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第22話「一難去ってまた一難」【挿絵あり】

ベルとセドナが炭鉱長の話を聞いていた頃、保安官事務所では……


改稿(2020/06/14)

Episode 5 : 呪いの椅子/The Cursed Chair


「クソ!出しやがれ‼︎」


 アドフォード保安官事務所内の、鉄格子に閉ざされた留置室。そこにロック・ハワード、シザーズ・バント、P.A.パーの姿はあった。炭鉱夫の幽霊たちに乗り移られたことをきっかけに、彼らはようやく逮捕されたのだ。


「少しは大人しくしたらどうだ?お前たちは賞金もかけられた悪名高い奴らだ。重い罰は免れない」


 ハメルは、留置室の向かい側の壁に寄りかかって

腕を組んでいる。


「てめえなんか、この俺様が焼き殺してやる!」


 ロックは怒りに燃えていた。黒魔術(グリモア)も使えないただの人間に拘束されたところで、彼は何も怖くなかった。ロックの右手には、燃え盛る炎が握られている。


 ハメルは魔法が使えない。それに、保安官事務所は木造だ。ハメルも、魔法を使われては困るはずだ。


「おっと!客が来たようだ」


 近くの窓から外の様子を確認したハメルは、ロックの相手をすることなく、保安官事務所の玄関へ向かった。


「チッ。どこまでも舐めやがって……」


 ロックが炎を握れば、誰もが恐れをなして言うことを聞く。ハメルは当然のごとく例外だった。


 しばらくして、ハメルが3人の客人を連れて来た。


「こちらです」


 ハメルは真剣な表情で、客人に話しかける。


 呼び込まれた3人の客人は、深緑色のコートに身を包んでいた。胸のあたりには、SとKをモチーフにしたエンブレムがあしらってある。


「なるほど。彼らがこの町で、何年にも渡り悪事を働いていた"じゃんけんトリオ"と言うことか」


 客人の代表と思われる男が、最初に口を開いた。アドフォードの悪党3人は、その名前がじゃんけんを連想させると言うことから、そういう呼び名も持っていた。


「てめえら何者だ⁉︎」


 ロックは威勢よく吠える。一方で、とりまきのシザーズとパーは、俯いた顔を上げることはなかった。


「これはこれは失礼。申し遅れた。我々はセルトリア王軍の人間。私はクレオ少尉だ」


「…………」


 それが何を意味するのか、ロックはすぐに理解した。


「すぐに、お前たちをロッテルバニア収容所に連行する。保安官殿に無駄な時間を食わせるわけには行かない」


 クレオは淡々と説明した。彼らは簡易的な留置所から、管理の行き届いた収容所へと身柄を移されるのだ。


 ロッテルバニアは、セルトリア北部に位置する山岳地帯。極寒の地としても有名で、そんな場所にある収容所での生活はとても耐え難いものだろう。


「そう言えば保安官殿。リミア政府から、この町に凶悪犯が逃げ込んだとの知らせを受けたのだが、その件はどうなっている?」


「あ、あぁ……それがまだファウストの行方は掴めていません」


 ハメルは申し訳なさそうに取り繕う。間違っても、ここでベルと面識があると言うことは出来ない。


「………なるほど」


 クレオはそう言うに留まった。彼はハメルに失望したのだろうか。表情を変えない彼の顔からは、それを判断することは出来なかった。


 そしてそのまま、クレオは鉄格子の鍵を開けた。


「さあ来い」


 クレオに続き、残り2人の王軍の男たちも鉄格子に近づく。


「へへへ…俺様を簡単に捕まえられると思うんじゃねえ」


 ロックは両手に炎をまとわせる。彼はここで、絶対に負けるわけにはいかなかった。負けたら地獄行きだ。


「死ねぇー‼︎」


 豪炎をまとった両手で、ロックはクレオに掴みかかる。その時の気迫は、クレオを殺してしまうのではないかと思わせるほどのものだった。


「⁉︎」


 ところが一瞬にして、ロックの両手はクレオに掴まれてしまった。それでも尚、その手には炎が燃え盛っている。このままでは、クレオは焼かれてしまうはずだ。


 だが、その心配はすぐに消え去った。クレオの背後にいた別の男が、黒魔術(グリモア)で水を発生させ、いとも簡単に豪炎を鎮火してしまったのだ。


「馬鹿が。現に、簡単に捕まっているではないか」


 クレオはロックを嘲笑(あざわら)った。所詮は教養もない、辺境の地の悪党。そんなロックが、厳しい訓練を耐え抜いて来た軍人に敵うはずはなかった。この事が、ロックの戦意を喪失させた。


