のメンバーだった。


 今回のジュディのバディはアレス・マーチ。彼は屈強な男だった。身長は2メートルほどあり、衣服の上からでも筋肉の鎧が見て取れる。緑色の髪は荒ぶるように逆立っており、顔の下半分は金属製のマスクで覆われている。


 バディであるジュディが現れても、アレス・マーチは何も言葉を発する事はなかった。


「M-12はマーチだけじゃないよ」


「ユニ・ジュン…何でM-12が2人もこんな所にいるの?」


 ジュディを待っていたのは、アレス・マーチだけではなかった。アレス・マーチの隣にはもう1人、M-12の姿があったのだ。


 もう1人のM-12ユニ・ジュンは、赤いショートヘアが特徴的な少女だった。前髪を右側だけ長く垂らしたアシンメトリーな髪型。ユニは独特の雰囲気を漂わせていた。彼女の身体はジュディと比べると小柄で、幼ささえ感じさせる。ただ、年齢はジュディとあまり変わらないようだ。


「アムニス砂漠でのミッション。そんなのはただの口実だ」


「あぁ〜なるほど、そういう事か」


 ユニがそう言うと、ジュディはたちまち状況を理解した。今回ジュディがアムニス砂漠に向かわされたのは、ミッションのためではなかった。そう考えれば、彼女がこれまで抱えてきた違和感も払拭出来る。


「ジュディ・アージン。騎士団への反逆の罪で、お前を処刑する」


「あらあら、M-12が2人掛かりとは光栄だわ。それにしても随分と遅かったね。もっと早く来るかと思ってたけど」


 ジュディがアムニス砂漠に来た本当の理由。それは、M-12によって処刑される事。ベルとレオンと目的こそ違うものの、ジュディも過去に騎士団を裏切っている。仲間を売るような真似をした彼女は、決して許されるべきではなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ついに第4章「失われた記憶」編がスタートしました!


部分的に記憶を失ったベル、そして窮地に立たされたジュディ。


次回は、ジュディVSマーチ&ジュンです!

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