 ほどなくして、この町に野放しになっていた3人の悪党は、この町を追放された。この先彼らを待つのは、凍え死ぬほど寒い密室だ。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 その数十分後の保安官事務所。


 勢いよく開き戸を開いて保安官事務所に入って来たのはベル、セドナ、そしてゴーストである炭鉱長だった。


「お、やっと帰って来たか」


 振り返ったハメルは、ベル、セドナと順番に視線を移し、その隣に見知らぬ顔を確認する。炭鉱長は他のゴーストより姿がハッキリしているため、最初はそれがゴーストだと知らずに、ハメルはまじまじと見つめてしまった。


「わっ‼︎」


 直後、ハメルは大きな声を出して後ろに仰け反る。目の前に、大嫌いなゴーストがいることを理解したのだ。


 その様子を、セドナは口許を弛ませながら眺めている。炭鉱長を連れて帰ると決まった頃から、セドナはハメルの驚き怯える顔を、頭の中で思い浮かべていたのだ。


 その顔が思い描いた通りに再現されたために、彼女は笑いを堪えられず、プッと声を漏らした。


「セ、セドナ‼︎何でゴーストなんか連れて来るんだ‼︎」


 ハメルは人が変わったように取り乱し、子どものようにセドナに抗議している。


「これには色々と事情があるの。それにしても……いつになったら……あなた…ユ〜レイをこ…克……克服出来るのかしら」


挿絵(By みてみん)


 セドナの笑いは、しばらく止まらなかった。この世界に、彼ほど幽霊に怯える者がいるだろうか。ハメルの顔を見る度に色んな考えが頭に浮かび、セドナの中で笑いの連鎖が止まらない。


 しばらくしてセドナの笑いが収まると、ベルとセドナ、そして炭鉱長は30年近く前の炭鉱夫たちの様子を説明した。ずっと話しているうちに、ハメルは炭鉱長がそこにいることには慣れたが、どうしてもゴーストを克服出来ない様子。彼は炭鉱長の姿をしっかりと見ることが出来なかった。いつだって目を細めて見たり、足元だけを見たりしている。


「なるほど……それは難しい事件だ。レイヴン・ゴーファーの屋敷を調べて、奴についての手掛かりを探すのが最善の策だろうな。俺もあの屋敷は怪しいと思っていたんだ」


 ハメルは3人から聞いた話を頭の中で整理し、おおむねベルとセドナのやろうとしていることに賛同した。


「俺は一旦ハウゼント医院に戻って、ジェイクさんに話をして来ます」


 ベルはさっそく事件解決に動こうとしている。


「ハウゼント……探偵まがいの医者か。まあ少しは役に立つだろう」


 どうやら、ジェイクがアドフォードに起こる事件について推理したり、真相を暴こうとしたのはこれが初めてではないようだ。自分の仕事に割って入って来るジェイクを、ハメルはあまり良く思っていなかった。


「今日は色々あったから、ゆっくり休みなさい。明日になったら私がそっちに行くわ」


 セドナはベルを(ねぎら)った。新たな事件を追うと、また新たな謎が湧き出て来る。事件を解決しようとすればするほど、頭を抱えたくなるような謎がわんさかと。一体この町には、何が隠されていると言うのだろうか。


 死んでもなお、消えない怒りの炎。それを消す手掛かりは、果たして見つかるのだろうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


今回はクールビューティーなセドナちゃんが爆笑しました笑


ようやく第1章も後半に突入!!

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